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ウルトラマンはマッハ5で空を飛ぶ。あの体勢でそんなことをしたら、いったい何が起こる?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

ウルトラマンは、マッハ5で空を飛ぶ。とてつもないスピードである。

「マッハ」とは音速の何倍かを表す単位で、音速(マッハ1)は、気温15度のとき秒速340m=時速1224kmだ。

ウルトラマンのマッハ5は、時速1224km×5=時速6120km。新幹線の20倍という猛スピードなのだ。

ウルトラマンに限らず、その後のヒーローや怪獣たちも、空を飛ぶ速度は必ずといっていいほど「マッハ」で表されてきた。

もちろん、現実の世界にも超音速で飛ぶものがあり、たとえば航空自衛隊のF15イーグルの最高速度はマッハ2.5だ。

ジェット戦闘機がマッハ2.5で飛べるのなら、M78星雲からやってきたウルトラマンがマッハ5で飛ぶのも不思議ではないだろう。

だが、彼らが活動するのは地球なのだ。その大気中を超音速で飛行すると「衝撃波」が発生してしまう。

ウルトラマンや怪獣たちがすごい速度で飛ぶと、どんなことが起こるのか? 本稿では、衝撃波の恐ろしさを考えてみたい。

◆衝撃波を作図する

物体が大気中を超音速で飛行すると、先端から衝撃波が発生する。

衝撃波とは、そこにだけエネルギーが集中した「空気の壁」で、真横から見ると三角形、実際には立体で、ソフトクリームのコーンのような形をしている。

これが地上に達すると、人間には「ダン!」とか「ギン!」といった耳をつんざく音として聞こえ、窓ガラスを割るなどの破壊力を持つ。その威力は、物体が大きく、速度が速く、距離が近いほど強くなる。

超音速で飛行するヒーローたちは、この衝撃波を発生させながら空を飛んでいるはずだ。すると、街はどうなってしまうのか?

たとえば、身長40mのウルトラマンが、高度1kmをマッハ5で飛んだ場合、ウルトラマンの進路から左右に3.3kmずつの幅で、下界の窓ガラスはバリバリ破れ、人々はバタバタ失神する。ウルトラマンの飛行速度に合わせて、被災地域もマッハ5で前方に広がっていくのだ。

これは大変。怪獣を勝手に暴れさせておくのとどっちがマシか、という話になりかねない。

ウルトラマンにはもう一つ認識してもらいたいことがある。

それは、超音速で飛行している物体自身も、自分が生み出した衝撃波から逃れられない、という事実だ。

超音速で運動する物体から発生する衝撃波の形は、次のような作図によって求められる。

①半径1の円を描く

②円の中心から、マッハで示された数値の長さの直線を描く。たとえば、マッハ2だったら、円の半径の2倍の長さになる

③直線の先端から、円の接線を2本引く

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

2本の直線で作られたくさび形の図形が、横から見た衝撃波の形である。前述したように、実際には立体なので、正確にいえば円錐の側面だ。

速度が速いほど、先端の角度は小さくなる。そして衝撃波を発生させている物体自身も、そのコーンからみ出せば、衝撃波を受けてしまうのだ。

超音速機の翼が細長い三角形になっているのは、自分が発生させた衝撃波のコーンからはみ出さないためでもある。F15イーグルはマッハ2.5で飛行するが、このときにできる衝撃波の先端角は47度。しかしあの形ならはみ出さない。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆ウルトラマンはどうなるか?

ところが、ヒーローや怪獣たちは、そんなことを気にしている様子がない。はみ出しまくりである。

たとえば、宇宙怪獣キングギドラの場合。

ゴジラ最大の敵であるこの怪獣は、マッハ3で空を飛ぶ。

だが、流線形からほど遠いあのスタイルで音速を超えるのはキケンすぎる。マッハ3だと円錐の先端角は39度だから、間違いなく翼を直撃する。

しかもこの怪獣はアタマが三つもある。どの頭も、他の2つの頭から発生した衝撃波を受けてしまうのだ。

これなら、宿敵のゴジラは何もする必要はない。飛んでくる途中で3つの首が吹っ飛んで、映画は「完」となる。

キングギドラに比べると、ウルトラマンの飛行姿勢はかなり流線形に近い。

しかし、ウルトラマンの飛行速度はマッハ5だから、衝撃波の先端角は23度。テレビ画面でお馴染みの、両手をそろえて首を立てるという姿勢だと、目から上のあたりが、自分が発生させた衝撃波を受け、砕け散ってしまうのでは……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

それでも、彼はまだいい。

さらに危ないのは、マッハ7で飛ぶウルトラセブンである。衝撃波コーンの先端角は、なんと16度。これはもうキリだ。

しかも、セブンは両手を広げて飛ぶのである。

この姿勢では、両手からそれぞれ先端角16度の衝撃波が発生し、どちらも彼の顔面を直撃してしまう。ウルトラセブンは大丈夫なのだろうか……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ウルトラマンAやウルトラマンタロウになると、事態はますます深刻だ。

両名の飛行速度はマッハ20。衝撃波の先端角は5.7度。

これはもう針だ。どうやっても、そんな鋭利なコーンには体を収められない……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ウルトラマンたちはどうすればよいのだろう?

科学的に正しく設計されたメカに乗って移動するか、移動はすべて歩くか走るかにしていただくしかあるまい。

地球の平和を守るためにわざわざ遠い星からやってきた戦士に対して、まことに申し訳ないが、地球の安全のためには、それで我慢してもらうほかないのだ。

因果な星に来たと思って、あきらめていただきたい。本当にすみません。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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