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いよいよ決戦当日。前代未聞のアクシデント乗り越え、パリ五輪への切符をかけた戦いへ

松原渓スポーツジャーナリスト
運命の第一戦に臨む

 いよいよ、決戦の日がやってきた。パリオリンピック2024 女子サッカー アジア最終予選・朝鮮民主主義人民共和国との第1戦は、今日24日(土)日本時間の22時4分にキックオフの笛が鳴る。

 平壌開催が一転、中立国での開催へと切り替わったことが発表されたのは2月8日。その後、AFC(アジアサッカー連盟)と北朝鮮サッカー協会(PRK)の交渉が膠着し、JFA(日本サッカー連盟)にサウジアラビアのジッダが開催地になるという方向性が伝えられたのはなんと、試合5日前の19日だった。

 さらに、20日の夜にサウジアラビア入りした時点でもまだ「開催予定地」のままだった。この理由については、北朝鮮の現地入りが遅れたため、AFCからJFAへの正式レターが遅れたとも聞く。

 結局、ジッダで開催されることが正式に発表されたのは21日の21時半過ぎで、試合時間が決定したのは22日の深夜2時。試合まで48時間を切っていた。

 交渉の中身や過程を知らされず、「待つしかない」日本にとってはもどかしい時間だった。「アウェーまで行って応援したい」と考えていたサポーターの心境を想像すると、やり切れない。

 主将の熊谷紗希と南萌華(ともにローマ)は、日本を経由してジッダ入りしたため、2万キロ近い長距離移動を強いられた(先に開催地が決まっていれば、ジッダに直行できて約3500キロで済んだ)。一方、イングランド組(長野風花、清水梨紗、林穂之香、植木理子)の4人は日本には戻らずロンドンで待機し、21日にジッダで合流。それにしても、試合前までに相当振り回された感はある。

主力の熊谷(左)と南(右)が長距離移動を強いられた
主力の熊谷(左)と南(右)が長距離移動を強いられた写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 一方、後から入った情報によると、北朝鮮女子代表選手たちは中国の丹東から北京まで列車と空路で現地入りしたそうで、日本だけが振り回されたわけではないようだ。

 五輪出場権がかかった重要な一戦で、選手たちのコンディションへの影響が避けらないこの状況は看過し難い。今回の最終予選の結果にかかわらず、2度と同じことが起きないよう、今回の経緯についてAFCに説明を求めたい。

【試合のポイントは?】

 初戦は両国にとってアウェーでの戦いとなるが、カギとなりそうなのは、立ち上がりの15分〜30分間だ。

 2004年のアテネ五輪予選で北朝鮮と対戦し、2ゴールを決めて五輪出場権獲得の立役者となった荒川恵理子は、北朝鮮の印象についてこう語っている。

「すごくガツガツ(プレッシャーに)来て、欧米の選手とは違う鋭さがありましたし、『自分が受けたボールは絶対に失ってはいけない』と思いながらプレーしていました。(昨年10月の)アジア大会で(日本と対戦した)北朝鮮を見たら、やっぱり上手くて強いという印象があって。(日本が勝つのは)厳しいかな、という印象だったのですが、いい時間帯に点を取れて、そこから日本のいい時間帯が始まったので。耐えるところは耐えて、自分たちの流れが来たらいい感じで持っていけるのではないかなと思います」

2004年のアテネ五輪予選で北朝鮮と戦った荒川恵理子
2004年のアテネ五輪予選で北朝鮮と戦った荒川恵理子写真:川窪隆一/アフロスポーツ

 荒川が指摘するその苦しい時間帯を耐え凌ぎ、日本が得意とするカウンター攻撃でゴールをこじ開けることができれば、その後は試合運びが楽になる。ただし、「凌ぐ」と言っても、相手のプレッシャーを恐れていては始まらない。

 センターバックの高橋はなは、「私は試合の始まる1発目から、相手に気持ちも体もぶつけて、逆にびびらせていきたいと思っています。一発目でガツン!といくプレーを周り(のチームメート)が見たら、そこでスイッチも入ると思うので、そういうのは意識してやっていきたいです」と頼もしい。

 なでしこジャパンの最終ラインには高橋(169cm)に加えて、熊谷(173cm)、南(173cm)、石川璃音(172cm)と、フィジカルの強い長身選手が揃う。バチバチと火花が散らされそうな1対1の戦いも見応えがありそうだ。

