福島第一原発の燃料取り出しのゆくえ(前編:使用済み燃料の取り出し)
2017年2月、社会中に報じられた福島第一原発2号機の格納容器内調査の模様は、大きな不安や展望なき廃炉といったイメージだけを残し終わってしまったように感じます。
3月に入りました。毎年のように原子力事故被災地や福島第一原発に関わるニュースが飛び交います。ですが社会を大きく賑わしたニュースを振り返り、どういったことだったのか、そしてどのように進むのか、そうした丁寧な後報道はあまりありません。
トラブルごとの様に報道し回収せずに一年が過ぎるのがいつもの事です。今、福島第一原発の燃料取り出しはどこまで進んできたのかをまとめてみたいと思います。
燃料は大きく2つのタイプがあります。溶け落ちた燃料(以下デブリと呼びます)とこれまで使われてきた使用済み燃料です。
前編の今回は、使用済み燃料の取り出しについてお伝えしていきます。
使用済み燃料取り出しに向けたステップ
これまで発電で使われてきた燃料は、使用済み燃料プールと言われるプールで水で冷却されながら保管されています。事故が起きた1から4号機の使用済み燃料プールは現在、安定冷却が続けられています。
水素爆発が起きた1から3号機では次のステップで使用済み燃料の取り出しが行われていきます。(注.2号機については解体・除染からのスタートになります)
1.瓦礫の撤去・除染
まずはオペレーティングフロアと呼ばれる建屋最上階を瓦礫を撤去し剥き出しにします。高線量の瓦礫から作業員の方の被ばくを防ぐため大型クレーンを用いて行われます。
小さな瓦礫・除染はロボットを使いながらになります。
ステップ2~4は同時並行で行われていきます。
2.燃料取扱い機の設置
使用済み燃料はプールの中で、キャスクと呼ばれる移送用容器に移されます。その行為を行う設備です。UFOキャッチャーの様に燃料を上から掴み、キャスクまで垂直水平移動させるものです。事故前使っていた燃料取扱い機は水素爆発で吹き飛んだ為使えないため、新しく設置しなくてはなりません。
3.天井クレーンの設置
キャスクを使用済み燃料プールから取り出し、地上階まで安全に下すために必要なクレーンです。吊り降ろしに際して、震災クラスの地震が起きても安全が保たれることが要件になります。
4.建屋カバーの設置
燃料取り出しの作業を雨風にあたる状態で行う分けにはいきません。また天井クレーンを支える構造そのものです。こちらも耐震性が求められます。
5.燃料プール内の細かい瓦礫の撤去
使用済み燃料プールの中には、細かい瓦礫が山積しています。こちらを可能な限り撤去しなければなりません。燃料を傷つけないよう熟練の作業者が必要になります。
6.使用済み燃料の移送
安全に燃料を使用済み燃料プールから取り出せる条件が整うと実際の作業に入ります。使用済み燃料プールの中で燃料取扱い機を使い、燃料を水の中でキャスクに入れる→キャスクを天井クレーンで吊り、地上階で運搬車に載せる→共用プール建屋と呼ばれる建屋に移送する。
これらを進めていきます。
使用済み燃料の取り出しに向けての課題と解決に向けた連携
使用済み燃料の取り出しについては本来難しいことはなく、震災の前でも福島第一原発では共用プール建屋と呼ばれる別の建屋への移送は何度も行われてきたことです。
この通常やっていることが、爆発事故が起きた現場では大きな課題が立ちふさがりました。それは事故によって生まれた高い放射線環境です。
これを乗り越えていくため、「研究開発」「技術支援・戦略策定」と役割を分けプロジェクトが立ち上がりました。
燃料取り出しに技術・戦略的に関わる機関
廃炉は東京電力が行っている。そう思われがちですが、事故から始まった廃炉はプロジェクトとして進められています。
燃料取り出しについて、研究開発そして技術・戦略を立てる機関と協働して行っています。
東京電力は燃料取り出しに向けて実施を行い、課題が見つかるとそれを関係機関へニーズとして提供していくことになります。
大きく2つの機関が燃料取り出しに関わっています。
東京電力から課題ニーズを受け、研究開発をする「研究組合組織 国際廃炉研究開発機構 通称IRID(アイリッド)」、進捗状況と課題を共有し中長期戦略プラン、技術支援といった助言・指導を行う「原子力損害賠償・廃炉等支援機構 通称NDF」です。
