中小企業淘汰の時代 ~ コロナ禍だけではない理由
・取引先の与信管理方針を厳格化
「知り合いが経営者だった中小企業が倒産した。あそこも危ないという噂も耳に入ることが多くなった。」首都圏のある中小企業経営者は、そう話す。さらに「信用調査会社や金融機関からも、取引先、特に新規の場合は、注意するようにと言われている」とも言う。
帝国データバンクの調査結果も、こうした経営者の声を裏付けている。2023年6月に1.065件の回答から、「4割の企業で、自社業界における信用不安や倒産の話を聞く頻度が増えた」ことを明らかにしている。さらに、「4社に1社で、与信管理を厳格化する方針」、「4社に1社で、定期的な与信見直し頻度を上げる可能性」と、多くの企業が取引先の与信管理方針や運用を厳しくするという結果を発表している。
・倒産件数は増加傾向
こうした背景にあるのは、倒産件数の増加にある。同じく帝国データバンクの「全国企業倒産集計2023年上半期報」によれば、2023年上半期の倒産件数は4006件となり、5年ぶり4,000件超え、14年ぶりに全業種で前年同期を上回った。
業種別では、件数では「サービス業」(958件)が最も多く、小売業のうち「飲食店」(378件)は上半期としては過去2番目の多さとなった。
「小売業」(834件)と「建設業」(795件)は、前年上半期よりも200件を超える大幅増となった。また、「運輸・通信業」は、211件と9年ぶりに200件を超した。このように倒産件数の増加は、深刻化していることが理解できる。
・ゾンビ企業の淘汰が始まっている
コロナ禍での雇用調整助成金の終了、ゼロゼロ融資の終了と返済の開始で、資金不足に陥っての倒産や廃業が相次いでいる。
「コロナ禍対策での助成金や融資などで、本来はその前から経営が傾いていた企業が生き残ってしまった。今後、そうした企業が淘汰されるだろう。しばらくは厳しい状況が続くだろう」と、関西地方のある金融機関の幹部職員は言う。同じように関東地方のある金融機関の幹部職員も、「コロナ禍前から売上げが不振に陥っている状況に、原材料の値上げや求人難などが加わり、一気に経営難に直面しているところが、取引先にもかなりある」と言う。
金融機関や中小企業支援団体などの意見を聞くと、IT化や産業構造の変化などから、旧来からのビジネスを継続し、業態転換や新市場創出をできなかった企業の廃業や倒産もあいつでいると指摘する。
売上げの減少、市場縮小といった不況型倒産が増加しているのも、コロナ禍の間、助成金やゼロゼロ融資などで資金が回ったことによって、延命された結果が出ているものと考えられる。2020年にも、懸念されていた「ゾンビ企業」の延命措置が終わり、いよいよ淘汰が始まっていると言える。
・製造業は産業構造の変化の波が
ホンダが2023年7月4日に、連結子会社の部品メーカーの八千代工業をインド自動車部品大手サンバルダナ・マザーサン・グループに売却することを発表した。八千代工業はガソリン車向け燃料タンクなどを製造してきた。しかし、2021年4月に、2040年に世界での販売の全てをEV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)とする計画を公表しており、電動化が進める中で、部品供給網見直し策として。インド企業への売却が決まった。
「電動化は今後、進展するため、うちへの発注量は減少すると言われた」というのは、関西地方のある自動車部品メーカーだ。筆者が話を聞いただけでも、数社で発注元から、今後、電動化の影響で発注量が減少するもしくは、無くなると言われている。
一方、中部地方の中小企業支援機関の職員は、「中部地方では半導体不足などで出ていた受注残があり、生産が復活してきているため、多忙にしている中小企業が多い」と言う。しかし、やはり「国内の各メーカーの電動化が進む中で、エンジン関係の部品メーカーは先行きに不安を持っている」とも指摘する。
・自動車の電動化は大きな影響を与えつつある
