藤井聡太八冠、プレイバック八冠ロード ~王座戦での歴史に残る逆転の数々~
2023年、藤井聡太八冠(21)が歴史的な偉業、全タイトル制覇を達成しました。この記事では、八冠達成となった第71期王座戦での戦いぶりに焦点を当てます。
最後のタイトルとなった王座獲得を目指して本戦トーナメントから登場した藤井八冠は、何度も窮地に追い込まれましたが、そのたびに奇跡的な逆転を見せました。
ここからは、第71期王座戦での数々の逆転劇について解説していきます。
詰み寸前からの逆転劇
本戦トーナメントで最も苦戦したのは、2回戦の村田顕弘六段(37)との一戦でした。
誰の目にも苦戦の状況に追い込まれた藤井七冠(当時)は、あらゆる手を尽くしますが、村田六段の巧妙な指し回しに苦しみました。
△6四銀は6三から動かした銀で、タダで取られるところに銀を差し出す勝負手です。
逃げ道を作って後手玉の詰めろを防ぎながら、▲6四同角には△5九金▲同玉△5七香からの詰みがあります。
図で▲4二金△6一玉▲4一馬と村田六段が指していたら、八冠へのチャレンジは翌年へと持ち越されていたでしょう。
△7五銀と逃げ道をふさぐ香を外しても、▲5一馬△7二玉▲6二馬以下の詰みとなります。
他に△7三香として逃げ道を作る手も考えられますが、後手が香を手放したために▲6四角が成立して先手の勝ち筋となります。
実戦では△6四銀に対して▲6八銀と受けにまわったことで形勢が混沌とし始めて、最後は藤井七冠が一瞬の隙をついて即詰みに討ち取りました。
詳しくは当時の解説記事をYahoo!ニュースにてご覧いただけます。
藤井聡太竜王・名人の逆転劇!八冠への希望をつないだ終盤の「棒銀」
そして、挑戦者決定戦では豊島将之九段(33)との死闘を制し、永瀬拓矢王座(31)への挑戦権を獲得しました。
この対局についても、当時の解説記事をYahoo!ニュースにてご覧いただけます。
将棋史に刻まれた藤井聡太七冠と豊島将之九段の激闘の跡。幻の変化に隠された「4連続妙技」
藤井八冠のプレッシャー
王座戦五番勝負でも藤井八冠は幾度となく訪れたピンチを切り抜け、勝利を手にしていきました。
シリーズの流れという点では、第2局の逆転が大きかったです。
第1局で敗れ、連敗を避けたい藤井七冠(当時)でしたが、第2局でも終盤で苦しい状況に立たされました。
図から永瀬王座(当時)は▲4一金と攻めに出ましたが、この手によって藤井七冠が息を吹き返しました。
以下、△6二銀▲3一金△4三玉▲4一歩成△4四玉と飛車を犠牲に一目散に玉を上部を逃がしたのが好判断で、自玉の安全を確保して形勢を盛り返したのです。
図では▲4四馬と逃げておき、△3三金▲5四馬△4三金▲5五馬と進めるのが最善でした。
▲2二金の詰めろを受ける△4四桂に▲9七角と成香を取ってしまえば先手玉が安全になり、あとはゆっくり後手陣を攻略すればいい状況になります。
このような、遠回りしても確実に勝利を目指す順は永瀬王座が得意としているものですが、藤井七冠のプレッシャーが影響したのか、勝ちを焦ってしまいました。
もし永瀬王座がこの一局を制していれば2連勝となり、藤井七冠は厳しい状況に追い込まれるところでした。シリーズの行方を大きく左右した逆転劇と言えるでしょう。
まさかの詰み逃し
第3局は藤井七冠が逆転で制しました。藤井七冠としては第2局に続いて薄氷を踏む思いでの勝利となりました。
詳しくは当時の解説記事をYahoo!ニュースにてご覧いただけます。
藤井聡太七冠の衝撃的な逆転劇。永瀬拓矢王座が「△3一歩」を選ばなかった理由とは?
そして迎えた第4局でも藤井七冠は永瀬王座に序盤からリードを許します。一瞬だけ藤井七冠にチャンスがくるもつかめず、終盤では永瀬王座が勝勢となりました。
あとは着地だけ、誰もがそう思った時に事件は起きたのです。
ここで▲4二金と打てば詰みおよび安全勝ちが見込まれるため、第4局は永瀬王座の勝利に終わり、王座&八冠の行方は最終第5局に持ち越されるはずでした。
▲4二金以降の詳しい解説は、当時の記事をYahoo!ニュースにてご覧いただけます。
藤井聡太八冠の歴史的な逆転劇ー「その瞬間」、盤上で何が起こったのか
なぜ永瀬王座がここで勝ちを逃したのか、その伏線は3手前にありました。
ここまでは互いの玉が詰むような展開ではなく、図で藤井七冠が△2二玉と早逃げすれば永瀬王座が優勢ながら勝負がつくまでに手数がかかる状況でした。
しかし、藤井七冠が△5二同金▲同成銀△5五銀と進めたことで盤上の様相が一変し、互いの玉に詰み筋が生じる状況になりました。
永瀬王座は、突然の場面転換に頭が切り替わらなかったと後日語っています。相入玉のような長手数を覚悟している中で、いきなり詰む詰まないの判断を突きつけられると難しい状況に陥ることは想像できます。
どちらにいっても負けと悟っていたであろう藤井七冠は、ギリギリの状況に持ち込むことに一縷の望みを託したのでしょう。その判断が歴史的な逆転劇を生み、八冠達成の偉業につながったのでした。