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新たな"ピーコック革命"は起きるか?来るオスカーナイトは男優ファッションに注目

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
メット・ガラで注目を浴びたキリスト風のジャレット・レト(写真:Shutterstock/アフロ)

 オスカーナイトまで後2週間。賞レースは史上稀に見る波乱含みで、アワードシーズンがクライマックスを迎えた今現在でも、作品賞の予想はなかなかつかない状態だ。そんな混沌とした状況を尻目に、秘かに進んでいるのがオスカー・ファッションだ。どのスターが、いかに他とは被らずに(ここが大事)、どのブランドと契約して、一年で最も晴れがましい夜に登場するのか?今、水面下で行われているであろう情報戦は、もしかして、賞レース以上に熾烈かも知れない。

 レッド・カーペットの華は女優陣だ。先に発表されたゴールデン・グローブ賞からBAFTAフィルム・アワードまでの流れから読み解くと、オスカーでもパワーブラック、パワーホワイト、またはブラック&ホワイトのバイカラーが1つのトレンドになりそうだ。ゴールデン・グローブ賞で共に主演女優賞に輝いたグレン・クローズとオリヴィア・コールマンは、当夜、まるで申し合わせたかのようにケープが印象的な黒のイブニングで登壇。また、BAFTAでクローズはアレクサンダー・マックイーンの黒のドレスで、同じくコールマンはキャサリン妃も着回しているロンドンの人気デザイナー、エミリア・ウィックステッドによる黒白のバイカラーで現れた。BAFTAのカラーバランスは、他に黒を選んだのがメリッサ・マーカッシーとタンディ・ニュートン、白をチョイスしたのがスペシャル・ゲストのキャサリン妃と、ラルフ&ルッソの白のタキシードで悠然と登場したメアリー・J・ブライジ。そして、最も注目を集めたのは、袖と裾に黒いレースがあしらわれ、ボディは白地にスパンコールが編み込まれたマーゴット・ロビーのシャネルのガウンだった。ロビーのこのドレスは、彼女が助演女優賞候補に名を連ねていた『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の世界観をイメージしたもの。このいわゆる"クィーン・ルック"はゴールデン・グローブ賞でも見受けられたもう1つのトレンドで、代表的なテクニックであるメタル素材や甲冑風のビスチエは、オスカーナイトも席巻しそうな気配だ。

 この流れで行くと、今年のオスカー・ファッションも女性の颯爽として潔い強さを表現したものになるのだろうか?しかし、この傾向は2019年春夏オートクチュール・コレクションが打ち出したグラマラスなフラワー・プリントとは逆行するもの。もし、ハリウッド女優の多くが最新の流行に敏感で、それを提案するブランドと交渉が成立したら、来るレッド・カーペットは一転カラフルで溢れかえる可能性もある。

 さて、カラフル傾向がより濃厚なのが男優陣だ。最大のトレンドセッターであるティモシー・シャラメは『ビューティフル・ボーイ』で惜しくも助演男優賞候補から漏れたものの、今年のアワードセレモニーでは常にその斬新で攻めまくったファッションで話題を集めてきた。まず、ゴールデン・グローブ賞では新生ルイ・ヴィトンによる黒シャツの上からラメで輝く黒いハーネスを着用して登場し、メディアをノックアウト。『君の名前で僕を呼んで』で助演男優賞候補になった去年のオスカーナイトでも、ベルルッティのホワイト・タキシードに黒のハイカットブーツを組み合わせて、定番ムードに一撃を食らわした。シャラメは今年のBAFTAではさらに大胆にも、ハイダー・アッカーマンのプリントのシャツとジャケット、裾の脇に赤いマークが入った黒い細身のスラックス、そして、トレードマークのハイカットブーツで登場して、ファッション誌から"最優秀男優onレッドカーペット"の称号を授与されている。

 シャラメよりも前にレッドカーペット上に"ピーコック革命"をもたらしたのはジャレット・レトだ。『ダラス・バイヤーズクラブ』で第86回アカデミー賞の助演男優賞を受賞した時は、イヴ・サンローランの白のタキシードに黒いスラックス、赤い蝶タイという彼にしてみればオーソドックスな装いだったが、髪は胸の辺りまで伸びたロングヘア。それが逆に定番メンズの限界を超えていて、その服選びには卓越したセンスを感じさせた。レトはその後も、ジバンシィの薄水色のタキシードに白のシューズ、そして、彼のワードローブの90%を締めるというお気に入りブランド、グッチの黒字に赤のパイピングに赤い花のタイが効いたタキシード等で、オスカーナイトでは女優以上に注目を浴びてきた。また、"カトリック"というテーマが義務付けられた去年のメットガラでも、レトはすべてグッチでコーディネイトされた"ジーザス・ルック"で現れ、カメラのフラッシュを激しく浴びまくった。それは、普段からファッショニスタとして知られているレトの好みがセレモニーでも踏襲された結果。単なるタイアップとは違う好きな服を着られる楽しみが、そのスタイルからは感じられるのだ。

 今年のオスカーで共に受賞が確実視されている『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックは、BAFTAではベルルッティの白いタキシードに黒いシャツとタイを組み合わせて登場し、一方、『グリーンブック』のマハーシャラ・アリはBAFTAではトム・フォードの定番タキシードだったが、オスカー・ランチョンではスモーキーブラウンのスーツにワインレッドのタイという斬新なチョイスだった。アリは男性ファッション誌ではすでにファッション・アイコンとして特集されるほどの存在だ。何よりも、ファッションのジェンダーレス化が加速する中、2人の装いがオスカーナイトに新たな"ピーコック革命"をもたらすのか?女優ばかりではなく、セレモニーでは常に脇役だった男性たちに、是非、来る夜は注目してみて欲しい。

『グリーンブック』

3月1日(金) より TOHOシネマズ日比谷他にて全国公開

配給:ギャガ GAGA★

提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ

『ビューティフル・ボーイ』

4月12日(金)より TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開

配給:ファントム・フィルム

提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ

 

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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