クラフトマッコリ・ブームが日本でも。名古屋「円頓寺マッコリ醸造所」は火付け役となるか?
韓国でもブームのクラフトマッコリ
日本国内では珍しいマッコリの醸造所、その名も「円頓寺マッコリ醸造所」が名古屋に登場しました。
マッコリは朝鮮半島の伝統的な大衆酒。米を原料とする醸造酒で、日本のにごり酒のように白濁していて、甘味と酸味と爽やかな微発泡性が特徴です。韓国では近年、材料や独自の仕込みにこだわった小規模の醸造所が増えていて、ここで生産されるものはクラフトマッコリと呼ばれ、食の新たなムーブメントとなっています。
味わいも機材も本場・韓国仕込み
「全工程を韓国製の機材で行う本格的なマッコリ醸造所は、日本ではほとんどないと思います」とは代表の宋善永(ソン ソニョン)さん。宋さんは20代で来日し、日本在住歴20年以上。母国では幼い頃からマッコリの自家醸造風景を見て育ち、マッコリはごく身近なものでした。しかし、日本では決してポピュラーなものとはいえませんでした。
「みんな、日本で流通している有名メーカーのものしか知らず、口に合わないと飲まなくなってしまう人も多い。いろんな味わいや楽しみ方があることを知ってもらいたいと思っていました」
同胞の夫と愛知県内で韓国料理店を営み、2019年に名古屋市内に移転した直後、コロナショックに見舞われます。営業もままならずに不安ばかりが募る中、逆に膨らんでいったのが自分たちだからできるもの=マッコリをつくりたいという思いでした。
「でも、日本にマッコリのつくり方を教えてくれるところなんてありません。インスタグラムで醸造をしている人を見つけて質問しまくったり、韓国の醸造所に片っばしから問い合わせたり、何度も韓国に足を運んだりして、マッコリづくりを学んでいきました」
そんな取り組みを続ける中で、同じ名古屋市西区でクラフトビール醸造をしているワイマーケットブルーイングの代表・山本康弘さんと出会って意気投合。山本さんのアドバイスも受けながら、酒造免許を取得してマッコリ醸造所を設立することを決心します。
今年5月に念願のオリジナルマッコリが完成
そこで、醸造所を併設した店舗にしようと同じ西区内で移転リニューアル。2023年8月に「円頓寺(えんどうじ)マッコリ醸造所」をオープンします。開店に合わせて自家製マッコリも売り出すつもりでしたが、機材の調達や設置、免許の申請などに思いの外時間がかかり、今年4月にようやく酒造免許を取得。そこから仕込みを始め、この5月からついにオリジナルのマッコリの販売がスタートしたのです。
2週間サイクルで仕込み。今後はフルーツマッコリなども
第1弾として完成したのは3種類。いずれも愛知県産米と小麦麹のみで仕込み、フルーティーなタイプ、甘味の少ない辛口タイプ、まろやかで落ち着いたタイプとそれぞれ個性的な味わい。日本で一般的に飲まれているものと比べると、甘味が口に残らず、酵母が活きている奥深さが感じられます。
大手メーカーのものとの違いは、クラフトビールがそうであるように、味わいの複雑さ、種類ごとの明確な個性の違いだと感じました。すなわち、純粋においしいと同時に、あれこれと飲み比べる楽しさがあるのです。透明な上澄みをそのまま注ぐ、韓国では清酒と呼ばれる飲み方も新鮮。これまでに飲んだことのないすっきりした飲み口です。アルコール度数は日本の主なマッコリが6%程度なのに対して10~14%。すいすい飲みやすいのですが、意外と強い酒なので要注意です。
醸造所は店舗の一角のごく小さなスペースですが、1ヶ月に500ml瓶600~1000本ほどの生産力はあるそう。2週間ほどのサイクルで仕込みができるため、毎回異なる酵母やフレーバーを使って新商品をどんどんつくれるのも、クラフトマッコリならではの面白さです。
「フルーツマッコリもつくってみたいし、ハーブや漢方系も試してみたい。今はとにかくマッコリをつくるのが楽しいんです」と宋さん。さらに、「韓国料理だけでなく和食にも合うし、麹を使い酵母が活きているから体にもいい。おいしい上にヘルシーで、どんな人にもお勧めできるお酒です!」と太鼓判を押します。
醸造所で使用している韓国製機材のメーカーでは、日本への納入は初めてだとHPで紹介していて、それを見て海外からの問い合わせがいくつも舞い込んでいるのだとか。もちろん日本での注目度も今後いよいよ高まりそう。名古屋が日本でのクラフトマッコリ・ブーム発信地になる日も遠くない、かもしれません(!?)
(写真/撮影はすべて筆者)