旧統一教会から財産保全の法案阻止のためのファックスが送られる 岸田首相にも しかしまたも勇み足か
10月13日に、文化庁からの旧統一教会への解散命令請求が出されて、東京地方裁判所において受理されましたが、問題は山積みです。
現在、宗教法人法には財産保全の規定がありません。裁判所が解散命令の決定を出すまでには時間がかかりますが、その間に旧統一教会が財産の隠匿、流出をさせてしまえば、霊感商法、高額献金による被害者への返金がなされないことになりかねません。
それを防ぐために、立憲民主党からは、財産保全の特別措置法案が提出されて、日本維新の会は、財産保全を宗教法人法の改正案に盛り込んでいます。与党である自民党、公明党は、被害者救済に向けてのプロジェクトチーム(PT)を立ち上げての議論がなされています。
しかし10月27日の予算委員会の質疑応答で、その動きを阻止するような旧統一教会の行動が明らかになりました。
岸田首相のもとにも、旧統一教会の文書がファックスされていた
予算委員会にて、立憲民主党の西村智奈美議員は、報道したニュース(「【独自】旧統一教会側から「財産保全は憲法違反」「法案提出控えて」の文書 一部の自民議員宛てに」TBS)のパネルを示しながら、岸田首相に質問をしました。
「旧統一教会が自民党の複数の議員に、財産保全の法案を提出しないでほしいとの文書がファックスで届けられたと報じた内容がこちらです。ここには『同法案を国会に提出することは厳に控えていただきますようお願い申し上げます』とか、『野党が提出した法案は、違憲違法と記載されていた』と映し出されています。これは深刻な問題だと思っております。萩生田政調会長あるいは与党PT(与党プロジェクトチーム)のメンバーにも、このペーパーが届いているのではありませんか」
岸田首相は「報道を承知しております。ご指摘のような文書は、ファックスで私の事務所にも一方的に送られております」と述べます。
旧統一教会が、首相のもとにまで、教団がファックスを送っていた事実が明らかになりました。
与党PTの自民党のメンバーの方々に届いていたかどうかの確認はしない
西村議員は、与党プロジェクトチームの自民党のメンバーの方々に届いていたかどうかの確認をお願いしますが、首相は「どの国会議員にも一方的にファックスが流されているということであります。一方的に流されているものを調べろということですが、これは確認する必要があるとは考えておりません」と答えます。
さらに「我が党として旧統一教会と関係を絶つことの方針を確認しており、不当な影響を受けることは金輪際ないと確信をしています。この文書が送られたことをもって関係があることにはならないことを改めて確認をしておきたいと思います」と述べます。
西村議員は「財産保全はやらなくてもいいとか、憲法上の財産権に反するとか、与党から出てくる意見は、ここに書かれているもの(旧統一教会が送った文書)と内容が似通っているんですよ」と、その影響を受けているのではないかとの懸念を示します。
同議員からの「総理、ぜひ財産保全の法律には、私たちも協力いたしますので、この国会で成立をさせませんか」の問いかけに、岸田首相は「与党PTを立ち上げ、自民党もこの財産保全の問題について方針をしっかりと明らかにしたいと思っています。議論の結果をぜひ注視していただきたいと思っております」と述べます。
国会の質疑を傍聴した被害者からは不安の声
国会を傍聴した、旧統一教会の元2世信者のもるすこさん(仮名)や被害者家族の中野容子さん(仮名)らが取材に応じました。
もるすこさんは「(首相の)答弁は後ろ向きだと感じました。プロジェクトチームには、萩生田政調会長がいますが、私の近しい肉親は八王子教会に所属していて、萩生田議員がいたということも見ています。それくらい関わりのある議員がなぜプロジェクトチームに入っているのかと疑念が湧いてしまいます」と不安を口にします。
また「統一教会からのファックスには、新法を制定せずに既存のもの(現行法)で対応するようにとありますが、統一教会の要望通りに与党のプロジェクトチームの検討が進んでいるように感じてしまいます。そうではなくて、私たち被害者救うために、立憲民主党が出している特別措置法で速やかに進めることを、党を超えてやっていただきたい」と話します。
信者であった母が1億円以上の献金をして、現在、最高裁に上告して返金裁判で争っている中野容子さんは「傍聴をしましたが(首相の答弁には)財産保全に関してのスピード感がなく、最速で、法案を作ろうとする意思を感じられなかった」と残念な思いを口にします。
