掌の中にすっぽりと納まってしまうような大きさながらも、その中にには五味五感を刺激するような要素が閉じ込められた上生菓子。

四季折々の彩を反映したような色彩に富んだ練り切りなどの作品も非常に魅力的ですが、シンプルかつ温もりをも感じられるような自然の色合いを宿した上生菓子にもまた惹かれることはありませんか？

今回ご紹介したいのは、富山県に本店を構える「引網香月堂」さんの上生菓子、「清らかな」と「夏の夜の夢」の二つ。

薯蕷饅頭の「清らかな」はほんのり青みを帯びた白い皮肌に、季節の象徴のひとつでもある鮎の焼き印が施されたお饅頭。鮎の口元がほんのり青く染まっているのですが、お気づきでしょうか？ただ焼き印を捺すだけではなく、ほんの少し色を添えるだけで清流に身をひそめる鮎を思い浮かべられるような気がします。

そして嬉しいサプライズだったのが、立派でほくほくとした存在感抜群の栗が包まれていたこと。勿論、栗の味わいはもとより、山芋の風味が心地よい皮も個人的にはお気に入り。山芋だけではなく、米粉のふっくらとした香りも備わっているので、満足感も十分。適度な空気感を感じつつも、もちもちとした潤いを帯びた皮は、ほっと安らぐこし餡との一体感も自然な仕上がりです。

さてもうひとつ。そのネーミングからちょっと大人な雰囲気を醸し出す「夏の夜の夢」。いわゆる浮島、という蒸し菓子と羊羹の二層から成る構成の和菓子なのですが、侮ることなかれ。浮島、羊羹のどちらのほうから食べても「マッカラン」というウィスキーの香りがスッと飛び込んでくるのです。それがアルコール臭ではなく、馥郁としたハッとするような香り。そこに黒糖やイチジクといった個性的で華のある甘味が絡み合い、得も言われぬ夢心地に。

ふわふわ、ぷちぷち、しっとりという複数の食感が凝縮されたお菓子。あえてお酒と合わせるもよし、コーヒーとの相性も抜群です。

今回ご紹介した和菓子は、いずれも2色～3色で構成されたシンプルな風貌ですが、その中には様々な種類の甘味や食感、香りが忍ばせてあり、見た目だけでは判断できない豊かな表情をもつもの。

外観だけではなく、どんな刺激や味わいが込められているかを聞きながら購入してみると、意外な出会いがあることも。おすすめです。