レズビアンで元恋人のパワハラ上司となり復讐愛憎劇。中村ゆりかが「女性同士のシーンは美しく描かれて」
レズビアンで恋人だった上司と部下が繰り広げる復讐愛憎劇として、話題のドラマ『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』。未練から屈折した感情を抱き、中国から戻り無理難題を押し付ける上司を中村ゆりかが演じている。これまでもクセのある役で存在感を発揮してきたが、ひと際アクの強い今回のW主演にはどう取り組んでいるのか?
好きな人に裏切られて執着する想いを
――『チェイサーゲームW』で演じる林冬雨(ふゆ)は、元恋人の春本樹(菅井友香)の前に上司として現れて、強烈な振る舞いを見せますが、中村さんが得意なタイプの役では?
中村 今までも純粋なヒロインより、引っかき回したり、2人の関係を壊したり、変わった役が多くて。毎回いい意味で精神は削られます。キャラクターはそれぞれ違うので、注ぎ込む愛情や取り組む姿勢も変わって、今回もすごくハードでした。
――復讐愛憎劇と謳われていますが、何年も前に別れた元恋人を追い詰めるように、わざわざ中国から来る心理は想像できましたか?
中村 私には復讐心は芽生えないので、そこまでしないと思います。でも、冬雨は樹への執着が深くて、過去をぬぐい切れない。中国から日本にまで来るのは、それだけ樹に対する想いが強いということですよね。そんなに好きな人に裏切られた感情は、誰しも共感できるものなので、大事にしました。
――まさに精神が削られそうですね。
中村 楽しげな役でも、向き合えばそうなるので。あくまでフィクションとして、思い切りお芝居をさせてもらいました。冬雨の立場になれば、「これは違う」というところは一切なかったです。
自分がされたらイヤなことからキャラクター作りを
――サブタイトルにあるパワハラ上司としても、冬雨は相当ですよね。「半年くらい命を削って働いても人は死にません」と言ったり。
中村 子どもを理由に仕事を休むのが理解できない、とか。中国社会の厳しい環境で生活してきた想いをパッと言ってるんですけど、胸が痛いです(笑)。言われる立場だったら、ウッとなりますよね。
――そういう上司像はイメージできました?
中村 そこで冬雨の気持ちを理解するのはなかなか難しいですけど、SNSで「今日も怒られた」みたいな投稿を見ていて、理不尽な無理強いをするのがパワハラに値するのかなと。普通できないことを部下に押し付ける。自分がされたらイヤだというところから、キャラクターを作っていった感じです。
――演じるうえでは面白みもある役ですか?
中村 普段できることではないですから(笑)。今回はレズビアンを題材にしていますけど、私は女性に惹かれる役を過去にも2~3作で演じていて。そこを深掘りしたお話でもあって、私にとって学びにもなった役柄です。
――テレビ東京ならではの挑戦的なドラマですね。
中村 すごいですよね(笑)。自分でもテレビ東京さんの面白いドラマは観てきました。『チェイサーゲーム』のシーズン1だったり、同じ太田(勇)監督の『自転車屋さんの高橋くん』だったり。今回も皆さんが力を入れて撮影に臨んでいたので、観ていただく方の反応も楽しみです。
ドンペリを頭からかけて心が痛くなりました
――1話から、冬雨が樹の頭にドンペリをかけるシーンがありました。
中村 もちろん私はやったことはないですけど(笑)、撮ったあと、「もしかしてどこかでやった?」と冗談を言われたのが嬉しかったです。イメージ通りにできていたんだなと。
――一発OKだったんですか?
中村 そうなんです。失敗してご迷惑をお掛けしないかヒヤヒヤしてましたけど、集中力を高めて、1回でOKが出て良かったです。
――どんな気持ちになりました?
中村 心は痛いですよね。お芝居の中でお互いの感情があって、影響を受けやすくて。ひどいことをしているなと辛くなります。菅井さんが「炭酸スパみたい」と言ってくださって救われましたけど(笑)、お互いを傷つけ合うのは胸が苦しいです。
大好きな裏返しでひどいことをしてしまって
――冬雨の心情は屈折してますよね。樹に「過去は仕事に持ち込まないでください」と言いながら、自分は「裏切り者は嫌いです」とかチクチク言っていたり。
中村 裏切られた記憶が脳裏に焼き付いていて、わざわざ中国から日本に樹を探して来たけど、大好きな裏返しでひどいことをしてしまう。でも、冬雨自身にも後悔や痛みがあって、やるせない想いがずっと残ったまま。後半に進むにつれて、本音が湧き出てきます。
――一方で、冬雨は「裏切られて死のうと思った」とか「あなたなしでは生きていけないのに」とも言ってます。根は弱いところもあるのでしょうか?
