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NVIDIA、中国向け新型AI半導体を準備 3度目の規制回避で状況打開へ

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)は、次世代AI(人工知能)半導体の中国向けモデルを準備しているようだ。英ロイター通信が関係者の話として報じた。米政府の対中規制を順守する製品を市場投入して収益向上を図る。

先端品「B200」の中国向けモデル「B20」

エヌビディアは2024年3月に開いた開発者会議で、次世代GPU(画像処理半導体)シリーズ「Blackwell(ブラックウェル)」を発表した。そのうち「B200」は、チャットボットのようなタスクにおいて、前モデルに比べて30倍の高速性を実現する。

ロイター通信によると、エヌビディアはB200の中国向けモデル「B20」の市場投入準備を進めている。中国販売パートナーの1社である浪潮集団(Inspur Group)と協力しているという。関係者によれば、B20の出荷は25年4〜6月期に始まる見通しだ。

対中輸出規制強化も、3度目の規制回避品

エヌビディアは米政府の対中輸出規制を受けて技術基準を下回る半導体を開発してきた。米商務省は22年10月、AI向け先端半導体を中国などの「懸念国」に輸出することを原則禁じた。

これにより、生成AIなどのAIシステムで業界標準となっている同社製GPU「A100」と「H100」の中国への輸出ができなくなった。そこで同社は、規制基準を下回る性能のGPU「A800」と「H800」を開発し、中国などで販売を再開した。

しかし、バイデン米政権は1年後の23年10月に規制強化を発表。中国などに対する米国製先端半導体・装置の輸出規制対象を拡大した。これにより、A800とH800も輸出できなくなった。

同社はこうした状況を受け、米政府が新たに定めた性能基準を下回る3種のGPUを開発した。3種とは「HGX H20」「L20 PCIe」「L2 PCIe」である。これらのGPUは、AI向け最新機能の多くを搭載しているが、米規制を順守するため、一部のコンピューティング能力が抑えられている。

だが、米国が規制を強化したことにより、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や、騰訊控股(テンセント)が出資する燧原科技(エンフレーム・テクノロジー)のようなスタートアップが、中国の高度AIプロセッサー市場で一定の進出を果たすようになった。

中国市場向けの3度目の規制回避品によって、エヌビディアはこれらの課題を解決するための取り組みを進めることができるとロイター通信は報じている。

中国事業の業績悪化

米国が対中半導体規制を強化した後、エヌビディアの中国事業は業績が悪化した。24会計年度第4四半期(23年11月〜24年1月期)の決算説明会でコレット・クレスCFO(最高財務責任者)は、中国向けAI半導体の販売が著しく減少したと説明していた。

同氏によると、同四半期のAI向け半導体を含むデータセンター部門売上高における中国の比率は「1桁台半ば」にとどまった。この比率はそれ以前、おおむね20〜25%で推移していた。

ロイター通信によると、エヌビディアは2度目の規制回避品であるHGX H20を24年初めに発売した。だがこの製品は当初、販売が芳しくなかった。こうした事態を受け、同社は価格をファーウェイの競合製品よりも低く設定した経緯がある。

関係者によると、現在、HGX H20は販売が急速に伸びている。半導体市場調査会社の米セミアナリシス(SemiAnalysis)は、エヌビディアが24年に中国で100万個以上のHGX H20を販売し、120億米ドル(約1兆9000億円)以上の収益を上げると予想している。

米政府は今後も半導体関連の対中規制を強化し続けるとみられる。エヌビディアのジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は、25会計年度第1四半期(24年2〜4月期)の決算説明会で、米政府の規制を受け、中国での事業活動を一時停止していたと明かした。

だが、同社は今後もその都度対応製品を市場投入していく考えのようだ。ファン氏は、「(中国での)競争に参加できると期待している。最善を尽くして結果がどうなるか見ていきたい」と意気込みを示していた。

筆者からの補足コメント:
こうしたエヌビディアの動きを米政府は批判しています。米フォーチュンなどは昨年12月、ジーナ・レモンド米商務長官が、エヌビディアを名指しして批判したと報じていました。批判の内容は、「政府が先端半導体の輸出規制措置を取っているにもかかわらず、エヌビディアは相次いで中国市場向けの特別な半導体を開発し、規制を回避している」というものです。イタチごっこのような駆け引きに、レモンド氏はうんざりしているとフォーチュンは報じていました。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年8月7日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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