デビュー3年目で躍進を遂げたXGに学ぶ、日本音楽世界進出の秘訣
世界最大級の音楽フェスとして知られる「コーチェラ」に、ガールズグループのXGが初出演を果たすことが決定して大きな注目を集めています。
XGは日本人7人組のガールズグループとしてAVEXのグループ会社であるXGALXから2022年3月にデビューした、まだ3年目の若いグループです。
「Xtraordinary Girls」の頭文字をとったXGというグループ名に象徴されるように、日本人でありながら全ての楽曲を英語で歌唱し、5年間もの育成機関を経て生み出された完成度の高いパフォーマンスで、デビュー直後から多くのファンを魅了。
デビュー3年目にして、世界三大フェスの1つとも言われる「コーチェラ」の単独ステージ出演を勝ち取ってしまったのです。
参考:XG、「Coachella」初出演が決定。日本人アーティストとしては唯一の選出
しかも、日本人女性アーティストとしては初の、ヘッドライナーに次ぐ2段目に表記される快挙を成し遂げたことに、多くの驚きの声が上がっているのです。
今年の5組出演から一転して1組のみに。
「コーチェラ」といえば、今年はYOASOBIに新しい学校のリーダーズ、初音ミクが単独ステージに出演し、88risingの企画ステージにNumber_iやAwichさんが出演したことで、日本から5組ものアーティストが出演したことが日本でも大きなニュースになりました。
参考:Number_iとAwichのコーチェラ出演に学ぶ、日本の音楽の世界への広げ方
この急な日本人アーティストの厚遇には、一部の業界関係者から昨今の「コーチェラ」がチケット販売に苦戦し始めていることで日本向けのチケット販売への期待が反映されている、という声も出ていたほどです。
実際に、来年の「コーチェラ」においては残念ながら単独ステージでの出演の日本人アーティストはXGのみの選出となっています。
XGと同日にミーガン・ジー・スタリオンさんのステージがあるため、「Mamushi」でコラボしている千葉雄喜さんの出演もあるかもしれませんし、今後88risingの企画ステージなどでサプライズ出演が発表される可能性は残されていますが、今年に比べると再び「コーチェラ」が日本人アーティストにとって狭き門に戻ったのは間違いない状況です。
その状況下でのXGの「コーチェラ」出演決定は間違いなく快挙と言えるでしょう。
最初から世界をターゲットに活動
ではXGは、どのようにしてこの快挙を成し遂げたのでしょうか。
この数年、日本のアーティストや音楽が世界に拡がるケースが増えていますが、主なルートとなっているのが下記の3点です。
■1:アニメタイアップ
■2:TikTokでの話題化
■3:海外でのライブやフェス出演
ビルボードの国際チャートで1位を獲得したYOASOBIの「アイドル」はアニメ「推しの子」の主題歌でしたし、今年大ヒットを記録したCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」はアニメ「マッシュル」の主題歌でした。
そして、どちらもTikTokを中心にファンやインフルエンサーによってダンス動画がミーム化し、大きなバズになったことがヒットの背景にあったと分析されています。
参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法
一方で、XGはアニメなどのタイアップはほとんど実施しておらず、TikTokでの話題化もそれほど大きなものは発生していません。
実はXGはデビュー直後から、地道に海外のフェスやライブに参加することで、現在の地位を確立してきたと言えるのです。
象徴的なのはXGがデビュー2年目には、Head In The Clouds New Yorkなど、アメリカやシンガポール、シドニーなどの海外のフェスに既に何度も出演している点です。
こうした活動が実り、デビュー3年目には単独でのワールドツアーを実現。
アジアだけでも12万人、北米でも5万人を動員し、大きな成功を収めたことが、今回の「コーチェラ」出演につながっているわけです。
BABYMETALや新しい学校のリーダーズも
実は本気で世界を目指したいのであれば、日本国内を中心に活動するのではなく、海外を活動の中心にするのが近道というのは、既に多くの日本のアーティストが証明してきている道でもあります。
