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2023年最大のカードがついに実現 無敗対決を制すのはスペンスか、クロフォードか

杉浦大介スポーツライター
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

7月29日 ラスベガス T-モバイルアリーナ

世界ウェルター級4団体統一戦

WBAスーパー、WBC、IBF王者

エロール・スペンス Jr.(アメリカ/33歳/28-0, 22KOs)

12回戦

WBO王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/35歳/39-0, 30KOs)

歴史に刻まれる一戦 

 「伝説が生まれる試合だ。父親の世代から語り継がれてきたような種類の戦いだよ」

 スペンスのそんな言葉は、おそらく大袈裟ではないのだろう。

 世界ウェルター級4冠戦がついに正式発表されて以降、この黒人同士の頂上決戦は1981年に行われたシュガー・レイ・レナード(アメリカ)対トーマス・ハーンズ(アメリカ)戦に盛んに比較されている。両選手が依然として無敗という部分にこだわるなら、1999年に実現したオスカー・デラホーヤ(アメリカ)対フェリックス・トリニダード(プエルトリコ)戦にも近いだろうか。

 正直、スペンス、クロフォードには過去のメガファイトの主役となった選手たちほどの知名度はないが、盛大にプロモートされるであろう今戦を通じてそれも変わっていくのかもしれない。現代のスーパーファイトが、歴史に刻まれる一戦であることは間違いないだろう。

 「(成立までに)なぜこんなに時間がかかったんだと多くの人に言われたが、もう問題じゃないよ。僕たちは今ここにいて、7月29日に対戦するんだから」

 6月14日、ニューヨークでの会見の際、いつになく上機嫌だったクロフォードは笑顔でそう述べていた。

 メディア対応時は必ずしも饒舌ではない選手だが、関係者、ファン同様、今戦の挙行を心から喜んでいることは容易に見て取れる。フロイド・メイウェザー(アメリカ)対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦と同じように全盛期に実現しないことが心配され始めたウェルター級頂上戦は、本当に業界のすべての人間に切望された一戦だったのだ。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 約5年前から待望されたマッチアップ

 クロフォードがWBO王座に就いた2018年から同じウェルター級で戦い続けた両者は、紆余曲折を経てこの場に辿り着いた。当初は睨み合いが続いたが、スペンスが所属するPBCのライバルプロモーターであるトップランクとクロフォードが袂をわかったこと、ジャロン・エニス、バージル・オルティス(ともにアメリカ)といったハイリスク&ローリターンの若手しか目ぼしい対戦相手候補がいなくなったことなどから、2人の距離は昨年以降、急速に縮まっていった。

 昨年秋に実現していればタイミング的にベストに近かったが、最終的には交渉は頓挫する。それでもShowtimeのスポーツ部トップ、スティーブン・エスピノーザの「昨秋の大きな落胆が今回へのモチベーションになった。交渉の席に戻った際には皆、より力が入っていた」という言葉通り、そこでの停滞も推進力になった印象もある。

 今戦に関して特徴的なのは、主役の両雄の間にはわかりやすい形のリスペクトが存在することだ。スペンスとクロフォードは3月以降、何度となく電話で直接言葉を交わしてきたのだという。そういう形で両陣営のギャップを埋め合い、大興行成立まで持ってきた2人の間には、友情などではなくとも、互いに必要なダンスパートナー同士だという自覚と連帯感が存在するのだろう。

 「(交渉を進めるため、)実際に彼と電話で話し合わなければならなかった。そうしなければ成立はなかった。ウェルター級だけでなく、世界最高のボクサーを決める戦いだ。すべてをかけるつもりだし、それは彼の方も同じ。偉大な選手の意志を砕いてみせる。心身ともに支配して、頂点に立つ」

 そんなスペンスの言葉からも見えてくる通り、ロサンジェルス、ニューヨークでの2度の会見時にも2人に敵対意識は感じられず、トラッシュトークもよりフレンドリーなものだった。

 これから先も度が過ぎたレベルで激しく罵り合うことはないだろう。試合をPPV中継するShowtime、その姉妹会社であるCBSという巨大プラットフォームを上手に使い、協力し合いながら盛り上がりに尽力していきそうな予感がある。

 上質なカードが次々と実現する中でも、最高の一戦

 ここまでの経緯はどうあれ、少々遅くなったものの、遅すぎないタイミングでこの対戦が実現することにアメリカのファンも歓喜している。

 近年は好カードがなかなか成立せずにファンを苛立たせてきたボクシング界だが、ここに来てジャーボンテ・デービス(アメリカ)対ライアン・ガルシア(アメリカ)、デビン・ヘイニー(アメリカ)対ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、スティーブン・フルトン(アメリカ)対井上尚弥(大橋)といった上質なマッチアップが次々と陽の目を見ることになった。そして、ビジネス面はともかく、格的には今年度ベストといえるスペンス対クロフォード戦がついに挙行されることで、真夏の米リングは近年稀に見る熱さを帯びるはずだ。

 「リスクを犯せば、報酬は大きいことを示さなければいけない。最高の相手と戦えば、得られるものも大きいんだ」

 スペンスの言葉はあまりにも正しい。

 この一戦がこのままトラブルなく挙行され、期待通りに盛り上がり、実際に激しい戦いになることにはとてつもなく大きな意味がある。展開、勝敗予想はまたの機会にしたいが、内容的にも語り継がれるようなバトルになっても誰も驚かない。

 余計なキャッチコピーを必要とせず、ただ2人がリングに立つだけで胸が高鳴る4冠戦ーーー。そのゴングまで、もうあと約1ヶ月半である。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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