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Netflix「日本会員1000万」突破で、あらためて注目される「Netflixエフェクト」の影響力

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(写真:ロイター/アフロ)

Netflixが永らく開示していなかった日本国内の会員数を公表し、2024年の上半期時点で1000万を突破していたことを発表しました。

2015年9月2日の日本上陸後、Netflixが着実にその会員数や影響力を増していることは明白でしたが、今回日本での会員数が1000万を突破したことは、日本のエンタメ業界にさらなるインパクトを与えることは間違いないでしょう。

Netflixの日本会員1000万突破が、どういう意味を持っているのか、ここで振り返ってみたいと思います。

4年前に500万会員を突破

これまで、日本は世界的に見ても、特に地上波テレビが非常に大きな力を持っている市場として知られてきました。

米国など、海外では早期に有料のケーブルテレビが多くの家庭に普及し、テレビドラマなどの番組を見るために有料契約を行うことは珍しくない環境が普及していましたが、日本は無料で複数の地上波の番組を楽しめることから、有料契約を積極的に選択する視聴者は少ないと考えられてきました。

特にWOWOWやスカパー!などの有料放送が、日本では300〜400万契約をピークとして推移したため、日本の動画配信サービスの有料契約はせいぜい500万ぐらいが上限なのではないかと考える人が少なくなかったようです。

しかし、Netflixはサービス開始から4年後の2019年8月に「全裸監督」を公開して大きな話題を集めたかと思うと、翌月の9月には会員が300万人に達していることを公表します。

さらに翌年の2020年9月にはコロナ禍の影響もあり、1年で200万人も会員を増やし、あっさりと500万人の壁を突破したことを発表。
参考:ネットフリックス「国内会員500万人」の衝撃度 ライバルの日本勢が埋められない「圧倒的な差」

日本のテレビ業界や映像業界に大きな衝撃をもたらしたのです。

日本会員1000万到達が意味すること

ただ、その後4年間は、日本の会員数についてNetflix側が非公開の姿勢を取っていたため、一部ではコロナ禍後に頭打ちになっているのではないかという予測をする業界関係者もいました。

また、最近ではParaviと統合し433万人と会員を増やしたU-NEXTがNetflixに迫っているという調査結果も出てくるほどでした。

(出典:「動画配信(VOD)市場5年間予測(2024-2028年)レポート」)
(出典:「動画配信(VOD)市場5年間予測(2024-2028年)レポート」)

参考:王者Netflixの“隙”、忍び寄る2番手U-NEXT オリジナル無しの逆張り戦略

それが、今回の発表により、少なくともNetflixの会員数はU-NEXTに迫られているどころか、倍以上の差をつけて順調に増加を続けていたことが明らかになったわけです。

さらにこのNetflixの1000万という数値は、地上波のテレビの視聴率と比較しても大きな意味を持ってきます。

一見、1000万という数字は、日本の人口1億2450万人からすると、10%以下の数字に見えますが、実は世帯数の4885万世帯から考えると20%を超えていると言える数値です。

地上波のドラマも最近は視聴率が全体的に低下傾向にあり、世帯視聴率が10%を超えれば人気ドラマという状況になっています。
仮にNetflixの国内会員1000万の半分の500万世帯が視聴したNetflixのドラマは、ほぼ日本の世帯の10%に届くという計算になりますから、Netflix内の人気ドラマは、地上波の人気ドラマに匹敵するほどの到達率を持ちつつあると言えるわけです。

 

「もうええでしょう」の流行語トップテン入り

ある意味で、今年そのNetflixの影響力を実際に証明したのが、ドラマ「地面師たち」におけるピエール瀧さんのセリフ「もうええでしょう」が流行語大賞のトップテンに入ったことでしょう。

参考:『新語・流行語大賞』トップテンに「もうええでしょう」 『地面師』の方が「社会的に不適切」

本来、有料契約者しか視聴できない「地面師たち」のような配信独占ドラマから、流行語大賞のノミネートがでるだけでも快挙と言えます。

それが「もうええでしょう」は、明らかにNetflixの配信の枠を超えて日本中に伝播。
人気お笑い芸人のチョコレートプラネットがYouTubeで「もうええでしょうゲーム」を発明するなど、大きな流れになり、トップ10入りを成し遂げたわけです。

「もうええでしょう」の流行語大賞トップ10入りは、Netflixが日本の会員1000万突破によって、既に地上波のテレビ局に近い影響力を持ち始めていることの証明と言えます。

日本にも広がる「Netflixエフェクト」

しかも、Netflixには世界に2億8300万を超える会員がいます。


「地面師たち」も30カ国でドラマランキングのトップ10入りを果たしていましたが、2月に公開された「忍びの家」に至っては公開初週でいきなり世界16カ国で1位を獲得し、92カ国でトップ10入りするという快挙を成し遂げています。

参考:世界中で話題の賀来賢人「忍びの家」のヒットに学ぶ、黒船Netflixの意義

その結果、Netflixが9月に公開したデータによると、「忍びの家」は2024年の上半期だけで1590万ものNetflix会員に視聴される結果になったようです。

これは、当然日本国内だけでは達成が難しい規模の大成功と言えます。

海外では、こうしたNetflixの作品が、Netflixの枠を超えて大きな拡がりを見せ、新たなスターが生まれたりトレンドが生まれることを「Netflixエフェクト」と呼ぶようになっているようです。

これまでにも、海外では、「イカゲーム」や「こんまりメソッド」がNetflixを起点に世界的な大ブレイクを見せるなど、様々な「Netflixエフェクト」が巻き起こされてきました。

参考:こんまりメソッドの世界的大ブレイクから考える日本のコンテンツの未来

ある意味では、日本も会員1000万突破により、ようやくその「Netflixエフェクト」が起こりやすい土壌が整った段階ということが言えるかもしれません。

10年間で日本の映像業界を巡る環境は激変

Netflixが日本に上陸してから、来年で10年になろうとしています。

日本に上陸した際に、「黒船」として表現されることが多かったNetflixですが、この約10年間の軌跡を振り返ると、まさにNetflixは文字通りの「黒船」として、鎖国していた日本の映像業界に大きな変化をもたらしたと言えるでしょう。

既にNetflixは、「鬼滅の刃」や「怪獣8号」など、日本のアニメを世界に拡げるプラットフォームとなっていますし、「全裸監督」や「今際の国のアリス」などの実写ドラマを日本の制作会社と一緒に制作することで、日本発の実写ドラマが世界に通用することも証明してくれている存在でもあります。

また実写版「ONE PIECE」では、日本のマンガファンのトラウマになっていた人気マンガやアニメの実写化を、世界にファンを広げるポテンシャルを持っている素晴らしい挑戦であることも証明してくれました。

参考:大絶賛の世界1位スタート。実写版「ワンピース」が日本のマンガの世界への扉を開く。

日本の映像業界が鎖国をしていたために、従来であれば海外での可能性を諦めていた日本の様々なコンテンツが、次々にNetflix経由で海外で評価され始めているわけです。

日本の会員が1000万を超えたことで、今後さらに多くの日本の映像関係者が、Netflix経由での世界挑戦を意識した映像制作に踏み切ることは間違いないでしょう。

これからは、Netflixを「黒船」として恐れるのではなく、日本のコンテンツがNetflixという「黒船」に乗って世界にこぎ出すターンになったと言うべきかもしれません。

次は、日本発の作品が世界でさらなる「Netflixエフェクト」を起こすのを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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