なぜシティはハーランドを“即フィット”させられたのか?グアルディオラの勝利に向かう方程式。
この夏、去就に大きな注目が集まった選手だった。
アーリング・ハーランドは昨季、ボルシア・ドルトムントで公式戦30試合に出場して29得点をマークした。レアル・マドリー、バルセロナ、パリ・サンジェルマン、バイエルン・ミュンヘンと複数クラブが獲得に動く中、マンチェスター・シティが契約解除金6000万ユーロ(約84億円)を支払い、ハーランドの獲得を決めた。
■移籍の決断
今夏、多くのアタッカーが移籍を決断した。
ロベルト・レヴァンドフスキ(バルセロナ/前所属バイエルン)、ロメル・ルカク(インテル/チェルシー/レンタル)、サディオ・マネ(バイエルン/リヴァプール)、ダルウィン・ヌニェス(リヴァプール/ベンフィカ)...。なかでも、大きなインパクトを残しているのがハーランドである。
「移籍先を選ぶ時、監督について考えたことはなかった。けど、シティにペップ・グアルディオラ監督がいるというのは、アドバンテージだった。彼は世界最高の監督だから」とはハーランドの移籍を決めた後の言葉だ。
「僕は子どもの頃から世界一のサッカー選手になりたいと思っていた。そして、今、その道にいる。お金は最大の動機にはならない。もちろん、5000クローネ(ノルウェーの通貨)の仕事と1万クローネの仕事があって、同じ仕事量だったら、後者を選ぶけれどね」
■グアルディオラの存在
シティは2016年夏にグアルディオラ監督が就任した。以降、イングランドと欧州で地位を確固たるものにしてきた。
シティが強くなった背景には、グアルディオラ監督の手腕がある。しかし、それだけではない。フェラン・ソリアーノCEO、チキ・ベギリスタインFD(フットボールディレクター)が彼を支えてきた。三者はバルセロナ時代に共に働いた仲で、確かな信頼関係を築いている。
シティはグアルディオラ監督と2023年夏まで契約を結んでいる。ただ、現在、2025年夏までの契約延長を準備しており、中長期のスパンでプロジェクトが進められている。
そのグアルディオラ監督は近年、シティでゼロトップを試してきた。ベルナルド・シウバ、ケヴィン・デ・ブライネ、フィル・フォーデンといった選手が、そのポジションで起用された。
ゼロトップはグアルディオラ監督がバルセロナ時代に採用して大きな成功を収めた戦術である。
リオネル・メッシを3トップの中央に配置して、フリーマン的にプレーさせる。中盤に降りてくるメッシを相手守備陣が捕まえるのは容易ではなく、ボール保持率を高めた上に、最後には再びゴール前に現れたメッシがフィニッシュするという形が成り立っていた。
だが、やはりメッシという神に選ばれたような選手がいるか否かは大きかった。バルセロナ時代、グアルディオラ監督は4年間で14個のタイトルを獲得した。チャンピオンズリーグでは、2度優勝を果たしている。しかしながら、シティでは未だビッグイヤーを掲げられていない。
■フィニッシャーという鍵
グアルディオラ監督が変化を求めていたのは明らかだ。
昨年夏、シティはハリー・ケインの獲得を検討していた。だがトッテナム側がケインの移籍を容認せず、交渉は破談に終わった。ただ、ここで重要なのは、ストライカーの獲得に動いていたという事実だ。
ケインとハーランドは異なる。CFでありながらゼロトップ的に動けるケインに比べ、ハーランドは典型的な9番タイプだ。ポストプレー、スペースへのランニングをこなすが、最終的にはボックス内に侵入してフィニッシュワークに絡んでいく。
一方で、シティはグアルディオラ監督が就任してからポゼッション・フットボールの質を高めてきた。ゼロトップだけではなく、偽サイドバックを含め戦術の練度を高め、後方からビルドアップを行いながらゴール前に迫るやり方で勝利への方程式を組み立ててきた。不足していたのはフィニッシャーで、そのためのハーランドの獲得だった。
「ハーランドはスペシャルな才能を持っている。信じられない決定力を有している。ボールとのコンタクトが全くなくても、ファーストタッチでシュートを決めてしまう」
「多くの面で優れている。しかし、やはり、決定力だよ。ゴールの臭いを感じ取れる。彼のフィニッシュはファンタスティックで、仕事における倫理もまた素晴らしい。彼の仕事ぶりに満足している」
これはグアルディオラ監督のハーランド評だ。
ハーランドは今季、公式戦で11試合に出場して17得点を記録している。先のマンチェスター・ユナイテッドとのダービーではハットトリックを達成。ここまでは申し分ないパフォーマンスだ。
ただ、真価が問われるのはチャンピオンズリーグの舞台とビッグマッチだろう。ゴールをこじ開けるための鍵にーー。それがハーランドに要求される役割だ。