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韓国総選挙野党の圧勝で日韓関係は前途多難! 根拠なき日本の「楽観論」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
最大野党「共に民主党」の林五卿報道官(林五郷議員事務所のHPから)

 与党「国民の力」が大敗した韓国の総選挙では外交は主な争点とはならなかったことから尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の対日政策が軌道修正されることはないと、どうやら岸田政権は日韓関係の将来を楽観視しているようだ。

 確かに初志貫徹の尹大統領は今のところ、日本との関係を後退させることは毛頭考えていないようだ。その証拠に今年の「日本の外交青書」に竹島(韓国名:独島)が日本の領土と明記されていると韓国のメディアが騒いだ翌日(17日)に尹大統領は岸田文雄首相からの電話を受け、15分間にこやかに会談をし、岸田首相の訪米報告に感謝の意を伝えていた。

 韓国大統領室は「両国は昨年7回の首脳会談を通じて強固な信頼関係を積み上げた。双方で形成されたこの前向きな流れを今後も続けられるよう、今年も首脳同士あるいは外交当局による意思疎通を継続し、両国関係発展に向け努力を重ねていきたい」とコメントしていたが、尹政権は日韓修復を「外交成果」と捉えているので至極当然のコメントである。

 外交は大統領の「特権」でもあり、専売特許である。従って、尹大統領が健在である限り、日韓関係は不変である。しかし、大統領の求心力が衰え、レームダックに入るようなことになれば、任期最後の年にレームダック化を恐れ、政権浮揚を狙い、竹島に上陸した「親日派」の李明博(イ・ミョンパク)元大統領のように豹変する可能性もゼロではない。

 韓国の最新世論調査「韓国ギャラップの調査、4月11-13日」と「エムブレインパブリック、ケイスタト、コリアリサーチ、韓国リサーチの4社共同調査、4月15―17日」によると、尹大統領の支持率はいずれも27%と、30%を割り込んでいた。岸田首相の支持率23%(NHK4月5-7日、共同通信4月13-15日)よりも4%高いだけだ。

 支持率が30%を割ったことは過去にも1~2度あり、また支持率は上下するので尹大統領はさほど意に介していないかもしれないが、国会で弾劾され、最後は罷免された朴槿恵(パク・クネ)元大統領の例を見ると、20%台はレームダックへの黄色信号である。

 議会で過半数を上回る175議席を得た最大野党「共に民主党」は早速、尹大統領と岸田首相の電話会談に噛みつき、尹政権の対日外交を痛烈に批判していた。

 同党の林五卿(イム・オギョン)報道官は昨日、国会記者会見で「2日前に日本政府が『独島は日本の土地だ』と主張し、強制動員の補償に関する判断についても『容認できない』立場を取っただけでなく、昨日は我が政府の抗議を『受け入れられない』と述べたことについて尹大統領は日本政府の恥知らずさについて(電話で)なぜ一言も言わないのか」と批判していた。

 林報道官は「政府の抗議すら拒否する日本政府と、一体どのような協力関係を築くつもりなのか?」と尹政権を揶揄したうえで「この2年間、未来志向の韓日関係に便乗し、日本の過去史を隠蔽し、日本の再武装計画を幇助し、核汚染水の放出を黙認してきたのに(日本から不意打ちを食らうとは)本当に情けない」と尹政権を指弾し、「日本政府が我が政府に抗議することすら拒否する姿勢は尹錫悦政権の屈辱的な対日外交が破綻したことを明確に示している」と実に手厳しかった。そして、最後に尹大統領に対して「一日も早く、対日屈辱外交が破綻したことを受け入れて、大韓民国の主権と国益、国民の自負心を守る外交を行うよう望む」と、注文を付けるのも忘れなかった。

 昨日は、市民団体も野党に加勢し、独立・解放運動家とその遺児、子孫から成る「光復会」は33の独立運動団体連合会と共同で声明を発表し、「日本政府が独島に対する領土的野心を手放さずにその一方でパートナーとして友好的に振る舞うのは帝国主義の本性を露呈する『羊の皮をかぶったオオカミ』である」と日本を批判する一方で、「我が国防部も国軍の精神力に関する教材で我が領土から独島を省き、戦犯期である旭日旗の掲揚を黙認し、日本との合同演習を何の問題意識を持たず行っている」として、尹政権に「痛烈な反省」を迫っていた。これら市民団体は今日(19日)午後に日本大使館前に設置されている「慰安婦像」の前で対日糾弾集会を開くようだ。

 「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は韓国政界の中では急先鋒の反日政治家で、日米韓海上合同訓練にも尹政権が打ち出した元徴用工問題の「第3者弁済解決策」にも、また原発処理水の海洋放出にも反対の立場を貫いている。尹大統領が文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の対日姿勢を批判していたように李代表もその逆に、尹大統領の対日姿勢を扱き下ろしている。

 「大韓民国は解放後も既得権を維持していた親日勢力の反発により親日残滓を清算する機会を失ってしまった。その負を我々は今も引きずっており、忘れたと思ったら毒キノコのように生えてくる過去史に関する妄言もまた親日残滓をきっちり清算できなかったことにある」というのが持論で、選挙では有力な候補を擁立し、日本との関係修復に動いた「知日派」の朴振(パ・チン)前外相と韓日議員連盟の鄭鎭碩(チョン・ジンソク)会長を引きずり降ろしていた。

 また、選挙で台風の目となり、第3党に躍進した「祖国革新党」の代表である曺国(チョグク)元法相は韓国国内では文在寅政権下の2019年に「日本製品不買運動」を主導したことで知られている、李代表に輪をかけた屈指の「反日政治家」である。

 今回の選挙には前回当選した市民団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(略・正義連、旧・挺対協)」の尹美香(ユン・ミヒャン)前代表は出馬しなかったが、彼女が消えても、より強硬な曺国氏の存在は日韓にとっては「時限爆弾」のようなものである。

 尹政権は元徴用工問題で昨年3月に「第3者弁済」の受け皿として行政安全部傘下に「日帝強制動員被害者支援財団」を設置したが、このまま日本企業からの寄与が皆無の状況が続くようだと、日本の期待に反し、窮地に陥った尹政権が対日外交の軌道修正を図らないとは断言できない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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