落選した韓日議連会長が尹政権No.2の大統領秘書室長に就任! 尹大統領の狙いは?
先の国会議員選挙(総選挙)で与党「国民の力」が全議席(300議席)のうち3分の1程度(108議席)しか獲得できず、大敗したため「植物政権になった」と揶揄されている尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権はレームダックを防ぐため大統領秘書室長に党の重鎮である鄭鎭碩(チョン・ジンソク)前議員(63歳)を起用した。鄭氏は韓日議員連盟会長のポストにある。
韓国の大統領秘書室長は日本に例えれば、官房長官のようなポストで、北朝鮮に例えれば、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の代理人と称されている金与正(キム・ヨジョン)党副部長のような存在である。与党の代表よりも権限があり、実質No.2と言っても過言ではない。
政治部記者出身の鄭氏は1999年に地元(忠清南道の公州)出身の故金鍾泌(キム・ジョンピル)「自由民主連合(自民連)」総裁の特別補佐官として政界に入門して以来、保守の道を歩んできた保守本流の政治家である。
李明博(イ・ミョンパク)政権下では青瓦台(大統領府)政務首席秘書官、朴槿恵(パク・クネ)政権下では党No.2の院内代表、国会事務総長などを歴任し、そして今の尹錫悦政権下では国会副議長の要職を重ねてきた、党内では数少ない当選5回のベテラン議員である。
しかし、4月10日に実施された選挙では文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で初代青瓦台代弁人、青瓦台国民疎通秘書官を担った「共に民主党」の朴洙賢(パク・スヒョン)候補(59歳)との3度目の対決で48.4%(59855票)対50.7%(62635票)と、僅差(2780票差)で敗北し、6選を阻まれ、涙を呑んでいた。
尹大統領は鄭秘書室長の抜擢理由について政治キャリアが豊富であるこや国会、野党に精通していることなどを挙げていたが、おそらく最大の理由は、同じ歳の鄭氏が与党の中では3本の指に入る「親尹」であるからに他ならない。
少数与党の「ねじれ国会」で前途多難な政権を運営するには野党の協力が不可欠とされるが、「政権審判」を選挙スローガンに掲げて選挙を戦った最大野党の「共に民主党」や「第3政党」に躍進した「祖国革新党」も強硬派の鄭氏の秘書室長起用は野党の攻勢に正面から対抗するための「布石」とみなすかもしれない。
野党が鄭氏を「危険人物」あるいは「タカ派」とみなすのは、「共に民主党」が信望している故盧武鉉元大統領についてかつてSNSで「夫婦喧嘩をし、夫人が家出したため盧大統領は自ら命を絶った」と発言し、また2018年の地方自治体選挙で敗北した際には「セウォル号のように完全に沈没してしまった」など、問題発言を繰り返していたことにある。
国内の問題だけでなく、日韓関係に関する発言も野党は「問題児」として批判してきた経緯がある。
例えば、2021年11月に金昌龍(キム・チャンリョン)警察庁長官(当時)が竹島(韓国名:独島)上陸したことに日本政府が反発し、日米韓外務次官会談後の共同記者会見を拒否したことがあったが、当時国会副議長として朝鮮通信使委員会訪日団を引率して来日していた鄭氏は「よりによってなぜこのタイミングで上陸するのか」とコメントしたことに「共に民主党」は「日本寄りである」との批判を浴びせていた。
また、2022年10月11日の自身のホームページには「朝鮮は日本からの侵略ではなく、中から腐って崩れ落ちたのだ」とか、「日本は国運をかけて清国やロシアを制圧し、倒れ掛かった朝鮮王朝を飲み込んだのだ」と書き込み、さらに2023年3月20日にはラジオ番組で尹大統領が日韓首脳会談で屈辱的な対応をしたと非難する世論に「植民地コンプレックスから抜け出そう」と発言していたが、「共に民主党」は今回の総選挙でこれらの発言を問題視し、選挙終盤の4月8日に絶対に当選させてはならない7人の与党候補のリストの中に鄭氏の名前を挙げていた。
裏を返せば、尹大統領の韓日議連会長の起用は尹大統領が選挙の結果に関係なく、日韓関係を今後も進めていくことの強い意志の表れと言えなくもない。尹大統領の人選が吉と出るか、凶と出るか、野党の反応が注目される。