爆発的に売れている自動車保険 人気の秘密は「事故後も保険料が上がらない」
「事故を起こして、車の修理代を損保会社に請求しようと思ったら、『そのくらいの金額で保険を使ったら、来年から保険料がグンと上がるのでソンしますよ』と担当者に言われました。結局、自腹で払ったのですが、いったい、何のための保険なんだか……?」
そんな体験をした人は、多いのではないだろうか。
その理由は、2013年10月から導入された『事故有等級制度』にある。
交通事故を起こして自動車保険を使うと、その金額にかかわらず、 “ペナルティ”として、次の等級がダウンし、満期更改時に支払う保険料が約5割増しとなり、それが3年間も続く。契約者にとってはかなり厳しい制度だ。
たとえば、年間保険料を10万円支払っている契約者が事故を起こし、保険金を請求すると、その後の3年間だけで、保険料が15万円もアップしてしまうという計算になる。
損害額が数百万、数千万円といった高額ならともかく、軽微な事故で、今後も自動車保険をかけ続けるユーザーの場合は、「自腹で払っておいた方が先々トク」という判断になるわけだ。
「保険を使っても1回までなら割増なし」の画期的商品
そんな中、「保険を使っても1回だけなら割増がない」という画期的な自動車保険が、昨年から発売されているのをご存じだろうか?
この商品を開発した朝日火災海上保険の広報課長・山本淳氏は語る。
「保険は本来、お客さまの“万が一”の備えでなくてはいけません。保険料が上がるのが心配で、使いたいときに使えない保険ではお客様にとって無意味です。そこで当社では保険のあるべき姿を原点に考え、保険期間を6年とすることでそのメリットを最大限に引き出しました」
通常の1年契約ではなく、6年という長期契約にすることで、1回までなら保険を使っても割増はなし。さらに、保険料の支払いも、一括から月払いまで自由に選ぶことができるという。
自動車保険の長期契約は元々リース会社のために出来た契約形態で、大手損保も扱ってはいる。しかし、保険料は一時払いのみなのでどうしても高額になる。その壁を打ち破ったのが朝日火災だ。
大手損保契約者の8割が”乗り換え”
青森県八戸市の保険代理店、山手保険事務所の佐々木正志代表は語る。
「『ASAP6』は、昨年から爆発的な売れ行きを見せています。契約期間中1回までなら保険金を請求しても割増がないというのは契約者にとって大変ありがたいことですし、そもそも保険料が他社より安いのです。実際に当事務所では、複数の損保会社の商品を扱っているのですが、この商品の内容をご説明すると、東京海上で契約されていた方のうち、約8割のお客様が次の満期時に朝日火災のASAP6に切り替えておられます。保険料が安くなるということは当社の手数料収入の減少につながり、現実には厳しい部分もありますが、お客様のメリットには代えられません」
朝日火災海上保険によると、同社の自動車保険の新規契約対前年度比増収率(2016年4~9月)は、複数の損保会社の商品を扱っている乗合代理店の合計で約9倍、訪問販売代理店(9社平均)で約12倍というめざましい伸びを見せているという。
ただし「ASAP6」に新規加入、また満期時に更改するには、次の条件を満たしていなければならない。
1) 無事故割引が6等級以上の人
2) 事故有等級適用期間(割増期間)が4年未満
3) 契約時の年齢が69歳以下
つまり、ハイリスクのドライバーは入りにくい設定となっているが、逆に、無事故割引を続けている優良契約者にとってはかなりお得な商品と言えるだろう。
自動車保険の収益増加 背景には契約者の『自腹』
損保協会は来年4月から自動車保険の参考料率を平均8%引き下げると発表した。
業界側は、利益を生んだ背景について、追突防止装置等の普及による支払いの減少があったと説明しているようだ。
しかし、『事故有等級』の導入による請求控え、つまり契約者の『自腹』分もその一因になっているのではないか。
ちなみに、事故を起こした契約者のうち約3割がこの理由で保険金請求を控えているというが、そもそも、少額の保険金請求にまで現状の厳しい割増制度は必要なのか?
さらに、保険を使った場合の保険料の割増分も、相当な収益を生んでいると予想される。
「お客様の中には、手持ちのお金がないために、損をするとわかっていても保険を使わざるを得ない人もいるのです。しかし、損保会社は少額の保険金を支払って、次の契約からは多額の割増保険料を取り、大きな収益を上げている。これでいいのでしょうか? 朝日火災は業界シェアーが0.5%程度。この小さな会社が1回までの請求なら割増無しという商品を販売できたのです。大手各社は無視を決め込みながらも、実は戦々恐々で、朝日火災との乗合を考えている代理店の動きを阻止しているようです」(前出の佐々木氏)
大手がこの保険にどう対抗するのか? 注目していきたい。