 チャンスの起点になりそうなのは両サイド。清水梨紗、清家貴子、千葉玲海菜、中嶋淑乃ら、スピードのある選手たちが相手を翻弄できれば、中央の田中美南、長谷川唯、長野風花、藤野あおばらのラストパスやフィニッシュもより生きてくるだろう。

 ホームとアウェーで使用するボール違うことは、試合を見る際にも気にしておきたいポイントだ。今回アウェーで使うのは、molten(モルテン)製の新しいボール。藤野によると、「スポンジで覆われている柔らかい感覚で、(いつも使っているアディダス製のボールより)少し軽い感じもする」そうで、特に両ゴール前では「ディフェンスの選手はロングボールは蹴りやすいと思いますけど、シュートはふかしやすいと思います」との印象があるという。芝によっても跳ね方は変わってくるが、プリンス・アブドゥッラー・アル・ファイサルスタジアムの感触は果たしてどうだろうか。

直前の国内合宿ではアウェーのボールを使ってトレーニングを行っていた
直前の国内合宿ではアウェーのボールを使ってトレーニングを行っていた

【北朝鮮の要注意選手】

 北朝鮮が一体どんなメンバーで来るのか、今大会の招集メンバーの情報さえほとんど出てこないためわからない。だが、予想することは難しくない。昨年、4年ぶりに国際舞台に復帰して以降、第19回アジア競技大会(準優勝)、パリ五輪アジア2次予選(2勝1分)、東アジアE-1選手権(優勝)で招集されたメンバーは計26人。その3つの活動で主力はほぼ固定されており、その時から大きな変化はないだろう。

 率いるのはリ・ユイル監督。23年1月に、長期政権を築いたキム・グァンミン前監督の後を引き継ぎ、北朝鮮女子代表監督に就任している。

 特に注意したいのは、背番号17番のFWキム・キョンヨン(22歳)だろう。昨年のアジア競技大会では5試合12得点で得点王に輝き、日本戦でも1得点(4-1で日本が勝利)と、鮮烈なA代表デビューを飾った。また、2次予選とE-1選手権も合わせると、11試合で17得点の驚異的なペースでゴールを重ねている。

 また、7番のソン・ヒャンシム(24歳)は年代別代表からおなじみのストライカー。2016年のU-17ワールドカップとU-20ワールドカップの優勝メンバーで、日本にも対戦経験のある選手が多い。153cmと小柄だが、アジリティ(敏捷性)が高く、抜け目なく裏のスペースを狙ってくる。

ソン・ヒャンシム
ソン・ヒャンシム写真:西村尚己/アフロスポーツ

 同じくレギュラーメンバーでは中央の14番、ホン・ソングオク(20歳)は、長身でドリブルがうまく、攻撃の起点になりそうな選手だ。前線へのスルーパスや、前述の2人へのパスは通させたくない。

 日本としては、ボールを奪われなければリスクはほとんどない。強度の高いプレッシャー下でのポゼッションは長期に渡って取り組んできたテーマであり、その成果を見せたい。

積み上げの成果を示せるか
積み上げの成果を示せるか写真:築田純/アフロスポーツ

 北朝鮮はオーソドックスな4-4-2で来ることも予想されるが、池田太監督は、3バックと4バックのどちらでいくか、ギリギリまで明かしていない。いずれにしても、池田ジャパンが2021年末の立ち上げからテーマにしてきた「奪う」を試合の中で体現できるよう、ピッチ内外で柔軟に対応していくことができれば、勝利の女神は微笑んでくれるはずだ。

 この試合に向けて、ひと足先にパリへのチケットを掴んだ女子7人制ラクビー「サクラセブンズ」や、バスケットボール日本女子代表「AKATSUKI JAPAN」からも激励のメッセージが届いた。日本女子スポーツ界をあげての“熱”が、今夜の試合に向けられている。

 試合はNHK BSとDAZNで生中継される。NHKの解説は矢野喬子氏と岩渕真奈氏、DAZNは東京NBで元代表の岩清水梓。アジア最終予選の厳しさを知る3人の解説にも耳を傾けながら、白熱必至の90分間を堪能したい。

*表記のない写真は筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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