コロナで冷凍食品が好調の中、独自色が光る「ピカール」日本での戦略とは?
コロナ禍で「冷凍食品」はより身近に
コロナ禍、人々は外出を避け、買い物も頻度高く購入することが出来なくなり、おのずとストックするようになった。
そのような状況下で、冷凍食品は好調な動きとなっている。
外出自粛制限のあった4月は冷凍食品の動向は以下のとおり。
冷凍食品はこれまでスーパーが主戦場であったが、販売チャネルも広がり、コンビニ、ドラッグストア、最近では外食の大手チェーンも店舗で販売し、オンライン販売にも参入している。
各社、しのぎを削っているため、商品力も高く、美味しいことは消費者にとって当たり前になりつつある。
調査でも顧客の評価は顕著に表れている。
日本冷凍食品協会(冷食協)が2020年2月に実施した「冷凍食品の利用状況」実態調査によると、2016年の5年前と比較すると、明らかに男女ともに「おいしい」と言われている。女性は32.2%→54.9%、男性37.4→54.4%と、約20カウントアップしていることがわかった。
たしかに最近の冷凍食品の技術はフライパンで調理する餃子を見てもわかるように、油を使わずとも非常に上手に美味しく仕上がる。
美味しさも生活環境も激変し、冷凍食品は確実に食生活の一部となっていると言える。
冷凍食品がおいしいと一般にまで浸透し、次なるステップとして、いかに差別化するか、見た目、商品内容、そして何と言ってもお値打ちであるかにかかってくる。
コロナ以前より日本の実体経済は思わしくない。それを考えると、価格は何といっても大きなポイントとなるからだ。
今回、取材させて頂いた日本におけるフランス大手冷凍食品のピカールは、イオンと2014年、提携を結び、本場のフランスの味を忠実に家庭で再現でき、日本ではなかなか購入しづらい食材も入っている野菜、そしてそれらを家庭で作るとなると調理が難しい外食の要素をふんだんに織り込んでいる。そして今回、見学してわかったことは、外食や驚くことにコンビニなどと比較してもお値打ちの商品もあることだ。
製氷会社から業務用冷凍食品ピカールへ、その歴史は100年以上
ピカールの歴史は古く、1906年にブロックアイス製造、及び、製氷会社として創業したことがピカールの誕生のきっかけとなっている。
その後、1971年には約300種類の業務用冷凍食品カタログ販売をスタートし、1973年には一般向けカタログ販売、翌年、1974年にはより身近に利用してもらうためにパリに1号店を出店している。
1987年100号店、1994年300号店と着々と出店を手掛け、今やフランス国内外で1100店舗以上となり、ヨーロッパでは8か国展開している。
2020年6月日本では15店舗目、武蔵小金井店出店、さらなる商品数拡充
日本では単独店として2016年11月23日、青山の骨董通りに初出店した。
2020年6月26日にコロナ禍のなか、15店舗目にあたるソコラ武蔵小金井店をオープンした。
規模は135平方メートル。
武藏小金井駅から歩いて数分のところにある商業施設SoCoLAの1階に出店している。
2016年の当初1号店の商品のラインナップ180種類からさらに拡充し、季節商品と通年商品を合わせて350種類となっている。
品揃えの豊富さもさることながら、基本的にコンビニサイズになっている店舗内は、入店すると素材に始まり、味付け野菜、アペリティフ、メイン、そしてデザートにいきつき、レジに流れるようになっている。
そしてあえてお料理のカテゴリーをフランス語で明記していることも大きな特徴である。
そこでピカールのこれまでの日本における取組、商品について、ソコラ武蔵小金井店の見学とともに、イオンサヴールの代表取締役社長小野倫子さん(以下小野社長)にお話を伺うことにした。
池田「日本において、洋風、なかでも御社の商品アイテムの中でも多いフランスの料理は、普段、外食で頂く機会が多くても、家庭ではまだまだ食するイメージがわきづらいのかもしれません。そのようななか、冷凍食品での販売はどのような工夫をなさったのでしょうか」