「被害者救済のためには、特別措置法を急いでやらなければならないことを与党のPTの方にも考えていただきたい。これについては与野党関係ないんです。統一教会の被害に対して、どんな政党であろうと救済しなくてはならないということは誰もが理解していることだと思いますので、急いで進めてほしい」と、今国会中に財産保全の法律制定への強い思いを訴えます。
テレビで国会中継をみていた、被害者家族の橋田達夫さんは「解散命令請求を出した以上、岸田首相も、自民党議員も統一教会とは決別していると僕は信じています。統一教会の言い分をうのみにせず、実効性のある財産保全法案を、臨時国会中に成立させてほしい」といいます。
「必要なことは、新しい法律を速やかに作ること」弁護士の見解
全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士は「岸田首相の答弁を見ましたが、現行法を駆使するという与党のPTでの議論の結果や、各党与党の提出法案についての議論を注視したいということでした。財産保全においては、現行法での対応が難しいところが、そもそものスタートラインとしてあるわけです。それなのに、現行法を駆使してといわれても、それでは実効的な被害者救済につながる可能性は低くなります。必要なことは、新しい法律を速やかに作ること。その検討を今すぐ始めていただきたい」
さらに「11月中旬までのPTの結論を待つとなると、残りの臨時国会の会期は少なくなりますから、新法を作ることが現実的には難しくなるのではないかと考えております。被害者救済については、与党の先生方の発言を見ても一致していると思いますので。ぜひ超党派でどのような法律が必要か、どのような内容にするのか、速やかに協議していただきたい」と話します。
教団がどういう動きをしているかを調べることが大事との指摘
ジャーナリストの鈴木エイト氏は「今日は、岸田首相が自らの事務所にも(文書が)きていたことを答弁されましたが、逆にこのファクスを一方的に送り付けられた議員さんは、まだ(旧統一教会と)関係が薄い人ではないかという見方もできます。実際に(旧統一教会の)関連政治団体の勝共連合の会長や、UPF(天宙平和連合)の議長が国会議員の事務所にアポイントを取って訪ねて、陳情に回っているという情報もあります。教団がいろんな形で、この法案を進めないような動きをしている恐れがある。教団がどういう動きをしているかを調べるべきで、政策や法案の決定にどのように影響があるのかもしっかりと見ていかないといけない」とファックスによる文書だけではなく、それ以外の動きにも注視することの必要性を口にします。
教団からの議員宛のファックスは、旧統一教会の田中冨廣会長と岡村信男法務局長の連名で、送付状を含め18枚もの相当数が送られてきています。そこには「解散命令請求裁判の判断前に、違憲違法な立法措置などがなされないように」や、財産を保全できるようにする法案が「間違っても国会で制定されることがないよう」の言葉もみられて、教団側の必死さが伝わってきます。
教団からの文書は勇み足になる可能性も
しかしこの文書をみながら思うことがあります。
すでに文化庁からは「法人の財産利得を目的として、献金等の獲得が優先されて、信者やその親族が犠牲になることに配慮なく、多数の者を不安や困惑に陥れるなどして、その犠牲を余儀なくさせるようなもの」として、宗教法人法81条1項2号前段の「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと」とする解散命令事由に該当すると指摘されています。
財産の利得目的と指摘されているなか、再び今回の文書を通じて、教団が被害者救済よりも、財産(お金)を第一に考える姿勢を浮き彫りにした結果となっています。
過去の行為と変わらないような行動が今も続いていることは、旧統一教会への解散命令への司法判断を早めることにつながるのではないかとすら思えます。
文化庁による解散命令請求に反論する教団の会見では「海外宣教援助費」が出てきました。
以前のヒアリングで阿部弁護士は「宗教活動でお金を使うことは、目的の範囲内ということをいっておりました。そういう名目で(今後)海外に送金していくつもりなんだと、改めてわかりました。財産保全の必要があることが、昨日の会見からも裏付けられたと思います」と話していますが、それ以降、財産保全の法整備の流れが出てきました。今回の文書も、この時の反論会見に続く、勇み足の結果になるかもしれません。