「不要不急の労働」を拒否する人々 新型コロナで世界に広がる「ストライキ」の波
新型コロナの感染拡大が止まらない。世界中でさまざまな緊急対応が取られている。3月28日、スペインのサンチェス首相は、「不要不急の外出だけではなく、不要不急の経済活動をやめ、労働者は今後2週間、自宅待機しなければならない」と述べ、話題になった。
日本でも新型コロナの感染者が拡大してきており、都知事もロックダウン(都市封鎖)の可能性に言及するなど、その可能性が高まってきている。
しかし日本では「自粛要請」がなされるだけで具体的な生活保障や、働いている人たちの安全措置がどのように講じられるのかは依然として不透明な状況が続いている。
職場や医療現場などがクラスターとして報告されているケースも増えてきた。感染リスクに脅えながらも、出勤せざるをえないという人たちも多いだろう。実際に、私が代表を務めるNPO法人POSSEには、「職場でコロナの感染者が出たので出勤したくない」といった相談が多数寄せられるようになっている。
本記事では新型コロナに対する世界各国の対策や労働者の対応を紹介し、「不要不急の労働」を回避するための「最後の手段」=「ストライキ」についても解説する。
世界の新型コロナ対応政策
新型コロナウイルスは、「濃厚接触」によって感染が広がるとされている。そのため世界各国は、感染拡大を防ぐために「外出禁止」などの措置を講じ、人と人との接触をできるだけ避けるかたちで感染の収束を目指している。感染拡大のために営業停止を命じられる業界も広がっている。
とはいえ労働者は仕事をして収入を得ているのだから、「外出するな」というだけで仕事をストップすることはできないのは当然のことだ。そのため、各国政府は外出禁止や営業停止の措置と同時に、労働者の生活を補償するためのさまざまな方策を講じているのである。
具体的な政策メニューを見てみよう。
韓国では、所得下位70%に対して最大現金約9万円支給することが決定された。香港では18歳以上の市民に現金約14万円支給される。
アメリカでは年収7万5千ドル(約825万円)以下の大人1人につき現金1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万5千円)を直接支給。さらに失業給付を拡大し、自営業やフリーランスにも適用することを決定している。
イギリスではすべてのレストランやパブ、スポーツジムなどを閉鎖することを決定し、企業の規模を問わず休業せざるをえなくなった従業員の賃金の8割を保障する(最大約33万円)。
フランスでも休業する労働者の賃金を100%補償し、小規模事業者やフリーランスにも第1弾として1500ユーロ(約18万円)を支出する。ドイツも自営業者などに3カ月で最大9000ユーロ(約108万円)を保障するとしている。
デンマークでは、大量解雇を防ぐために、常用雇用の労働者には賃金の75%(最大約37万円)、時間給の労働者には賃金の90%(最大約42万円)を保障する。スェーデンでは、新型コロナウイルスによる影響で短期休業する場合、賃金の90%が保障される。
韓国、香港、アメリカは現金給付による対策を講じているのに対して、ヨーロッパ各国は労働者の賃金を政府が保障するかたちで対応していることがわかる。
日本では外出自粛が呼びかけられるだけで、それによって不利益を被る事業者や労働者に対する所得の保障が十分に行われていない。その結果、多くの企業が休業できず、労働者も出勤を要求される状況が続いている。
危機的な状況に陥る前に、「不要不急の労働」を全面的に抑止する政策を打つ必要がある。
危険な業務を拒否する労働者たち
一方で、世界各国の労働者たちは、不要不急の労働を拒否したり安全対策を求めており、その要求を実現するために「ストライキ」という強硬な手段が採られている。
フランスのパリにあるルーブル美術館では、感染リスクを恐れた職員たちがストライキを行い、休館となった。1日5千人以上の来場者があり、職員が感染リスクに晒されることから、職員300人が集まり満場一致で休業に賛成したという。
スペインでは、バスク地方のビドリアにあるメルセデス・ベンツ工場の労働者5千人がストライキを行った。コロナ危機にもかかわらず操業を中断しないという経営判断に反発したかたちだ。
