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伊藤達哉はなぜBリーグの新人賞を獲れなかったのか? クラブ広報の悔い

大島和人スポーツライター
新人賞を逃した伊藤達哉選手 写真提供:京都ハンナリーズ

現場とメディアの票を合計して決まる新人賞

5月29日、東京都内で「Bリーグアワードショー2017-18」が開催された。レギュラーシーズンのMVP、ベスト5、新人賞といったオーソドックスなモノから、「マスコット・オブ・ザ・イヤー」「ソーシャルメディアリーダー」と言った変わり種まで、様々な表彰が行われた。

MVPに選ばれたのはシーホース三河のSG比江島慎。決して饒舌ではない彼が真摯に指導者、仲間、そして亡くなった母への思いを語ったスピーチは感動的だった。

MVP、ベスト5、新人賞などの年間表彰はヘッドコーチ、選手、メディアの投票で決まった。三者の投票がどれくらいの割合で反映されるか、それぞれの選手に何票入ったかは非公表だ。

このような投票は選択が難しい。今回は川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカス選手が昨年に続いてベスト5に入った。得点ランク2位、リバウンドランキング1位の彼が選出されたことに違和感はない。

一方で「他の選択」もあり得た。センターのポジションで比較すると、得点力は新潟アルビレックスBBのダバンテ・ガードナーが上だった。守備や味方のスペースを作る動きといった数字に出難い貢献も含めればアレックス・カーク(アルバルク東京)やギャビン・エドワーズ(千葉ジェッツ)も捨てがたい。もちろんチームによって求められるプレーが違うし、そもそも完全に公平な評価はあり得ない。誰しもが納得できる結果は無いからこそ、投票という方法で決着がつけられる。

伊藤達哉が見せた新人賞に値する活躍

それを踏まえた上でも、新人賞の投票結果には大きな違和感がある。受賞したのはアルバルク東京のSG/SF馬場雄大で、彼は26日のチャンピオンシップ決勝ではチームの日本一に貢献する大活躍を見せている。195センチの身長に加えて走力や跳躍力、スキルも兼ね備える逸材だ。

ただしレギュラーシーズンの活躍を見れば、伊藤達哉(京都ハンナリーズ)の受賞が順当だろう。東海大出身の23歳で、173センチのPGだ。今季のB1は馬場や伊藤の他にも安藤周人(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)、高橋耕陽(滋賀レイクスターズ)、関野剛平(レバンガ北海道)、田渡凌(横浜ビー・コルセアーズ)、生原秀将(栃木ブレックス)など日本人ルーキープレイヤーの「当たり年」だった。その中でも伊藤は60試合中56試合に先発し、1試合平均25.3分のプレータイムで、9.0ポイント、4.4アシストを記録している。プレータイム、得点、アシスト数はいずれも伊藤が最多だ。

個人成績だけで選手を評価するべきではないが、彼は京都の西地区2位に貢献した。小島元基、村上直という昨季の正副PGが抜けた中で、新人司令塔がクラブを背負って結果も出したことは称賛に値する。ただし馬場に比べると全国的な認知度はなく、それがメディアの投票行動に影響したことは容易に想像できる。

アルバルク東京は今季のB1王者で、取材するメディアも京都に比べて多い。また馬場は筑波大時代から日本代表でプレーするなど、プロ入り前から知名度は抜群。今年1月のオールスターゲームでも彼はファン投票1位で選出されている。「一番NBAに近いプレイヤー」「インパクトのあるプレイヤー」を選ぶ投票なら、自分も馬場に入れた。ただし彼は負傷で今季は20試合に欠場していて、レギュラーシーズンのスタッツも伊藤にはっきり劣る。

ハンナリーズの「選挙活動」は実らず

実はハンナリーズはメディアの票が馬場に流れることを想定し、クラブとして「伊藤に新人賞を取らせる」動きをしていた。新人賞投票が締め切られる5月6日の5日前に、伊藤と他の主要新人選手の主要スタッツを並べた内容もTwitterでアップした。2月5日にも「最有力候補でしょう」というツイートをクラブの公式アカウントがしている。これらは投票者の目に触れることを狙った「選挙活動」だったが、努力は実らなかった。

ハンナリーズの安田良平広報はこう悔いる。「選手本人はもちろん、応援してくれたファンの方に対して、彼をアワードの場に立たせてあげられず申し訳ない。贔屓目はあるかもしれませんが、実力的に新人賞を取れるという認識はあった。メディア投票へのプッシュが足りなかったところが反省点です。クラブとしての総合力の無さがこの結果です。来シーズン以降はそこを上げていかないといけない」

確かにクラブ側が泣き言を言うべきではないし、究極的には「クラブの存在感を高め、メディアを取り込む」ことが賞レースの必勝法かもしれない。

「投票結果」「投票数」の可視化を

記者がB1全18クラブをすべて満遍なく取材することは難しい。またスポーツ報道はエンターテイメントでもあり、人気選手の扱いが増えることは当然だ。

しかしオールスターゲームと新人賞やベスト5、MVPの投票は性質が違う。人間が選ぶ以上は「人気のある選手」「身近な選手」に対する偏りが生じるのは避けられない。ただそれが行き過ぎるとせっかくの賞の信頼性や価値が落ちる。公平に選出しようという努力は必要だし、今回の選出結果はバスケを熱心に見るファンを白けさせかねない。

そもそも馬場に投票したメディアがどれだけ深く考えたのか、各候補選手のスタッツに目を通したのか、率直に言って疑問が残る。

アワードの投票をより説得力のあるものとするためには「投票内容」「投票数」の公表をするべきだ。ヘッドコーチ、選手、各記者が誰に投票し、各受賞者は何票獲得したのか――。そういう過程が見えれば透明性が確保され、納得感も高まる。

投票者としても「誰に入れたか」が外部に出るとなれば、いい加減な選択はできない。真剣に考え、説明できるだけの理由を考えてから投票するようになるだろう。世界を見ても野球、サッカーなど様々な競技のこういった投票で内容の公表は行われている。デメリットとメリットを考えても、投票の可視化はBリーグにとってきっとより良い選択だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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