「VALORANT」「リーグ・オブ・レジェンド」のライアットゲームズが追求するeスポーツの新潮流
2009年に米国でリリースした世界的な人気PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」や日本でも話題の「VALORANT」を生んだRiot Games, Inc.(米国)の日本法人である合同会社ライアットゲームズ 社長/CEO 藤本恭史氏にインタビュー。同社は2022年6月にさいたまスーパーアリーナで行われたeスポーツ大会「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2-Playoff Finals」を主催し、2日間の総来場者は2万6千人超と、国内eスポーツ市場の最多動員数を更新。その市場規模と経済効果に企業も熱視線を送る。
海外に比べてeスポーツが遅れているとされる日本において、これらのゲームやイベントがZ世代を中心に爆発的な人気を生んでいるのはなぜか。その斬新なビジネスモデルと日本における潮流の変化に迫る。
全てがプレイヤーファースト
徳力 まず、ライアットゲームズという会社について簡単に説明していただけますか?
藤本 2006年に米国で創業されたゲーム会社です。創業者のブランドン・ベックとマーク・メリルは元々ゲーマーでしたが、銀行員とコンサルタントという別の仕事に就いていました。
2人は、既存のゲーム会社が行う課金モデルやアイテムの売り方などに疑問を感じていました。そこで、「プレイヤーのことを一番に考える会社をつくろう」と考え、ライアットゲームズを設立しました。
プレイヤーファーストのスタンスは、創業以来ずっと続いていて、ビジネスモデルなどに大きな影響を与えています。つまり、プッシュ型でサービスを押し出すか、デマンドプルでサービスやプロダクトを提供するという大きな違いです。
徳力 ライアットゲームズのドキュメンタリー動画を見たことがあります。印象的だったのは、本当にプレイヤーサイドから始まった会社だということです。ファンを大事にしており、5人対5人の対戦型PCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)」の世界大会「World Championship(通称Worlds)」は、毎年すごい同時視聴数ですよね。
藤本 Worldsで同時視聴数が一番多かったのは2021年の大会で、最大同時視聴者数が7386万人でした。日本のゲーム大会ではありえない数字です。これは一画面ごとのカウントなので、ビューイングパーティーも含めると、実際の視聴者数はもっと多いでしょう。
LoLは基本プレイ無料です。日本の多くのモバイルゲームも基本プレイ無料ですが、ある程度進めていくと、先に進めるためには課金が必要になったり、ガチャの購買意欲を高めたりする仕組みがあります。
一方でライアットゲームズのゲームは、どれだけレベルが上がっても、何時間プレイしても、無料のままで遊ぶことができます。実際にお金を払うのは、キャラクターの見た目を変えるスキン(着せ替え)などを購入する場合だけとなります。
まずゲームを楽しんでもらい、キャラクターをデコレーションしたくなるほどゲームに入れ込んでもらって、初めて対価を得ることができるビジネスモデルです。ゲーム開始から、かなり後になって回収できるという形です。
徳力 日本のスマホゲーム、初期はソーシャルゲームと呼ばれており、ガチャで非常に儲かりましたよね。それによって市場が急速に大きくなったのですが、その分、子どもが課金しすぎてしまうという問題が起き、政府の規制が入るようになりました。つまり、ビジネスモデル先行で進んでしまったわけです。
一方でライアットゲームズは設立当初から、プレイヤーがいかに楽しむかを重視し、お金を払わなくてもプレイし続けられるようにしているのですね。それだけだと、どうやってビジネスを成り立たせるのかと疑問に感じましたが、今やLoLは世界的なeスポーツの牽引役として知られます。
初期の頃から、ゲームを競技と捉えてイベント化するeスポーツを意識していたのでしょうか?
藤本 2006年に創業して、LoLの米国リリースが2009年。その少し後にeスポーツを始めました。最初は本当に小さなコミュニティの中で、プレイヤー自身の知識とスキルを人前で発揮してもらう場をつくろうということで始まりました。その後、プレイヤー人口がどんどん増え、よりスキルの高い人たちが現れ、「プロ」と言われるようなレベルの人が生まれ、さらにeスポーツとして伸びていきました。
徳力 元々、eスポーツをやるためのゲームとしてLoLをつくったわけではないのですね。
藤本 そうですね。お金を使わなくてもプレイできるゲームなので、プレイヤーは昔も今もかなり若い方が多くなります。そのためイベント自体も、普通ならチケット代で数万円するようなものも、比較的安価で手に入るようにしています。我々も資金を投じ、プレイヤーからも協力してもらい、スポンサーの方々からも支援をもらって、みんなで最高の舞台をつくり上げるようにしています。
eスポーツは、企業によっては興行、あるいはコンサートのようなイベントとして捉えていますが、私たちはそれとは違う視点をもっています。ゲームのプレイヤーが誰も想像もしていなかった高みに達したとき、その驚くべきプレイを披露し、他のプレイヤーに新しい楽しみ方を還元するためのショーケースとして位置づけています。
eスポーツの文脈で、いろいろな人から相談や質問をもらうのですが、私たちはeスポーツのイベントを単独事業として黒字化できるようなモデルでは展開していません。そのため、専業でeスポーツ事業をしたいと考えている企業とは、方向性が異なる場合があります。
日本におけるeスポーツの転換点
徳力 eスポーツは興行面で注目されがちですが、ライアットゲームズの場合はそれ以前から、プレイヤーのための大会という趣旨で生まれた文化だったのですね。
藤本 はい、プロのプレイヤーが歩んできた歴史やストーリーもあって、ファンが感情移入しやすいのが特徴だと思います。昨年は、レジェンド的なプロゲーマーである韓国のFakerの殿堂入りを讃えて、ライアットゲームズとしてはかなり高額なアイテムを発売しましたが、「高い」と言われつつも、彼を応援したいファンから購入していただきました。
徳力 藤本さんがライアットゲームズに入社された2018年当時、日本ではまだPCゲームがそれほど普及していなかったと思います。中国や韓国と比べると、日本は苦戦するのではないかと私も勝手に思っていました。当時の日本と世界のeスポーツをめぐる環境には、どんな違いがありましたか?