中村 樹と比べたら冬雨は弱いですね。態度は大きくても、内心ちょっとビビっていたり。昔は樹に甘えていて、かわいらしいところもあるなと、お芝居しながら思いました。
動きが遅いところは役と真逆です
――先ほど「復讐心は芽生えない」とのお話がありました。逆に、冬雨に中村さん自身を投影できる部分もないですか?
中村 昔は好きな人に対して、冷たくしてしまうところがありました。連絡を返さなかったり、自分から遠慮したり。近くなりすぎて嫌われないかと考えてしまうんです。冬雨と形は違いますけど、ちょっと似ているところかなと思います。
――思い出のピアスを踏みつけて壊すような、感情的なことはしますか?
中村 それは私はないですね。そのシーンは現場で「怖い」と言われました(笑)。私は動きが遅いんです。急がないといけないときも急げないし、食べるのも遅い。性格的にもそうで、そこは冬雨と真逆ですね。
――動きが遅くて困ることもありませんか?
中村 早口のシーンや台詞が多いと、尺を取られすぎます(笑)。だから、そういうときは頑張って速くしゃべれるように練習します。
――でも、『エージェントファミリー』でスパイを演じたときは、スピード感のあるアクションを披露していました。
中村 周りの人に「動けるの?」と言われました(笑)。もともと自分から「アクションをやりたい」とずっと言っていたんですけど、まさか声を掛けていただけるとは思ってなくて。ちゃんと稽古に取り組めば私にもできるんだと、感動しました。
――稽古では苦労もしました?
中村 でんぐり返しから始まって(笑)、4ヵ月くらい練習させてもらいました。本番では、7分間のアクションシーンを朝から夜まで1日かけて撮って、アドレナリンがすごく出て。自分がミラ・ジョヴォヴィッチになった気分でやっていました。
同性でも現場で違和感はありませんでした
――『チェイサーゲームW』の話に戻ると、キスシーンなども女性同士だと男性とは違う感覚がありますか?
中村 私は同性愛者でないので、実際に現場で相手を目の前にすると、どんな感情を抱くんだろうと思っていたんですけど、意外と違和感はありませんでした。冬雨が樹を好きなのは、男性か女性かという問題ではなくて。ただ、女性とは上品で美しい描写になっていると思います。空気感を大事に、カメラマンさんやプロデューサーさんも念入りにチェックしてくださってました。
――菅井友香さんが演じた樹に、自然に惹かれるところもありました?
中村 そうですね。かわいらしくて、お話のされ方もすごくていねいです。回想シーンは大学時代の初対面からスタートして、お互いあまり困らず、歩み寄りながらお芝居できた感覚があります。やり遂げたあと、2人で「頑張ったね」とLINEのやり取りをしました。
――ひとつのマフラーを2人で巻いたり。
中村 そこは一番楽しくて、とことん幸せな気持ちになりました。そういう過去のシーンがあったからこそ、現在のお話に通じて、気持ちが作りやすかったところもあります。
――現在の場面では、えげつないことをしてますけど。
中村 その対比に掴まれるものがあると思います。
ゲームは時間が掛かってうんざりされます(笑)
――冬雨には子どもとのシーンもあります。
中村 本当に癒されました。私は初めての母親役で、大丈夫かなと思っていたら、娘役の秋山加奈ちゃんはとても人懐っこくて、私が仲良くしてもらった感じです。「遊ぼう」と近寄ってきてくれて、そのまなざしがすごくかわいくて、写真や動画をいっぱい撮りました。
――ゲーム会社が舞台ですが、中村さんはゲームはするんですか?
中村 作品に入るとやらなくなりますけど、好きなほうだと思います。1回やり始めると止まらなくて、友だちとやっていると楽しくて、深い時間になっていたり。でも、得意ではないです。クリアするのも次のステージに進むのも時間が掛かるから、友だちにはうんざりされて「早くしてよ」と言われます(笑)。
――どんなゲームをプレイしてますか?