例えばBABYMETALは、デビュー当初は国内を中心に活動していましたが、現在では完全に活動を海外に移し、2023年〜2024年にかけては自身最大規模のワールドツアーを展開し、全98公演、累計28万人という大きな観客動員を記録しています。
また、今年「コーチェラ」に出演した新しい学校のリーダーズも、当初は国内を中心に活動していましたが、コロナ禍の渦中で88risingと契約し、海外でのフェス出演などを積極的に行うようになったことが、海外にファンを増やすきっかけとなりました。
また今年は「コーチェラ」出演後にワールドツアーを開催し、世界で6万5000人を動員することに成功しています。
参考:新しい学校のリーダーズ、圧巻の「コーチェラ」出演に学ぶ、言語を超える音楽の力
もちろん、海外のファンを増やしたければ、海外を中心に活動するというのは、ある意味では当然のように聞こえるかもしれませんが、従来の日本のアーティストにとってはハードルが高い選択肢だったと言えるかもしれません。
デビュー直後から海外を意識した活動を選択
XGは、韓国人の父と日本人の母の間に生まれたという背景がある音楽プロデューサーであるJAKOPSさんが、J-POPでもK-POPでもないX-POPを掲げ、最初からグローバルなグループを目指してスタートしているのが成功の原点だったと言えるでしょう。
参考:「これがXGのやり方です」――K-POPでもJ-POPでもない「X-POP」、日本人7人組が世界のZ世代に人気の理由
特にデビュー初期は、日本の音楽番組には出演せず、韓国の音楽番組を中心に出演していたのが印象的です。
実は韓国の音楽番組は、基本的にアーティストの出演したパフォーマンス映像を上記のようにYouTubeで全世界に公開します。
日本の音楽番組は日本人にしか視聴されませんが、韓国の音楽番組であればそのパフォーマンスが話題になれば韓国以外でも話題になる可能性があるわけです。
こうした数々の韓国の音楽番組でのパフォーマンス動画が、XGの人気を早期に海外に広げるのに貢献していたことは間違いありません。
ライブにおいてもファンのスマホでの撮影を推奨
また、XGはライブにおいて、ファンのスマホでの撮影を禁止するどころか、積極的に動画や写真の撮影とSNSでの拡散を推奨していています。
参考:XGのワールドツアーが投げかける、日本だけ逆転するライブ撮影禁止のギャップ
これにより、XGはライブの後にたくさんのファンによる動画がSNSにアップされることになり、この動画もまた海外に新しいファンを増やすことに貢献することになります。
筆者も初めてXGのライブに参加した際に、恐る恐る動画を撮影してアップしてみましたが、世界中のファンから感謝のコメントが投稿されるのが非常に印象的でした。
既に海外ではライブでのスマホでの撮影は一般的になっていますが、日本ではまだ一部のアーティストが解禁をはじめた段階です。
そういう意味で、XGは活動初期から明確に海外の常識のラインに揃えて活動を行ってきたわけです。
全ての選択で世界の常識を意識
もちろん、XGがここまで世界から高い評価を得ているのは、7人のメンバーの素晴らしいパフォーマンスとJAKOPSさんが生み出す楽曲の良さがポイントであるのは間違いありません。
ただ、デビュー3年目で、「コーチェラ」の舞台に日本の女性グループとして最高の位置で出演を決めるほどのスピードで駆け上がることができたのは、テレビの音楽番組出演やライブでのファンの撮影ルールなど、細かい部分も全て世界標準を意識して活動してきたことが間違いなく効いていると言えます。
数年前まで、日本人は世界でヒットするような音楽は生み出せないと考えている人が少なくなかったと思います。
ただ、実は日本のアーティストや音楽がここまで世界に知られていなかったのは、日本の音源がデジタルで開放されておらず、日本の音楽番組が世界から見ることができず、日本のアーティストのライブの様子をファンがひろげることができなかったから、ではないか?
そんなことをXGの躍進が教えてくれている気がします。
XGが「コーチェラ」のステージで活躍し、さらに世界にファンを増やしていくことで、またそのXGの成功を参考に挑戦してくれる日本のアーティストが増えるはず。
まずは、来年のXGの「コーチェラ」のステージを楽しみにしたいと思います。