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レズビアン役でドラマ初主演。グループ卒業1年の菅井友香 「激しい感情を出すのに抵抗はなくなりました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『チェイサーゲームW』2話より (C)「チェイサーゲームW」製作委員会

櫻坂46の初代キャプテンを務め、一昨年11月に卒業した菅井友香が、『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』で連続ドラマに初主演している。レズビアンで、元恋人の上司と復讐愛憎劇を繰り広げるという役だ。女優として、つかこうへい作品の主役など舞台出演が多かったが、そこで培ってきたものを発揮して新境地に挑んでいるという。

舞台で毎日燃え尽きるまで闘う感覚がありました

――アイドルグループでデビューして、女優はいつ頃から志していたんですか?

菅井 最初にお芝居をさせていただいたのが舞台で、それまでとは異なる難しさとやり甲斐を同時に感じました。自分が不器用なこともあって、苦労したんです。演出家の方たちに稽古以外の時間も教えていただきながら、何とか毎日やっていました。それも含め皆さんと協力して、時間を掛けてひとつの舞台を創ることが楽しくて。お客様に届いて感動してくださったとも聞いて、機会をいただける限り、挑戦していきたい想いが芽生えました。

――その後、演技に目覚めたような作品もありました?

菅井 初めて座長を務めさせていただいた『飛龍伝2020』です。つかこうへいさんの作品で、自分が突然主演ということで、すごく大きな壁が立ちはだかったように感じました。台詞量も台詞回しも経験ないことばかり。学生運動のリーダーという役柄もあって、毎日闘っているような感覚でした。

――どんな闘いがあったんですか?

菅井 ずっと舞台に立っている体力面に、神林美智子という役の人生とその後生まれてくる子どもの男性まで演じたので、かなりのエネルギーが必要でした。毎日燃え尽きるまで必死に生きる、ギリギリの状態。ある意味、自分の中でずっと覚醒したまま、舞台に持っていっていました。

トップコート提供
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怒鳴りたくなるほどの怒りが込み上げて

――当時、もちろん菅井さんのポテンシャルを買われてのキャスティングだったと思いますが、伝統ある作品で内田有紀さんや広末涼子さんが務めた役に大抜擢という印象がありました。

菅井 『飛龍伝』で演じられるのは1回きり。今、殻を破るべきだと、いろいろな方に言っていただきました。ガムシャラで粗削りではありましたけど、神林美智子の役を通じて勇気とパワーをもらえて。共演者の方々とも本気でぶつかり、自分の中ですごく大きい経験でした。

――殻を破った感覚もありました?

菅井 そうですね。人を怒鳴ったり、あまりしてこなかった人生だったので(笑)。怒鳴りたくなるほど怒りがこみ上げたり、泣くほど人を想ったり、そういう感情の起伏が人前で生まれたのは初めての経験でした。

――菅井さんはお嬢さまのイメージがありましたから。

菅井 演出の岡村(俊一)さんにもすごくご指導いただいて、ずっと気に掛けてくださって、去年、同じつかさん作品の『新・幕末純情伝』にも挑戦できました。ファミリーとして見ていただけることが嬉しいです。

――岡村さんからの指導の中で、その後も演技の指針になったこともありますか?

菅井 「役者にはみんな色があるけど、菅井は透明なのがいい」と言っていただけました。自分が苦しい方向には気持ちをなかなか持っていけない人もいるけど、どこにでも思い切り振れる素直さが強み、ということでした。それが嬉しくて、ずっと心は透明でいたいと思っています。

(C)「チェイサーゲームW」製作委員会
(C)「チェイサーゲームW」製作委員会

ゲームに没頭しすぎるのを心配されました

――『チェイサーゲームW』は久々のドラマ出演でありつつ、会社で働く女性役は舞台含めてなかったですよね?

菅井 そうですね。『赤ひげ』では江戸時代の女中の役で働いていましたけど、現代となると、また新たな挑戦です。

――会社での振る舞いについて、何か調べたりもしたんですか?

