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最強カネロ・アルバレスに待ったをかける男たち ゴロフキンvs村田諒太の勝者との対決はいつ?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カネロ・アルバレス(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

仰天のクルーザー級挑戦

 2021年も残り少なくなり海外ボクシングの1年を振り返るとMVP(年間最高選手)はスーパーミドル級で4団体統一王者に君臨するサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ=31歳)が相応しいのではないだろうか。今週末にはノニト・ドネア、ジョンリール・カシメロ、ワシル・ロマチェンコといった日本のファンも関心が高いボクサーがリングに登場するし、来週には“モンスター”バンタム級2団体統一王者井上尚弥(大橋)が防衛戦を行う。だからまだ決めつけるのは早いかもしれないが、最強ランキング(パウンド・フォー・パウンド)でトップを占めることと今年3試合行い、いずれもTKO勝ちで快勝したことを考慮すると受賞は妥当だと思われる。

 そのカネロが11月中旬、メキシコシティで開催されたWBCの年次総会に出席。来年5月(7日土曜日が有力)に予定される次戦の対戦者に2階級上のクルーザー級のWBC王者イルンガ・マカブ(コンゴ民主共和国)を指名した。昨年末FA(フリーエージェント)を宣言したカネロは文字通り相手を自由に選ぶことができる。各団体からの指名試合通達という束縛はあるにしても売り手市場で、周辺のクラスのトップ選手たちは「金のなる木」カネロとの対戦を誰もが希望している。指名されたマカブは笑いが止まらないだろう。まるで打ち合わせがあったように総会に出席しカネロとフェイスオフまで行った。

 もちろん正式決定したわけではなく、その時点で私は一種のパフォーマンスだと決めつけていた。主要4団体で最大の規模を誇るWBCはメキシコシティに本部がある。今やボクシング界のアイコンになったカネロはメキシコとWBCの顔でもある。ちなみにマカブは往年の大プロモーター、ドン・キング氏が現在抱える数少ない選手の一人。以前、取材でWBC本部を訪れた時、故ホセ・スライマン会長(現会長マウリシオ・スライマン氏の実父)の席にキング氏が座っていて驚いた経験がある。当時ほどではないにしてもWBCとキング氏との関係は深いものがある。カネロvsマカブは私の想像を超える確率で実現するかもしれない。

マカブと対面したカネロ。右はWBCスライマン会長(写真:WBC)
マカブと対面したカネロ。右はWBCスライマン会長(写真:WBC)

メイウェザー氏も苦言

 孤高の道を行くカネロはスーパーウェルター級、ミドル級、スーパーミドル級、ライトヘビー級に続く5階級制覇を新たな目標に掲げた。その意志は純粋に尊重できるにしても外野から「あまりにも自由奔放すぎる」という声が聞こえる。

 最初に総会でマカブの話を出したのはカネロのトレーナーでマネジャーのエディ・レイノソだった。レイノソによるとトレーニングに入る前のカネロの体重は83から85キログラムほどだという。これは200ポンド(約90キロ)リミットのクルーザー級の中間ぐらいのウエート。ボクシングの常識からすれば減量よりもその階級にマッチした「体をつくる」ことが求められる。かなりの冒険だと言えるだろう。

 とはいえカネロの意志が無謀だと見なされず、逆に冷ややかな視線を浴びせられるのはマカブがクルーザー級最強の王者ではないと想定されるからだ。コンゴ出身で南アフリカを拠点にキャリアを進めるマカブ(34歳)は28勝25KO2敗のハードパンチャーだが、対抗王者のローレンス・オコリー(英=WBO)、マイリス・ブリーディス(ラトビア=IBF)よりもカネロが勝利を収める可能性が高いと識者たちは見ている。オコリーかブリーディスに勝ってこそ評価されるというのだ。2年前、ライトヘビー級で当時のWBO王者セルゲイ・コバレフ(ロシア)を倒して戴冠した時も同様な批判がファンやメディアから聞かれた。

 「カネロのクルーザー級進出にケチをつけるつもりはないけれど、マカブは私のメイウェザー・ボクシング・ジムで練習する時期があった。そしてウチの選手たちにボコボコにされていた」

 にわかに信じられないが、5階級制覇王者“マネー”フロイド・メイウェザー氏はコンゴ人の実力に疑問を投げかける。同氏がイチオシなのが、デビッド・ベナビデス(米=25勝22KO無敗)。「あくまで個人的な意見だがカネロはベナビデスを避けている。168(スーパーミドル級)で最強を誇示したいならベナビデスは避けて通れない相手だ」とアピール。自身と関係が親密なPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)のプロモートでリングに上がるベナビデスをバックアップする。

最大の脅威ベナビデス

 メキシコ系米国人のベナビデス(24歳)のセールスポイントは相手に与える圧力だ。大柄な体格を利して攻め立てパワーも兼備し有無を言わせず蹂躙してしまう。「スーパーミドル級ではカネロにとり最大で最後の脅威。(王座統一の段階で下した)カラム・スミス、ビリー・ジョー・サンダース、カレブ・プラントにも勝てるのではないか」(バッドレフト・ドットコム)という評価もある。