イタリアでは独立系の医療従事者労働組合が「安全策が確保されていない」としてストライキを呼びかけた。たいへん厳しい状況に置かれているイタリアだが、それでも労働者たちは安全を確保するためにストライキを呼びかけ、医療現場の安全を確保するよう要求している。
アメリカではツイッター上で「#GeneralStrike」というハッシュタグが広がり、トレンド入りするほどの勢いをみせている。この背景には、アメリカ中に広がっている山猫ストライキ(労働組合の組織的な承認をえずに、実施されるストライキ)があるという。
まず、ピッツバーグのゴミ収集労働者が、マスクや危険手当の支給を求めて違法な山猫ストに突入。ニューヨークのクイーンズでは、アマゾンの労働者が、同僚から新型コロナの陽性反応がでたことを受け、安全策を求めてストライキを計画している。ジョージア州の農場では、鶏肉工場の労働者が、コロナウイルスからの保護を求めてストライキを行なった。
さらに3月30日、買い物代行アプリ・インスタカートのギグ・ワーカーが、1日5ドルの危険手当や消毒ジェルの支給などを求めてストライキに突入した。彼女彼らは、インスタカードがこれらの条件に同意するまでストライキを続けると主張している。
このように、各国では感染拡大の下で、「労働者の安全を求めるストライキ」が拡大しているのだ。黙っていても国や企業がまともな対応をしてくれないような場合には、「ストライキ」で自ら「不要不急の労働」を避け、対策をとるように圧力をかけなければならない。
労働者たちは、「生命の危険」にさらされているのだから、ストライキに訴えるのも当然だといえる。
日本でもストライキによって不要不急の労働を拒否できる
日本でも感染が拡大しつつあるが、接客や窓口対応などで不特定多数の人と接触するような仕事や、介護・保育、教育などのケアワーク、医療現場で働く人たちが大勢いる。もちろん、これらの仕事は必要不可欠であるから、いきなり休業するわけにはいかない。
しかし、安全対策が十分に取られていないことを不安に思われるような職場も相当数に上る。日本においても、ストライキや労使交渉は、そうした安全対策を促す手段となるだろう。
また、ケア関係の仕事とは無関係に密閉されたオフィスに何十人、何百人という労働者がつめ込まれて働かされているというケースも少なくない。こうした場合には、安全対策を求めることはもとより、「不要不急の労働」であれば、それを拒否するためにストライキを行うことは十分可能だ。
ストライキは法律に定められた「権利」であり、これを理由とした不利益な扱いは許されない。また、その効果も絶大である。日本の「ストライキ権」について解説していこう。
ストライキとは意識的に働くことを拒否することだ。ストライキには、就業時間中に全く仕事をしない全日ストライキもあれば、一定時間だけ仕事をしない時限ストライキもある。
そして、これらの行為はすべて「合法」とされている。正当なストライキ権の行使によって、民事責任や刑事処罰を追及されないことが労働組合法によって定められているのだ。
具体的には、ストライキによって業務が滞って損失が出たとしてもその賠償をする義務はないし(民事免責)、ストライキを予告しながら労働条件の改善を要求しても強要罪などは適用されない(刑事免責)。
例えば、「ブラック企業ユニオン」では、これまでにストライキの権利を活用して、賃上げや人員の増加・残業の削減など、労働条件の改善を勝ち取ってきている。感染リスクのある職場環境の改善を求めたり、感染を避けるために不要不急の労働を拒否するなどの要求も可能だ。
ただし、ストライキ中は賃金が出ないことがネックだ。無給のままストライキを長期間実施することは困難であるから、「雇用調整助成金を申請し、休業を実施せよ」という内容を要求するのもよいだろう。
感染拡大が危ぶまれる状況だからこそ、我慢や無理をして働きつづけるべきではない。自分自身だけではなく、家族など近しい人たちに感染させてしまう可能性もあるからだ。少しでもいまの職場で働きつづけることに不安を感じている人は、まず労働組合などの専門家に相談してもらいたい。
参考:自分の会社が「コロナ対策」をしてくれない時、どうすればいい?
参考:労働組合はどうやって問題を解決しているのか? 「ストライキ」は一手段
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