菅井 『チェイサーゲーム』の原作がゲーム会社をリアルに描いた漫画なので、ドラマのシーズン1と併せて見て、職場のイメージやゲームを作るお仕事がよくわかりました。それはありがたかったのと、大学時代、ゲームデバックのアルバイトをしていたこともあったんです。

――実際のゲーム会社の空気は知っていたわけですね。

菅井 でも、(原作の舞台の)サイバーコネクトツーさんの社内は雰囲気が違いました。いろいろな作品のフィギュアが置いてあったり、ゲームを貸し出してプレイできる図書館のようなスペースがあったり。オシャレでこだわりのある素敵な会社だと思いました。パソコンもキーボードが打ちやすいんです。今まで出合ったことのないポチ、ポチという感覚が気持ち良くて。ライトの色も変えられるので、テンションが上がって自分で買いたくなりました。

――ゲーム自体、好きなんでしたっけ?

菅井 すごく好きですけど、没頭しすぎてしまう性格なので、母が心配して、小さい頃は買ってもらえなかったんです。友だちから1日だけ貸してもらって、夜中に布団にもぐって、寝ないでやっていた幼少期でした(笑)。

――隠れてどんなゲームをやっていたんですか?

菅井 DSで『リズム天国』をやっていました。大人になって自分で買えるようになってからは、冒険が好きなので『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をコロナの自粛期間にやって、全クリしたりしました。

1話より
1話より

当事者の方たちの話で抱えているものをイメージできて

――他にも、今回の春本樹役を演じるうえで、準備したことはありますか?

菅井 女性同士の恋愛が題材で、役者として学ぶことばかりでした。クランクイン前に当事者の方とお話しさせていただけて、どんな想いで生活されてらっしゃるとか、聞くことができたのは大きかったです。想像だけではなかなかわからなかった面もはっきり教えていただけて、春本樹がどういうものを抱えてここまで生きてきたのか、しっかりイメージできました。

――男性との恋愛と違う面もありましたか?

菅井 日本の社会制度がどうしても男女の仕組みからできていたりするので、その中で女性同士が恋人として一緒に暮らす苦労を知りました。貴重なお話をうかがえたと思います。

――中村ゆりかさんが演じる林冬雨(ふゆ)との回想などでの恋愛シーンは、自然にできましたか?

菅井 樹は本当に冬雨に惹かれて大切にしていましたし、ゆりかさんが演じる冬雨がとても魅力的だったこともあって、自然に気持ちが向かっていました。そこに関して、難しさはあまり感じなかったです。

――自分のマフラーをかけるシーンがあったり。

菅井 大学時代のシーンは特に楽しくて、幸せを感じながらできました。その分、2人がすれ違ってからのシーンは、胸が苦しくなることばかりでした。

心の隙間を埋めて幸せを感じていたんだなと

――別れた冬雨が会社の上司として現れて、無理難題を押し付けてくるのは、現実にあったら相当キツいシチュエーションですよね。

菅井 大変なことだと思います。ただ、ドラマで派手に描かれている面はあるとしても、実際にこういう厳しい上司はいるのかもしれません。会社で働いている方にも、ぜひ観ていただきたいです。

――樹も入社5年目の27歳でプロジェクトリーダーを任されていて、仕事ができる社員なんでしょうね。

菅井 すごく真面目でもありますし、正義感が強くて曲がったことが嫌い。仲間が辛いときは自分が言う勇気も持っているので、きっとそういう面を買ってもらえたのかなと思います。冬雨への想いを断ち切るために、一生懸命働いてきたところもあるように感じました。

――潔癖とか学級委員っぽいとか言われたりもします。

菅井 周りにカミングアウトできなくて、人との距離をちょっとはぐらかしながら生きてきたから、謎なところもあるなと思ったりもしました。家庭環境的に祖母に育ててもらって、愛情は受けてきたけど、母親は亡くしていて。きっと心の中に孤独も抱えながら、明るく振る舞ってきたバックグラウンドは感じて演じました。

――単にリーダータイプなのではなくて。

菅井 だからこそ、大学時代に冬雨と過ごしていたときに、幸せを感じていたんだろうなと。そういうところで心の隙間を埋めていて。冬雨に旦那さんがいるのを知ったのはショックで、複雑な心境になりました。

1話より
1話より

仲間のために言わないといけないこともあって

――菅井さんもアイドルグループ時代には、キャプテンを務めていました。

菅井 学生時代は学級委員の候補にも挙がらない立場だったのが、グループに入って人生が変わりました。年長メンバーだったので、しっかりしないといけないと感じましたし、キャプテンに任命していただいて、グループ時代に出演したドラマでも学級委員役。ポジションをいただいたことで、自然とそういう振る舞いをするようになった感じです。

――樹と重なるところもありました?