 ベナビデスの唯一の欠点は節制と自己管理だろう。無敗ながら「前WBCスーパーミドル級王者」の肩書に甘んじるのは最初の王座はマリファナ反応で、2度目の王座は体重オーバーではく奪の憂き目に遭ったから。そのワルの一面がスター然としたカネロとコントラストを描き、対戦機運を盛り上げる要素になっている――こう言うと語弊があるかもしれないが、カネロがかける圧力に十分対抗できると推測されるのがベナビデスの強みである。

世界ランカーのローランド・エリス(左)をストップしたベナビデス(写真:Amanda Westcott/SHOWTIME)
世界ランカーのローランド・エリス(左)をストップしたベナビデス(写真:Amanda Westcott/SHOWTIME)

誰からも敬遠されるアンドラーデ

 一方、「もう戻ることはない」とカネロが断言しているミドル級で、以前から熱烈なラブコールを送るのがWBO王者デメトゥリアス・アンドラーデ(米=31勝19KO無敗)とWBC王者ジャモール・チャーロ(米=32勝22KO無敗)の2人だ。2人が今、カネロとのドリームマッチを締結するにはスーパーミドル級進出が必須条件になる。

 このうちアンドラーデはカネロの試合後の会見に押しかけて対決を呼びかけるなど積極的な行動が目立つ。しかし残念ながら今まで効果は全くない。サウスポーのテクニシャンでパンチもあり、三拍子も四拍子も揃っている33歳。その実力が逆に災いしてか、カネロだけではなく、村田諒太(帝拳)との統一戦が延期になったIBF王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)、チャーロ、ミドル級でスーパーウェルター級に続く2階級制覇を目指すハイメ・ムンギア(メキシコ)からも対戦を敬遠されている。

 アンドラーデはエディ・ハーン・プロモーターのマッチルーム・ボクシング&ストリーミング配信DAZNと契約しており、ハーン氏を通じてカネロをはじめとする上記の選手と折衝している。いずれも音信がないことから「ハーン氏はアンドラーデのために親身になって交渉しているのか?」といぶかる向きもある。同時にムンギアのケースはWBO1位にランクされながら、WBOはアンドラーデに対し2位ジャニベク・アリムハヌイ(カザフスタン)との指名試合をリクエストしている。これはムンギアが「アンドラーデにはとても敵わない」と暗に意思表示しているからで、アンドラーデの強さを際立たせる。

 アンドラーデは無名のアリムハヌイとの対戦を回避したい様子で、王座を返上してスーパーミドル級転向を画策していると伝えられる。そうなればカネロ挑戦のチャンスが広がる。WBOの通達はアンドラーデの願望をかなえる引き金になるかもしれない。(以下にアンドラーデの最新試合ジェイソン・クィグリー戦の映像)

最強ツイン、チャーロ

 他方でチャーロ(32歳)はカネロがゴールデンボーイ・プロモーションズ傘下だった時、カネロ側からオファーをもらったことがある。しかし時期尚早ということで断った経緯がある。今思うと至極もったいない話だが、あとの祭り。こちらはベルト返上こそ公言していないものの、アンドラーデ同様、スーパーミドル級進出を念頭に置いている。

 ただスーパーミドル級で花を咲かせたカネロに比べてチャーロ・ツインブラザーズの兄は時期を逸した印象が否めない。最新の防衛戦では圧勝したものの、以前ムンギアが2回KOで一蹴したフアン・マシアス・モンティエル(メキシコ)にフルラウンドの戦いを強いられ評価を落としてしまった。とはいえPBCのラインナップでは切り札の一人で、同プロモーションのバックアップを期待できる利点が見逃せない。

 WBCでもミドル級1位のムンギアは、仮にアンドラーデとチャーロが王座を返上すれば王座決定戦に駒を進めるチャンスが広がる。いや、確実にそれを狙っている雰囲気がうかがえる。カネロの決断と動向は同胞のムンギアの今後に影響を及ぼすはずだ。

ゴロフキンvs村田の勝者

 そしてGGG。カネロvsゴロフキンの第3戦がファンの垂涎カードであることに変わりはない。「ゴロフキンに完全決着をつけてこそ、最強だと胸を張れる」との見方も強い。ゴロフキンもラバーマッチを実現するためにはスーパーミドル級進出が条件となる。

 そのゴロフキンと統一戦で雌雄を決するWBAミドル級スーパー王者の村田とって、延期されたとはいえ、これほどモチベーションが高まる設定はないだろう。次回カネロがどの階級でリングに上がるか予断を許さないが、ファンの観戦意欲を刺激するカード、アンフィニッシュド・ビジネス(やり残した仕事)はいくらでもある。近い将来、村田が対立コーナーに立つ可能性は少なくない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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