藤本 2018年は「eスポーツ」という言葉が「2018ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされ、日本にも最初の波が来ていました。しかし、当時はeスポーツの定義はまだ曖昧で、ゲーム自体も今でこそカルチャーとして認められてきていますが、まだ否定的に見られる傾向があったと思います。米国ではそういった否定的な認識は1980年代で既に終わっていたのですが…。
さらに、それまであまり注目されていなかったゲーム大会に突然、優勝賞金1億円や5000万円といった大きな金額が提示されたことで、世間では驚きや疑問の声が上がりました。2018年は「日本のeスポーツ元年」のように言われる一方で、受け止め方には大きなバラつきがあったのです。
一方で、中国や韓国ではeスポーツに対する認識が全く異なっていました。中国で行われたWorldsは北京オリンピックでも使用されたスタジアムを会場にし、2~3万人もの観客が集まっていました。
徳力 スポーツのワールドカップのような盛り上がりですね。
藤本 そうです。しかし、日本ではこのような大規模なeスポーツイベントはなかなか理解されませんでした。大きな課題だったのは、世界大会が日本で開催されたことがなかったという点です。日本国内の大会は多くあり、賞金総額1億円といった大会もありましたが、そこに海外のトッププレイヤーが参加することはほとんどなかったのです。
この状況を変えようと、2020年にリリースしたVALORANTというゲームで、2023年に国際eスポーツ大会「Masters Tokyo」を日本で開催しました。残念ながら日本チームは出場することはできませんでしたが、世界中から最高峰のプレイヤーが集う大会を日本で開催し、メディアの協力も得ながら、その規模感や、日本国内の認識と世界とのギャップを示すことができたのは大きかったと思います。日本からの同時視聴者数も10~20万人ほどありました。
徳力 私が最初に衝撃を受けたのは、少し時間をさかのぼって2022年にさいたまスーパーアリーナで行われたVALORANTの日本大会でした。知人に「見ておいたほうがいい」と言われ、当日は行けなかったので後日に映像を見たのですが、さいたまスーパーアリーナが満員で驚きました。
しかもVALORANTは、いわゆるFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム:画面に腕や武器だけが映る一人称視点のシューティングゲーム)ですよね。私は個人的に大好きなのですが、日本では流行らないと思っていたのに、世界的にも人気の高いLoL以上にVALORANTが日本で盛り上がっているように見えるのは、なぜなのでしょう?
藤本 確かに、VALORANTの設定は、日本ではほとんど未知のタイプでした。そんな中で、受け入れられた理由はいくつか考えられます。
まずはLoLでの長年の実績です。新作ゲームを出してもうまくいかないとすぐ撤退してしまう会社も多い中で、私たちは何年も実績を積み重ねてきました。そんなライアットゲームズが出すゲームなら面白いはずだ、という期待を抱いていただいたと思います。
さらに、特にFPSの世界で課題となっていたチート対策にも力を入れました。チートツールを使って不正に有利になる行為は、ゲーム体験を著しく損ないます。他の人気ゲームではチート行為が蔓延し、プレイヤーのモチベーションが下がっていた時期でもありました。そこで我々は独自のツールを用いてチート対策を徹底的に行うことを、リリース前から約束しました。
また、ゲームデザインにおいては、VALORANTは従来のようなリアルな戦争を想定した狙撃や戦略的なプレイを中心にしながらも、ファンタジー要素を取り入れました。各キャラクターが特別な能力を持っていて、そのデザインや世界観もスタイリッシュにし、プレイヤー自身の個性を投影できるものになっています。これにより、従来のゲームに抵抗があった層にも受け入れられやすくなりました。
そして人気を押し上げた大きな要因が、eスポーツの存在です。LoLと違い、VALORANTは最初からeスポーツを想定して開発しました。FPSは日本では一般的とは言えないかも知れませんが、コンペティションが好きなPCゲーマーは実は約200万人はいると推計され、人気ストリーマーの方々もFPSで頑張ってきた人ばかりですから、VALORANTが受け入れられる土壌はありました。
こういった理由でVALORANTは日本での人気を高め、2022年にアイスランドで開催された世界大会では日本チームが3位になるという快挙を成し遂げました。
徳力 世界大会で3位というのは、日本のゲーム界にとっては大きな出来事だったのですね。
藤本 グローバルで展開されているゲームタイトルで、それまで世界に大きく遅れをとっていた日本人プレイヤーが世界3位というのは画期的な出来事でした。オリンピックで日本選手が活躍した時のような高揚感が生まれたと思います。そういった経過を経て、2023年の世界大会が日本開催に至ったことで、日本におけるeスポーツの立ち位置が大きく変わったとみています。
※この記事は、徳力基彦とアジェンダノートの共同企画として実施されたインタビュー記事を転載したものです。