小野社長「まず出店する際、様々なジャンルの料理に興味があって、作ることやたべることにこだわりを持っている方が集まる場所、レストランが多く立ち並ぶエリアにいたしました。」
日本における出店先を見ると、青山骨董通り店1号店を皮切りに、麻布十番店、中目黒店、代官山となっており、確かに料理をよく知っていて、レストランの多い立地であることが伺える。
最近ではさらに認知度を広げるために、セットものを「ワインに合うフレンチセット」を10月25日までに特別本体価格3000円で販売するなど、フランスの料理を手軽に楽しめるよう、そしてお値打ち価格で認知してもらえるような工夫もしている。
池田「商品を見ますと製造先ではヨーロッパが多く、現地の味を日本人の味覚に合わせるようになさったのでしょうか」
小野社長「基本的には、フランスのピカールと同じ商品をお楽しみいただけるようになっています。一部、日本国内で製造している商品もございますが、あくまでもピカール本部の開発担当が何度も試食し、素材の風味を生かした味付け、安心・安全の担保など、”ピカールらしさ”を感じられる商品に仕上げて販売しております。ピカールでは、塩分控えめに仕上げ、お客様の味覚に合わせて調味可能な商品が多く、毎日でも美味しくお召し上がりいただける味です。また、合成着色料不使用や合成保存料を抑えることもピカールのポリシーです」
製造元を見ると、フランスはもちろんのこと、イタリア、ベルギー、そして日本などがある。
日本では約50商品が製造されたおり、フランスのレシピに沿って、フランス本部とのやり取りを何度も重ね、製造販売されているという。
池田「販売数として最もよく売れている商品はどのようなものでしょうか」
小野社長「クロワッサンが一番人気です。昨年は一日3000個程度でしたが、”ピカクロデー”という6の付く日(6日、16日、26日)に100円OFFで買えるキャンペーンや、店内での試食(現在は休止中)、フランス産のこだわり素材で商品がリニューアルし、美味しさもUPしたことで、現在では一日5000個売れるようになりました」
小野社長「バターはまろやかな風味に仕上げるため、フランス・シャラント県産のAOP認証の発酵バターを24%配合し、平飼い卵を使用しております。持ち帰り時間が長いと柔らかくなってしまうので、保冷バックの使用をおすすめしています」
時間が経つと柔らかくなっていく。しかしそれは、バターがふんだんに使われていることを意味する。
オーブンで約20分焼いた後、サクサクとした食感と風味が十分に味わえる。
調理方法が個々で選べる
オーブン調理が多いという印象が以前にはあったが、調理方法も商品ごとによって多様で顧客が選択できる。
昨年の12月から販売を始めた「フランス南西部産鴨のコンフィ」は当初より8月の時点で倍の売り上げを上げているという。
この商品に関して、調理方法は3種類あり、電子レンジ、オーブン、湯煎と3種類の調理方法から選べる。
顧客の状況により、調理時間、調理方法を選択できるように裏面に記載されている。
レシピも「フランス南西部産鴨のコンフィ」単体では個人的には塩味が効いていると感じたが、料理レシピをWEBでみるとサラダに合わせる料理が掲載されていることから納得できた。
次にすっかりスーパーで定番商品となっているピッツァはトマトソースが主流。
ピカールの人気とされるピッツァを食すると、外食でもなかなかここまでエッジが効いた味は少ない。
とはいえ、チーズ好きな顧客が一度食すると病みつきになり、この商品のために来店購入するだろう。
レンズ豆とスモークサーモンのサラダ 735円(税込)
今回は電子レンジで6分で解凍した。
レンズ豆はもちろんのこと、小さく切ったリンゴも入っており、酸味もワインビネガーで裏面の表示を見ると無添加で程よく食べやすい。
酸味も程よく優しい味になっている。冷蔵庫解凍だと10時間、前日から解凍することで朝食でもいける。
ピカールの味は、徹底して本来の味付けを忠実にしていることで、ややもすると二派に分かれるかもしれない。