トヨタは、7月に入り、2026年に販売予定している次世代電気自動車(EV)で、新たな生産技術「ギガキャスト」を導入すると発表した。この「ギガキャスト」は、すでにアメリカ・テスラが導入しており、大幅な部品点数の削減が可能のとなる。また、素材は現在の鉄から、アルミに変わる。
電気自動車のシェアは20%程度と踊り場に差し掛かっていると指摘する意見もあるものの、各自動車メーカーの発表によれば、電動化への投資が増加し、今後さらに全自動車に占める電動車の割合は上昇する見込みだ。
マークラインズ社の「電気自動車販売月報」によれば、世界市場での電気自動車の販売台数は、BYDが第1位、第2位がTesla、第3位にVWが続いている。しかし、その中でBYDが大きく差をつけており、6月における販売台数は24.2万台となり、前年比約10万台プラスとなっている。他の自動車メーカーも、電気自動車の導入に力を入れており、今後も世界市場での電気自動車の販売台数は増加すると予想される。
「いろいろな意見はあるだろうが、電動車が増加した分、エンジン車が減少すると覚悟しておくべきだ。自動車産業への依存からいかに脱却し、顧客の多角化を進めるかが、大きな課題だ」と関西地方のある部品製造メーカーの経営者は言う。この会社では、すでに取引先の多角化を進め、10年前は売り上げの占める割合が100%だった自動車産業向けを、現在では30%にまで落としている。
「半導体関連は、国内の工場新設などで活況だ。ただ、工場が完成すれば、需要は落ち着く。今のうちに、次の手を考えておく必要がある」と話すのは、別の関西地方の金属加工メーカーの経営者だ。「多くの人は、需要は緩やかに減少していくと考えているが、これまでの経験から、技術革新や素材の転換が起こった場合は、ある程度減少した段階で、ストンと需要が消失する。需要があるうちに、早く次の目星を付けなければいけない」と言う。
・中小企業の淘汰は進む
「ゾンビ企業が淘汰されるのは、致し方ない。」近畿地方の中小企業支援機関の職員は言う。「今回、コロナ禍が終わり、助成金や融資が終わった段階で、急激に経営が悪化しているのは、もともと経営に問題があった企業が多い。ここで、一気に中小企業を整理してしまおうというのが、政府の考えにあると思う」とも指摘します。
ゼロゼロ融資の借り換えに当たっても、その条件として金融機関の厳格な審査と、経営指導が求められている。
電動化の普及に向けて、発注元企業から取引の停止や減少を宣告されている企業も増えている。印刷業のように、インターネットの普及などにより市場規模が縮小し、ネット印刷との低価格競争の煽りを受けて、廃業や倒産が相次いでいる業界もある。
円安やウクライナ侵攻などによる原材料・素材の価格上昇の影響を受け、価格上昇が間に合わず、資金繰りに行き詰るなどする企業も増えている。
・中小企業にとっては逆風ばかり
「最低賃金を引き上げないと必要な従業員を確保できないことも判っている。退職金への税制優遇を廃止して、退職金を廃止するような政策も、人材流動化のためには重要なことも判っている。働き方改革だって、大切だ。そんなことは全て判っているが、しかし、中小企業にとっては逆風ばかりだと、仲間の経営者とぼやいている」と、九州地方のある中小企業経営者は苦笑いして言う。さらに続けて、次のようにも話す。
「廃業する企業は、倒産する企業よりもずっと多い。ダメな企業は潰れて当然だが、地方では中小企業や個人商店が無くなっていき、さらに活気が無くなっている。そういう点も、もう少し考えて欲しいけれど、それもぼやきかな。」
地方の経済状況も、悪化しつつあったものが、コロナ禍によって中途半端な形での横ばいとなった。
しかし、コロナ禍が一段落し、中小企業の倒産件数、廃業件数が急増しつつある。そのことは、そのまま地方経済の状況を深刻化させる。
残念ながら、政府もコロナ禍からの復興には、「ゾンビ企業の淘汰が必須」という方針のようだ。それは間違っていないが、その過程では副作用として、健全であるべき企業にも悪影響が拡がる。
企業経営者は、本格的な淘汰の時代の始まりに、覚悟をもって経営に当たる必要がありそうだ。