中村 もともとマリオシリーズが大好きでした。『デラックス』や『ルイージマンション』や『マリオカート』をよくやっていて。あと、『ヒューマン フォール フラット』というフニャフニャしたキャラクターが出てくるゲームや、『桃鉄(桃太郎電鉄)』とか『どうぶつの森』も好きですね。『モンハン(モンスターハンター)』も一時期ハマってましたけど、やっぱり最後までクリアするのに時間が掛かって、まだ全然です(笑)。
――あと、冬雨は中国で仕事のために、飲まなかったお酒を飲めるようになったようですが、中村さんはそっちのほうはイケますか?
中村 普通に飲めます。会話が弾んで、楽しいお酒になります。
中国語を活かす仕事は夢でした
――冬雨役は中村さんが中国語をできることもあってのキャスティングだったとか。
中村 中国語が話せて良かったと、しみじみ思いました。ずっと言語を活かした仕事が夢だったので、こんなに早い段階で声を掛けていただけて、即答で「やりたい!」となりました。
――お母さんが台湾の方で、勉強したというより自然に話せるように?
中村 そうですね。家で普通に中国語が飛び交う環境だったので。台湾には子どもの頃によく行っていて、住んでいたこともあります。
――自分の中に中華系のDNAを感じる面もありますか?
中村 母親と似ているのは、正直さです。人を傷つけるようなことは言いませんけど、面白くなければ「面白くない」とか本心を話します。あと、行動は遅いんですけど、決めるのは早くて、白黒ハッキリしています。
――食べ物の好みはどうですか?
中村 家では母が台湾料理を出してくれます。中華料理は調味料がしっかり付いていますけど、台湾料理は薄味に近いです。通じるところもあって、どちらも好き。でも、自分では作れません(笑)。
目の前に次があると安心します
――去年、中村さんの中で大きかったトピックというと、どんなことがありました?
中村 何があったか……。私、記憶力が悪くて、お芝居の台詞しか覚えられないんです(笑)。ありがたいことにたくさんのドラマに参加させていただいて、ひとつの作品をやり遂げたあとに、また目の前に次があって安心していました。毎回現場でお会いする方に刺激を受けてますけど、すぐパッと思い出せなくなって。記憶が衰えるのはちょっと早いなと、すごく不安なんです(笑)。
――というか、忙しすぎて日々が目まぐるしく過ぎていったのでは?
中村 どうなんですかね? 仕事以外のことも忘れてしまっていて、1年のアルバムを作ろうかと思いました。でも、お休みの日は美術館に行ったり、動物と触れ合ってきたりしました。動物園にも行きますし、ハリネズミカフェとか豚カフェとか、ちょっと変わり種のお店にも友だちと行きました。
自分が楽しまないと観る方も楽しめないので
――1年の目標を立てたりはしますか?
中村 いちおう「これを目指したい」と毎年言っている気がします。アクションをやりたいとか、歌をやりたいとか、実現できているのがありがたいです。それを糧に、もっと大きく膨らませることを今年はしたいです。今回、中国語を使えたので、中国でイベントに出たり、祖母が住む台湾にお仕事で行けたら。活動の幅を広げたいですね。
――『チェイサーゲームW』のホームページで「若手実力派女優」と紹介されていますが、そこは目指していたポジションですか?
中村 あまり意識はしてなかったんですけど、そう書いてもらえて恐縮です。でも、私はいただいた役柄を突き詰めているだけ。自分が楽しんでお芝居をしてないと、観ている方も楽しめないと思っています。
――3月には27歳を迎え、「若手」から次のステップも見据えたり?
中村 若手の範囲はわかりませんけど、カメレオンと言われるのは嬉しいです。凝り固まらず柔軟性を持って、臨機応変に演じられる役者になれたらと思います。
Profile
中村ゆりか(なかむら・ゆりか)
1997年3月4日生まれ、神奈川県出身。中学1年のときにスカウトされて芸能界入り。2012年に女優デビュー。主な出演作はドラマ『まれ』、『花にけだもの』、『ギルティ~この恋は罪ですか?~』、『部長と社畜の恋はもどかしい』、映画『ラーメン食いてぇ!』、『夜、鳥たちが啼く』、『死が美しいなんて誰が言った』ほか。ドラマ『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』(テレ東系)にW主演。
『チェイサーゲーム W パワハラ上司は私の元カノ』
テレ東ほか・月曜26:35~
「チェイサーゲームW」菅井友香インタビューはこちら