藤井聡太竜王・名人の逆転劇!八冠への希望をつないだ終盤の「棒銀」
6月20日(火)に第71期王座戦挑戦者決定トーナメント2回戦が行われ、藤井聡太竜王・名人(20)が村田顕弘六段(36)に勝って準決勝進出を決めました。
藤井竜王・名人は、まだ獲得していない「王座」への挑戦を目指して、このトーナメントに臨んでいます。
20日の対局では苦戦を強いられましたが、薄氷を踏む思いで勝利を収めました。
逆転の要因となったのは、自陣で守り駒として使っていた銀の活躍でした。
各メディアで話題になった逆転劇を、図面を交えて解説していきます。
怪しい雰囲気
第1図で、藤井竜王・名人の指した△6四銀が逆転への第一歩でした。
藤井玉は▲4二銀以下の詰めろ(※)でしたが、△6四銀によって6三の地点に逃げ道が生まれ、詰めろを回避できました。
※詰めろとは、次に詰みがある状況をさす
また、△6四銀は先手の角に取られる位置ですが、▲6四同角だと△5九金から先手玉に詰みがあります。
△6四銀の局面でも将棋AIの数値は先手の勝ちが近い数字でしたが、人間同士の対局となると「怪しい雰囲気」が出てきました。
では、なぜ「怪しい雰囲気」が生じたのでしょうか。
それは、後手が後で△7五銀と指すことで、詰めろを回避しつつ香を入手する「スペシャルな一手」を繰り出せる可能性が生まれたからです。
このような手が生じると局面が複雑になってきます。限られた時間で人間が全て読み切るのは困難な局面となりました。
実は、△6四銀の場面で▲4二金とすればABEMAの将棋AIは先手勝率98%と示していました。しかしそれは膨大な量を一瞬で読める将棋AIにしか分からないことです。
評価値や勝率の数字は形勢を判断する上で重要な要素であることは間違いありません。
しかし、終盤ではたった一手で評価値や勝率が一変することがよくあります。
さらに、人間では読み切れないような複雑な局面においては、その勝率をただ単に勝つ可能性と結びつけることはできなくなります。
そして実際に、たった一手で将棋AIの勝率が逆転しました。
スペシャルな一手
第2図は、△7五銀と香を取ったところです。
実はその前の手である▲5九同銀と金を取った一手で、将棋AIの数値が逆転していました。それは、△7五銀が「スペシャルな一手」だったからです。
△7五銀は次に△7八香▲6九玉△5九香成以下の詰めろになっています。
また、7五にいた香を取ったことで後手玉の逃げ道が広がり、詰めろを消しています。
この手はいわゆる「詰めろ逃れの詰めろ」とよばれるものです。
△6四銀と角のききに差し出した銀が、自玉の退路を塞いでいた香を奪い、その香が先手の玉を詰ますのに非常に大切な役割を果たしています。
「勝ち将棋鬼のごとし」という言葉がありますが、勝つ時はすべてがうまくいくものです。
実戦は、△7五銀に対して▲7七桂と歩を取って受けにまわりましたが、藤井竜王・名人は△8八竜▲同玉△7七桂成▲同玉△8七飛成と、飛車2枚を相手に渡して一気に詰ましにいきました。
銀が死命を制する
藤井竜王・名人が王手をかけ続け、△8六銀と7五にいた銀で王手をかけました。
実戦は、△8六銀から▲6八玉△5七金と進み先手が投了しました。
以下は一例ですが、▲7九玉△7八歩▲同玉△8七銀成▲6九玉△7七桂▲7九玉△8八成銀で詰みとなります。
最初の図で6三にいた銀は、6四→7五→8六→8七→8八と「棒銀」のような動きで先手の玉にとどめを刺したのです。
筆者も長く将棋を指してきましたが、終盤戦で守備の銀がここまで敵陣深く進出して相手の玉の死命を制する場面を見た記憶はありません。
ABEMAの解説者も「△6四銀からの手順はすごかった」と感嘆していました。最後の詰み手順も簡単なものではなく、藤井竜王・名人が驚異的な終盤力を見せた一局でした。
立ちふさがるのは羽生九段!
「王座」挑戦まであと2勝とした藤井竜王・名人の準決勝の対戦相手は羽生善治九段(52)です。
全タイトル制覇を目指す藤井竜王・名人の前に立ちふさがるのが、現役棋士で唯一全タイトル制覇を達成した羽生九段とは。まるで漫画のようなストーリーが展開されています。
二人の対戦は6月28日(水)に行われます。
この一戦は後世に語り継がれるような戦いになるでしょう。
ぜひ各メディアでご覧ください。