菅井 リーダーとして頑張らないといけない責任は、私も感じていましたし、時にはメンバーのために言わなければならないこともありました。中間管理職の難しさを感じた経験は、樹に通じるところがあると思います。

――序盤で特に印象的だったのは、どんな場面ですか?

菅井 1話の冬雨にドンペリをかけられるシーンは、ドキドキしました。台本を読んだときは驚きましたけど、撮影はスムーズにできました。

――そのあと、樹は冬雨の頬を叩いてました。

菅井 冬雨には樹と別れてからの4年間、思っていたことがありますけど、樹のほうもいろいろな想いを抱えながら生きてきて。もどかしい想いがビンタになって、バチバチでした(笑)。

悩む時間もないくらい必死です

――感情を爆発させる芝居は、つかこうへいさん作品で身に付いていた感じですか?

菅井 表現の仕方は作品ごとに違うので、その都度必死ですけど、激しい感情を出していくことに抵抗は全然ありません。いろいろな舞台でそういうシーンを経験させていただけて、ありがたいです。

――普段は叫んだりはしないと思いますが、今回の樹役で演技に悩むこともありますか?

菅井 悩むというより必死でした。1話のシーンのあとに8話のシーンを撮ったりと、時間が行ったり来たりするんですね。舞台ではないことで、特に今回は樹と冬雨の関係が時間が経つごとに変化するので、そこを考えながらパッと切り替える難しさをすごく感じます。

――集中力を高めて演じていて?

菅井 そうですね。同じシーンを画角を変えて繰り返し撮影することもあるので、その都度新鮮に反応できるように、集中します。

2話より
2話より

何色にでも変われる役者になりたいです

――樹と冬雨の関係性を客観的に見ると、どう感じますか?

菅井 冬雨が中国から日本に戻ってまで、樹の上司として現れるほど、4年間ずっと想い続けていたのはすごいことですよね。それだけ想ってもらえるのは、樹として嬉しいです。冬雨には愛情表現としては真逆の行動をされていますけど、それもお互いの強い繋がりの現れだと思います。

――参考に観た作品もありますか?

菅井 女性同士の恋愛の映画は何本か観ました。中でも『アデル、ブルーは熱い色』というフランス映画はすごく素敵で、イメージが膨らみました。

――映画は普段からよく観るんですか?

菅井 映画やドラマを観るために、去年思い切って、大きなテレビを買いました。役者さんの細かい表情を勉強しようと思ったんです。それからよく観るようになりました。最近だと、やっぱり『アデル、ブルーは熱い色』がイチオシですね。

――そうした作品を観て刺激を受けることもあるかと思いますが、今はどんな女優像を目指していますか?

菅井 何色にでも変われる役者になりたいです。作品を突き詰めて追求しながら、少しでも誰かの心に届いて、一歩を踏み出すきっかけになれることを目指して、これからも勉強していきたいと思っています。

Profile

菅井友香(すがい・ゆうか)

1995年11月29日生まれ、東京都出身。2015年に欅坂46(現・櫻坂46)の1期生オーディションに合格。2017年よりキャプテンを務め、2022年に卒業。主な出演作は舞台『飛龍伝2020』、『カーテンズ』、『新・幕末純情伝』、『赤ひげ』など。ドラマ『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』(テレ東系)でW主演。『KEIBA BEAT』(カンテレ)でMC。『菅井友香の#今日も推しとがんばりき』(文化放送)でパーソナリティ。

『チェイサーゲーム W パワハラ上司は私の元カノ』

テレ東ほか・月曜26:35~

公式HP

公式X

(C)「チェイサーゲームW」製作委員会
(C)「チェイサーゲームW」製作委員会

「チェイサーゲームW」中村ゆりかインタビューはこちら

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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