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東京でさくら満開 東京のさくらの観測を行う標本木がある靖国神社で、115年前に上昇気流観測の試み

饒村曜気象予報士
靖国神社 桜(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

さくらの開花

 気象台等では、さくらの開花・満開の観測を行う対象の木(標本木)は全国58地点にあります。

 さくらの木には個体差がありますので、気象庁では、全国58地点で「正」と「副」の標本木を複数決めています。

 「標本木」が老齢化すると、花が咲かない、あるいは周辺のさくらと大きく開花時期がずれることがあります。

 また、突然枯れるということも、ありえます。

 このため、「正」の標本木が使えないとなったときは、従来の標本木と一番ずれのない木を選び、これを新しい標本木としています。

 このようにして、昭和28年(1953年)以降、さくらの観測が継続されています。

 令和3年(2021年)のさくらの開花は、平年よりかなり早い所が多く、中には観測史上最早というところも少なくありません。

 例えば、3月11日に広島、12日に福岡が開花していますが、いずれも観測史上最も早い開花となっています。

 また、3月14日に東京が開花していますが、これは、観測史上最早タイです。

 ウェザーマップでは、標本木のうち、奄美・沖縄地方を除く53地点について、開花日・満開日の予想を行っています。

 これによると、2月は気温がかなり高くなりましたが、この先3月も高い状態が続く見込みです。

 このため、まだ開花していない地方でも、平年よりかなり早い開花になりそうです(図1)。

図1 さくら開花前線(ウェザーマップの3月18日の予想)
図1 さくら開花前線(ウェザーマップの3月18日の予想)

 週末の土日は、低気圧が発達しながら日本海を東進するため、ほぼ全国的に雨になりそうです(図2)。

図2 各地の天気予報(上段は3月20日の土曜日、下段は21日の日曜日)
図2 各地の天気予報(上段は3月20日の土曜日、下段は21日の日曜日)

 ただ、雨が降るといっても気温が高く、各地でさくらが開花しそうです。

まさに、「催花雨(さくらの開花を促す雨)」です。

標本木と靖国神社

 気象台では、さくらの開花・満開の観測を行う対象の木(標本木)は全国58地点にあります。

 樹種は原則として「ソメイヨシノ」ですが、沖縄県の石垣島・宮古島・那覇・南大東島と鹿児島県奄美大島の名瀬は「ヒカンザクラ」、北海道の稚内・旭川・網走・帯広・釧路は「エゾヤマザクラ」です。

 標本木のある58地点の内訳は、気象台や測候所構内が29地点(50パーセント)、気象台近くの公園等が25地点(43パーセント)、神社や寺は4地点(7パーセント)です。

標本木が神社や寺である4地点

室蘭  室蘭八幡宮  東京   靖国神社

和歌山 紀三井寺   南大東島 大東神社

 明治2年(1869年)に幕末から明治維新にかけての戦没者を祀るために創建されたのが東京・九段にある招魂社(現在の靖国神社)です。

 翌年には、細長い参道を中心に細長い楕円形の周回コース(1周が900メートル)が作られ、招魂社祭典競馬が開催されています。

 このとき、周回コースの周囲に木戸孝允(桂小五郎)によって数十本の桜が植えられました。

 以後、多くの桜が植えられ、現在ではソメイヨシノ、カンザクラ、フジザクラ、シダレザクラなど樹種が多彩な600本の桜が植えられています(タイトル写真参照)。

 気象庁が東京で行っているさくらの観測は、昭和41年(1966年)以降、靖国神社のさくらを標本木としています。

 それ以前は、千代田区大手町の気象庁(前身は中央気象台)構内のさくらで行っていました。

 気象庁が道路一本を挟んだ東側に移転し、その跡地にKKR竹橋会館、毎日新聞社が建てられるという再開発が行われた結果、さくらの木などは移転できなかったからです。

 昭和40年(1965年)は気象庁の移転が終わっていますので、さくらの観測は、跡地に残されたさくらの木での観測です。

 ただ、どのような経緯で靖国神社に決定したのかは、資料が残っていないので分かりませんが、気象庁近くにある桜の名所で、桜の木の管理がきちんとできていることに加えて、気象庁の業務に協力的なところという観点で選ばれたのではないかと思われます。

 明治40年(1907年)3月20日に東京博覧会の開会を祝う煙火が靖国神社で打ち上げられたとき、中央気象台(現在の気象庁)では、この煙火を利用して上昇気流の観測を行うなど、気象庁と靖国神社との関係は明治時代から続いていました。

 また、靖国神社境内のさくらですので、きちんと管理がされており、この下で花見客が宴会をして根元を痛める可能性はほとんどないと考えられます。

 加えて、昭和26年(1951年)頃の調査で、東京都内の桜名所の平均的なさくらの開花が、靖国神社のさくらの開花とほぼ同じであるという調査もあります。

 新型コロナウイルス禍で日常生活はストレスが多いですが、桜をめでる素晴らしさは、昔から続いている日本の財産です。

早めに咲いた東京、広島、福岡は来週前半からが見頃になる見込みで、天気も回復していますので、もちろん感染症対策に気を付けて楽しみませんか(図3)。

図3 東京のさくらの見頃予報(上段)と東京の16日先までの天気予報
図3 東京のさくらの見頃予報(上段)と東京の16日先までの天気予報

追記(3月23日4時)

3月22日午前に福岡、同日午後に東京でさくらが満開となりました。

図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:ウェザーマップ提供資料に著者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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