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実用品のデザイン摸倣を防ぐための選択肢

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:イメージマート)

ちょっと前ですが、キャニスターのフタ部分のデザインの類似品に対する著作権法に基づく差止め請求が棄却された判決がありました。侵害か否かの判定以前に著作権法の保護対象外とされたということです。判決文に載っている実際のデザインは以下のとおりです(タイトル画像はイメージであり、訴訟とは関係ありません)。

出典:令和5年(ワ)第5412号 判決文
出典:令和5年(ワ)第5412号 判決文

一般に、大量生産される実用品のデザインを著作物として保護するのは非常にハードルが高く、実用性を超えて鑑賞の対象となるようなものでないと著作物ではないとされるのが通常です。少し前に、TRIPP TRAPPというデザイン性に富む椅子が知財高裁において著作物と認定され、知財業界に衝撃を与えました(参照記事)が、あくまでも例外的事例です。

なお、大量生産される商品であっても、フィギュアやぬいぐるみのように観賞することが主な目的になっている場合には著作物認定はされやすいです。また、写真の著作物であれば、素人が撮ったスナップ写真でもほとんどの場合に著作物として保護されます。

苦労して創り出した工業製品のデザインは著作物として保護されず、テキトーに撮った写真が著作物として保護される(特に手続しなくても著作者の死後70年という長期にわたって保護される)というのは理不尽と思われるかもしれませんが、著作権法は創作の苦労(いわゆる、「額に汗」)に報いるための法律ではないのでいたしかたありません。

では、この種の実用品のデザインの摸倣を防ぐためにはどうしたらよいでしょうか?いくつかの選択肢があります。

① 意匠権による保護

意匠とは「工業デザイン」のことです。意匠法は、まさに大量生産される実用品のデザインの摸倣を防ぐための制度です。特許と同じく、出願して登録査定を受けることが必要です。登録から25年と比較的長期に権利を維持できます。なお、特許と同じく、既に世の中で知られているデザインは登録できませんので、販売前に意匠登録出願しておくことが前提です(最初の販売から1年以内であれば猶予期間とされますが、それでも、販売前に出願することをお勧めします)。

正直、「こんなシンプルなデザインでも登録できるの?」という意匠登録もあります(意匠登録で大事なのは新規性であって高度性ではありません)。たとえば、先日書いた記事の「めぐりズム」の意匠登録を見れば、シンプルなデザインでも登録可能なことがわかるでしょう。また、いわゆる工業製品でなくても、たとえば、お菓子等、一定の形状があり、市場で取引される物品であれば意匠登録の対象になります(最近では、アプリの画面や建築物の内装等も意匠登録可能になりましたが、また別の機会に説明します)。

冒頭のケースで言えば、販売前であり、かつ、類似のデザインが既に世の中に知られていなければ意匠登録は十分可能だったと思います。侵害訴訟で意匠の類似が認められるかどうかはまた別ですが、少なくともデッドコピー(丸パクリ)は防げます。

② 商標権による保護

商品の形状そのものを「立体商標」として保護することは可能です。商標権は更新料さえ払えば、永遠に権利を維持できる強力な権利です。しかし、私も今までに何回も書いてきましたが、商品の形状そのものを商標登録するのはめちゃくちゃハードルが高く、長年の使用により、消費者の認知度がきわめて高くなった状態(専門的に言うと、「使用による識別性」を獲得した状態)にならないと登録できません。たとえば、相当に知名度が高いと思われる「きのこの山」や「たけのこの里」の形状の立体商標登録も相当の苦労の後に登録されています(関連記事1関連記事2)。

③不正競争防止法による保護

意匠や商標は事前の登録が必要ですが、不正競争防止法であれば、登録なしに摸倣を差止めできます(ただし、いろいろと条件が付きます)。

2条1項1号(周知商標混同惹起行為)

登録は不要ですが、商品の形態が周知であることと消費者の混同を招いたことを立証しなければならないので、権利行使のハードルは高いです。たとえば、フランス製高級ハイヒールのルブタンの赤い靴底(レッドソール)でも周知性不足を理由の一つとして権利行使できていません(関連記事)。冒頭のケースでの適用は難しいと思います。

2条1項3号(商品形態模倣行為)

こちらは周知性や消費者の混同の立証は不要です。ただし、商品の形態が同一(デッドコピー)であること(類似だけでは不充分)、意図的な摸倣であること(偶然の一致は対象外)、商品の最初の販売時から3年以内であること、機能的要素だけのデザインでないこと等が必要です。冒頭のケースで言うと、デッドコピーとまでは言えないことからちょっと厳しいかもしれません。

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ということで、やはり、実用品のデザインの摸倣を防ぎたいのであれば、意匠権による保護が鉄板ということになります。意匠は、特許や商標と比較するとイマイチ認知度が低いような気がしますが、費用も10万円程度からですし、図面を業者に依頼して作成しなくても、CGのアウトプットをそのまま図面代わりに使用することもできますので、もっと気軽に活用されてもよいのではと思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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