大雑把な説明をすれば、現地で燃料取り出しに向けた作業は東京電力と協力企業の人達が実行し、課題が見つかればIRIDとNDFと共有しながら、研究開発はIRID、技術と戦略はNDFの力を借りているということになります。
ここがとても大切で、実際にどこまで廃炉現場は進んだかは東京電力の情報を見ると見えてきますし、取り出しに向けた研究開発(ロボットや取り出し方法について)はIRID、燃料取り出しに向けた進捗の監理や技術はNDFの情報を見ると見えてきます。
そうした連携の中で、事故が起きた福島第一原発の1~4号機の燃料は取り出されていくわけですが、現在の状況を整理したいと思います。
デブリがあるのは1,2,3号機になります。震災当時4号機については定期検査と呼ばれる総点検中のため、原子炉に燃料はありませんでした。
使用済み燃料は1~4号機全てにあり、1号機は392体、2号機は615体、3号機は566体、4号機については事故当時1535体ありましたが、2014年12月22日に取り出しが完了しました。
使用済み燃料取り出しに向けての状況
私達はそれは出来ないことの様に扱いますが、実際現場はこれは出来る領域として進められています。大きな根拠は4号機の成功です。過去の記事「「福島第一原発」1年前に生まれた「大きな一歩」と「大きな課題」」でも触れましたが、2014年に全数取り出されたことは現場では大きな励みとなりました。
そして現在、他の号機はどうなっているのかとなります。1,2,3号機とも状況が違いますので整理します。
1号機
これまで飛散防止としてつけられてきた建屋カバーが外され、飛散防止剤が振りかけられた最上階では、放射性物質を含む粉塵を計りながら(ダスト濃度測定といいます)、大型クレーンや大型の掃除機を使い、大型瓦礫の撤去、細かい瓦礫の撤去が進められています。
作業員の方の被ばくを低減するため、瓦礫撤去は遠隔操作で行われています。
燃料取り出し用建屋カバーの検討並びに作業スペースの確保が進められていきます。
2号機
2号機は水素爆発による建屋爆発が起きなかった号機です。ですが中は高線量ですし、事故後6年間放置された燃料取扱い機、天井クレーンは使えません。
新しくどのような方法で取り出しを行うかの検討をするためにも、建屋最上階の解体を行なわなければなりません。現在は解体・調査に向けて作業用構台の建設が進み、構台の上には外からアプローチし建屋内除染をするための前室という部屋が作られていきます。
今年から解体が始める計画です。
3号機
建屋最上階の瓦礫の撤去・除染は終わり、同時並行で福島県いわき市小名浜漁港で作られ、据え付け工事に向けて訓練が行われていた取り出しカバーの据え付けが始まっています。
(上部写真は福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋料取り出し用カバー等設置工事の進捗状況について(2017年2月23日)より抜粋)
今年から来年にかけて、取り出しに必要な設備(燃料取扱い機、天井クレーン)を設置し、2018年には使用済み燃料の取り出しが始まる予定です。
詳細については「福島第一原子力発電所3号機原子炉建屋料取り出し用カバー等設置工事の進捗状況について(2017年2月23日)」
これからも現場は進んで行く
事故が起きた1から4号機の使用済み燃料の取り出しは、私達が思っているのと裏腹に着実に取り出しへの道を歩んでいます。時が止まったままではありません。
状況を抑えると、もろ手を挙げて安心かというと放射性物質を含む建物・瓦礫を解体していくわけですから飛散への不安は残ります。
現在においては、発電所入り口での防護対策不要の状況から飛散防止に対する評価は出来ます。入り口付近までは抑えられているという点です。
それは現場で働く人達の安全管理が今日も適切に行われていたからです。その状態が継続されていくことが安心の基になっていきます。
来月には双葉郡富岡町、双葉郡浪江町といった福島第一原発から10km圏内の町が避難解除となります。壊れた原発と共に暮らすことが実際始まります。
廃炉が進んでいく。それを受け止めていくことで初めて、私達の生活や暮らしがどういった状況の基に成り立っているかが見えてきます。
次回、後編としまして「福島第一原発の燃料取り出しのゆくえ(後編:溶け落ちた燃料の取り出し)」をお届けします。