例えば嘗て、アンチョビーがピザの上にのっているのを食した当初は、多くの日本人には塩味が強すぎてどうなんだろうか、と思ったものだ。
しかし今ではアンチョビーは、すっかり一般の人々にまで浸透し、それが珍しくない。
食というのは非常に保守的であり、どこかが旗をかかげ諦めないことでようやくリピートにつながる。
しかし時代は急速に変わりつつあるのだ。
氷サイズの小さなポーションで冷凍されたスープが入っている1キロパックは個食対応からファミリー層まで対応
既に日本の3割が単身世帯である。内食が進んでいるなか、一人分の自炊は食材のコストが高くなる場合があり、冷凍食品は一食完結型が多く見受けられる。しかし一食の量も年齢によっては個々に違う。そして二世帯よりどうしても残すことも多くなる。
1キロパックのスープをはじめは単身者では難しいと思っていた。しかしピカールではスープを氷サイズで一つ一つ凍らせて1キロ袋に入っていることで、個々の胃袋に合わせて約30gの氷サイズをいくつか取り出して調整することが出来、一人からファミリーまで幅広く作れる。
健康について 旬のものは旬で冷凍
池田「健康について、いろいろなお考えがあるかと思いますが企業のお考えを教えていただきたいのですが」
小野社長「露地栽培のものを旬の時に収穫・加工・急速冷凍することで、深みのある味わいや栄養価が高い状態をキープできます。またその野菜が本来育つ季節に栽培することにより、ハウスでの加湿、加温といったエネルギー消費や温室効果ガスの排出を抑えられるので、サステイナブルな消費行動にもつながります」
冷凍食品では、大手メーカーが販売しているものは、基本、通年が多く、季節性を打ち出すことでピカールらしさを打ち出している。
1gで計算 外食から見てもお値打ち
次に価格について。
商品の中で素材における冷凍食品はお値打ちである。
コンビニでも販売されている野菜としてブロッコリーがある。
ピカールではBIOブロッコリーが600g538円(税込)となっている。
これを1gだと0.89円。
コンビニでは140gで150円。
これを1gだと1.07円。
次にデザートを見てみた。
メルヴェイユ・オ・ショコラ951円(税込)。
フランス北部の伝統的なお菓子でこれからブームになる兆しの商品。解凍方法は自然解凍で中に入っているメレンゲがサクサクとしており、商品力は高い。
あまり知られていないが多くの外食では、デザートは冷凍を使用することが多く、カフェの多くは冷凍デザートである。
それらの価格を考えると、このボリューム(1個80g)から考えると妥当なのではないだろうか。
ちなみにピカールの商品を購入すると、贅沢フランス料理のコースがおよそ1800円で食することが出来ると言われる。
オピニオンリーダーに提案、オンラインを使って、全国で俯瞰すると
コロナ禍で冷凍食品の需要はますます増えるであろう。多くの企業は売れ行きの良い、米飯、パスタの開発に余念がない。
そんななか、酒にあうアペリティフ、おかず、サラダ、デザートを販売していることは非常に珍しく、さらに言うと、本場の味を忠実に冷凍で再現していることで、ピカールは冷凍食品メーカーとは違うポジションに位置づけしている。
本場の味を知っている人々にとって、ピカールはありがたい存在であり、コロナ前に海外に行き慣れた人々は、本場の味を切望しているのだ。
これまでの冷凍食品は、日本人にとって食べやすい味にすることが販売数確保への安全策であった。しかしこれほどまでどこでも購入できる冷凍食品は、賛否が分かれる味つけであっても、本来の味で挑戦することが大切なのではないだろうか。オンラインも活発化し、出店する立地、商圏で商品の売れ筋が決まるのではない。少ないニッチな顧客であっても全国で見ると、まだまだニーズはあるのだ。
そのように考えると、ピカールの冷凍食品の方針は、ややもするとビジネスとしては難しいと思われがちだが大きくみるとそうではない。
日本の急速な人口減のなか、ヘビーユーザーを生み、同調味力で安心するのではなく、独自の味が求められることで、顧客を取り込む、これこそが今後の日本での食の提案ではないだろうか。