釧網本線を応援「MOTレール倶楽部」が北海道鉄道活性化協議会から表彰されました
ひがし北海道から嬉しいお知らせが届きました。釧網本線などを盛り上げるべく活動している市民団体「MOTレール倶楽部」が北海道鉄道活性化協議会から表彰されました。表彰式は5月26日、北海道新聞電子版の報道は6月2日でした。
鉄道利用促進に貢献 道活性化協から表彰 網走・MOTレール倶楽部:北海道新聞デジタル
北海道鉄道活性化協議会は北海道総合政策部交通政策局交通企画課内に事務局を置き、会長は北海道知事です。活動内容は「駅や車両の魅力向上など、様々な取組を通じて、鉄道に対する応援活動を行う」「仕事やレジャーなどにおける、鉄道やバスなどの公共交通機関の利用を図るとともに、鉄道を活かした魅力ある観光地づくりや、情報発信、誘客活動などを行う」「本道の鉄道が置かれている厳しい状況や、鉄道網の重要性を発信する」の3つ。パートナーとして参加する団体は454もあります。商工会議所、観光協会、タクシーやバスの事業者、市民団体などです。
「MOTレール倶楽部」は網走あたりで活動する市民団体です。「網走あたりで」という理由は事務局を持たないから。ボランティア活動のため、経費のかかることは一切やらないと徹底しています。メンバーから会費も取りませんし、寄付も集めません。釧網本線や石北本線を旅する人向けにおみやげグッズを作って販売し、活動費に充てています。そのグッズにしてもJR北海道ときちんと契約し、ライセンス料を支払っています。連絡手段は会長の石黒明氏の電話番号です。石黒氏は農業を営んでおり、法人格が必要な取引は石黒氏の会社が窓口になります。
主な活動は釧網本線や石北本線を盛り上げること。廃線反対運動などの政治的な活動は行いません。純粋に鉄道を好きな人々が集まり、地域おこしや鉄道の応援活動を実施しています。社会人、高校生、東京農大オホーツクキャンパスの学生さんも参加しています。タダで列車に乗れるから、旅行客が喜ぶと嬉しいから、など、目的はさまざま。家庭や職場とは別の「もうひとつの社会に参加できる」が大きな魅力のようです。
「MOTレール倶楽部」の実績として、写真展の開催や貸切列車の企画、SL列車「SLオホーツク号」を実現しました。JR北海道が「できない」と言うことは無理強いしない。なんとか一緒にできることを探し続けて、協力関係を築いていきました。
「MOTレール倶楽部」のMOT(もっと)は、当初「M…もとよし、O…温泉、T…友の会」でした。網走湖畔の鉄道ファン向けの旅館「もとよし」に集まり、意気投合した仲間たちの鉄道趣味サークルです。その後、鉄道を応援しようという主旨で結束を固め「M…まじめに、O…おもしろく、T…鉄道と地域を考える」のMOTとなりました。
会の結成の経緯と活動内容について、私は2年前に記事化しています。
「鉄道を盛り上げるボランティア」の報酬は何か 網走に学ぶ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/7 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
とくに大きなイベントは、釧網本線で真冬に運行する観光列車「流氷物語号」のボランティアガイドとグッズ販売です。「流氷物語号」の前身「流氷ノロッコ号」から継続しています。2021年からはファミコンゲーム『オホーツクに消ゆ』とのコラボを実施しました。このゲームのパソコン版は1984年、ファミコン版は1987年に発売されました。主要な事件現場が網走港、知床でした。また、犯人の手がかりとなる「涙を彫ったニポポ(ニポポ)」は、網走刑務所で作られており、服役者から重要な情報が得られます。
ニポポは網走市が商標登録しており、人形の製作は網走刑務所だけです。MOTレール倶楽部のすごいところは、コラボにあたり網走市役所を通じて「涙を彫ったニポポ」を網走刑務所に発注しました。これも話題となり、『オホーツクに消ゆ』で遊んだ人たちが次々に「流氷物語号」に乗りに来て買ってくれたそうです。
コロナ禍で乗車しに行けないという人のために通信頒布も行いました。ただし「全国のみどりの窓口で運行区間の普通乗車券を買って送ること」が条件です。グッズと一緒に乗車券も日付印を押した状態で返ってきます。ちゃんと釧網本線の売上にも貢献する方式です。
「ニポポ」はもともと、網走刑務所内に自生していた槐(えんじゅ)という木で作られていました。しかしニポポがお土産品として人気となり増産が続いたため、刑務所内の槐は減っているそうです。おそらく現在は材料を仕入れていることと思います。刑務作業ですから生産量も少ない。しかし「涙を彫ったニポポ」はグッズの中でも高額(3,000円)にもかかわらず飛ぶように売れていく。はたして刑務作業品に増産をお願いしてもいいものか……MOTレール倶楽部も網走市役所も悩んだそうです。このコラボ、網走刑務所の受刑者の皆さんのご協力も成功の要素でした。
JR北海道が3月29日に発表した流氷物語号の利用状況によると、2023年の乗車人数は8,775人。前年より3,874人も増えました。前年比179.0%です。前年がコロナ禍の自粛ムードという背景もありますが、やっと実力を発揮したと言えそうです。
北海道新聞の記事に添えられた表彰状にはこうあります。「貴団体は貸し切り列車の運行や観光列車の歓迎をはじめテレビゲームとの連携など多年にわたり鉄道と地域の活性化向け先進的かつモデル的な事業に精力的に取り組まれました ここにその功労をたたえ表彰します」
ゲームのコラボもちゃんと評価されていますね。『オホーツクに消ゆ』は、ゲーム作家の堀井雄二氏がドラゴンクエストシリーズ発表の前に手がけた作品としても知られています。その前に手がけたゲーム『ポートピア連続殺人事件』は今年、スクウェア・エニックスが『SQUARE ENIX AI Tech Preview: THE PORTOPIA SERIAL MURDER CASE』としてリメイクしました。
AIの自然言語処理を使って会話形式で遊べます。『オホーツクに消ゆ』もどのような形であれ、リメイクしてほしいと思います。
「MOTレール倶楽部」は結成以来、10年以上も地道に活動し、やがて自治体やJR北海道と信頼関係を築き上げました。こうした活動は鉄道の現場で働く人々の支えになり、その思いはきっと鉄道会社の幹部に届くはず。全国の鉄道応援団体の皆さんも励みになるかと存じます。継続は力なり。がんばりましょう!
(2023年6月14日11時44分 脱字などを修正しました)