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秩父市、市庁舎・市民会館建設を巡り反対派議員を市行政から排除

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

埼玉県秩父市で奇妙なことが起こっている。市民のかなりの層が見直しを求めている市庁舎・市民会館建設を随意契約で建設業者と結び、市議会も圧倒的多数で承認、これに対して反対派の五人の議員は市長不信任案を出して抵抗した。これに対し市執行部は不信任案に賛成した政党の機関紙購読を取りやめるよう市職員に勧告、さらに町会長連絡協議会「コミュニティ懇話会」の集まりで副市長が不信任案に賛成した五議員を通しての市への要望は取り上げないし、五議員は市の公式行事には招待しない、といってのけた。五人の議員が市役所の事務室にきても通路で応対し、衝立から中には入れるなという指示が出ているという話も聞く。いずれも市政への参加や請願権といった市民の権利を奪う対応であるという批判が市民の中から出ている。

民主主義の基礎ともいえる自治と市民の市政への参加を平然と無視するこの事態の発端は、すでに着工が始まっている市庁舎・市民会館建設にある。現市長は45億円の事業計画で市役所を建て替えることを公約にて2013年に再選を果たした。しかし、折からの福島復興事業や、アベノミクスによる景気対策としての公共事業の大盤振る舞いが重なり、入札な常に不落に終わり、事業費は58億円、65億円と積み上がった。

しかし、昨年11月に予定価格65億円で3回行った入札も成立せず不調に終わった。そこで市は応札で最低価格を付けた大成建設と地元業者高橋組の共同企業体を随意契約の交渉に入り、本体工事費51億3864万円、付設工事を含む総額65億円で合意。年末ぎりぎりの12月25日、市議会本会議でその契約を圧倒的多数で承認した。

破たん寸前のアベノミクスの最後の頼みの綱は土建国家の再生とばかりに、政府は公共土建事業の拡大に躍起だが、その熱気は地方自治体にも伝染。いま地方は土建と地方創生がドッキングして、住民無視の無駄な公共事業の大盤振る舞いが目立つ。この秩父市の事例もその一つと言える。

山間地にある秩父市の人口は6万6000人ほど。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、およそ30年後の2043年には半分以下の3万345人になる。高齢化が目立ち、奥秩父地いわれる山間地域では消滅寸前の集落が数多くある。65億円もの施設をつくるとなると、市当局は合併債を使うので市民負担は大きくないというが、それでも後世代にかなりな借金を残すことに変わりはない。人口が半分になれば、一人当たりの借金もそれだけ重くなる。市民会館は1000人収容の大ホールをメインとする施設だが、この地域でそれだけの需要があるのかという懸念もある。稼働日数が少なければ維持費だけで莫大な経費がかかる。人口が減れば当然市職員も減ることになるが、空き部屋だらけの市役所をつくってどうするのか。事業費が65億円になった段階で市民の間から批判や懸念が噴き出し、昨年10月に市民有志で「市役所・市民会館の建設を考える会」という名称で住民運動が動き出した。

◆ガラス8枚で65億円

ことの発端は2011年3月11日にさかのぼる。東日本大震災の日である。秩父市内では5強から6弱くらいの揺れだった。市民の多くは情報を求めてテレビに釘づけになっていた。突然字幕が流れた。<秩父市役所がたおれた>という短いものだった。驚いて駆けつけた人が何人もいたが、帰ってきての報国は、別に何ともないよ、というものだった。

実際、被害は窓ガラス8枚が壊れ、壁に少しひびが入った程度だった。当時の市庁舎の窓は窓枠をがっちりと固定していたので。建物全体が大きく揺れたら割れてしまうのはいわば当然の結果だった。

しかし、市長はすぐにも倒壊の危険があるとして,翌12日午前11時ごろ、会議中の市民をちようしゃから追い出し、市庁舎を立入禁止にした。その後、執務を隣接の市の施設に移動させ、続いて市庁舎と隣の市民会館「秩父宮記念館」を取り壊した。

市は、こうした措置をとるにあたって耐震性を診断を一社にさせただけであった。市議会で、共産党議員から複数の専門機関に診断を仰ぐべきとの要求が出されたが、市当局は無視した。埼玉県建築安全課でも診断を行った。その時の結果は補強の必要なところもあるが、概ね安全というものであったとされている。

◆署名提出の市民に怒号を浴びせる市幹部

「市役所・市民会館の建設を考える会」は昨年10月28日、市長も対して、「市庁舎・市民会館の建設の見直し」を求める署名運動に乗り出した。保守から革新まで幅広い人々が結集しての署名運動の結果、一か月を満たない機関で1万筆を超える署名が集まり、11月21日に第一次集約分1万2643筆の署名を市長に手渡した。市長が立ち上がり、署名を届けた市民から署名簿を受け取っていたそのとき、部屋のひと隅に陣取っていた市幹部職員から、署名を届けた市民に対し、「座るな!渡したら出ていけ」という怒号がとんだ。そこには副市長や市財務部長もいた。現場に居合わせた人の話を総合すると、怒号はそのあたりから飛んだという話が飛び交っている。

署名はその後もさらに積み上げられ、随意契約が市議会本会議で承認された12月25日、本会議開会前に第二次集約分が市長に手渡された。提出された署名は合計1万5442筆であった。この本会議では前述通り、随意契約が賛成多数で承認された後、建設見直し議員の一人から市長不信任案が出され、共産党、新社会党、無所属革新の5人の議員が賛成したが、反対多数で否決された。年が明け、その後に出てきたのが、反対派議員を市の行政から排除するという、地方自治始まって以来ともいえそうな前代未聞の対応であった。この問題は今も続いている。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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