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大相撲初場所で大関取り狙う琴ノ若 祖父である元横綱・琴櫻と実父・現師匠の相撲を新しい形に昇華する

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
力士会の前にインタビューに応じてくれた琴ノ若(写真:筆者撮影)

1年納めの大相撲九州場所で見事11勝を挙げ、自身5度目の敢闘賞を受賞した関脇・琴ノ若。昨年は全場所で勝ち越しと、躍進の1年だった。九州場所での活躍を振り返ると共に、いよいよ大関取りとなる来場所と、2024年へ向けた抱負を伺った。

珍手「大逆手」は「稽古場でもたまに出る」

――九州場所は初日から6連勝の好スタートでした。調子はいかがでしたか。

「めちゃくちゃよかったわけではありませんが、白星につなげていけたのは大事なことでした。その後、2回の2連敗が両方もったいなかったですが、しっかり切り替えて我慢しながら相撲を取り切れたので、それはよかったと思います」

――押しと圧力が光り、我慢して勝ち取った白星も多かったですね。特に3日目の明生関戦では、大熱戦の末に珍手「大逆手」で勝利。ご自身ではあの一番をどう振り返りますか。

「際どかったので、勝ち名のりを受けるまでは“もういっちょ”だと思っていました。内容はよくないので反省です。ただ、珍しい決まり手だったのでよかったかなって(笑)。流れのなかであの形になったわけですが、相手に中に入られた時点で我慢しようと思っていたので、振ったらうまくハマりました。たまに稽古場でも出るんです。(琴)恵光関は小さいので、食いついてこられたら我慢して。もちろん稽古場でも場所でも、相撲内容としてはよくないんですが、我慢できた点ではよかったと思います」

――そのほか、ご自身のなかでよかった相撲は。

「豊昇龍戦です。しっかり形を作りながら圧をかけられました。内容もよかったし、自分の形になれたので。その後の体の反応もうまくできたなと思っています」

――立ち合いは相手にのど輪で来られました。そういったことも頭にあったんでしょうか。

「まあ、何でもしてくるだろうと思っていたので、あくまで自分の相撲を貫いていこうとして、それがうまくハマった感じです。自分の相撲を信じて臨みました」

――千秋楽の熱海富士関戦は、相手にとって優勝に望みをつなげる大事な一番でした。

「自分も『勝てば』敢闘賞でした。そこは知っていて臨みましたね。平常心でいったので、気持ちのブレはありませんでした。相手は緊張しているのかなと思いましたが、土俵に上がったら関係ないので、自分のやることに集中しました」

――相手の雰囲気に飲まれないコツはなんですか。

「余計なことを考えないようにはしています。立ち合いどうしようとか、考えをコロコロ変えても気持ちがブレるだけなので、土俵に上がったら相手を倒すことだけに集中して、それ以外は何も考えないです。なるようにしかならないという感覚」

――そうなんですね。最終的には堂々の11番に敢闘賞受賞。場所を総括していかがでしたか。

「優勝も見えていたので、その部分ではもったいなかったなという気持ちがあります。次につなげられたのはよかったかもしれないんですが、そこを考えても勉強だったなと思う場所でした」

――勉強の場所。いまご自身が思う相撲の課題はどんなところにありますか。

「完璧に近づけるならやらなきゃいけないことは数え切れない程あるので、逆に言えばまだまだ伸びしろがあると思ってやるしかありません。まずは、できてきたこの形の相撲をしっかり伸ばして、そこからプラスアルファでできることを増やしていければいいかなと思っています。長所が伸びれば短所がしっかり見えてくるので、それを修正すればいいと思うんです。直したいことを全部直して相撲が狂ったらいけないので、まずはいまの感覚を忘れずにできることをして、そこから次を考えたらいいかなと思っています」

師匠の名前で大関取りへの挑戦に「感謝」

――目指している理想の相撲は。

「先代(元横綱・琴櫻)みたいな気風のいい相撲が取れればいいんですが、ちょっとタイプが違うし、師匠(元関脇・琴ノ若、現佐渡ヶ嶽親方)っぽい相撲も取るので、真似ではなく二人を掛け合わせた新しい形――二人に“ないもの”と言ったらないような気はしますが、そんな新しい形を作っていけたらいいなと思っています」

――しかし、これで8場所連続勝ち越しですよ。

「コロナ(部屋のクラスター)での休場を除くと、丸2年じゃないですか。苦しい部分もありましたが、8番でもしっかり勝ち越してこの地位にいられていることがひとつ大事かなと思います。ここで出直しするのと、勝って次につなげるのとでは見えてくるものが違いますから」

――この勢いのまま、初場所での大関取りへの思いは。

「そこも、なるようにしかならないなと思っています。いままでやってきたことしか出ないので、しっかり自分を信じて平常心で臨むのが一番。次は大事と言われますが、どの場所も大事ですし、これひとつに絞られたわけではありません。逆に、普段通り思い切り取れたほうがいいと思ってやっています」

――しつこいようですが「琴櫻」襲名も近そうですね。

「いまも師匠からいただいた名前なので、そこは師匠と要相談です。師匠の名前だったものをここまでもってこられたので、まずこの名前で大関取りに挑戦できることに心から感謝しています。そういう気持ちで臨んで、その後で話し合えばいいかなと思います」

九州場所3日目、明生(写真右)に琴ノ若が大逆手を決めた場面(写真:筆者撮影)
九州場所3日目、明生(写真右)に琴ノ若が大逆手を決めた場面(写真:筆者撮影)

――そういえば、最近自由な時間は何していますか。

「暇さえあれば寝ていますね。体力回復しないと、と思って。あとは、コロナ禍からずっと朝ドラを見ていたんですけど、(九州)場所と巡業で2ヶ月半部屋を空けたらもう次の作品になっちゃっていたんですよ。巡業中は朝だから見られないし、そんなこんなで置いていかれました。前回のを諦めて今回のを途中から見始めるか、今回のも諦めて次回を1話から見るか、いまも悩んでいます。もう『朝ドラ見ています』って言えませんね(笑)。レコーダーから携帯で見られるような設定にしておこうかなと思います」

――ご多忙のところ今回のインタビューもありがとうございました。では、初場所の目標と、今年1年に向けた抱負を最後にお願いします。

「場所の目標はいつもと同じですが、優勝を目指したい。自分の相撲をしっかり出し切って、お客さんに喜んでいただけるように頑張っていきたいです。今年も気持ちは変わらず、まだ上があるので、そこに向けて準備していくだけ。しっかり稽古積んで臨めるように精進していくので、見守っていただけたらありがたいです。上を目指すのは辞めるまで続く目標。その積み重ねをしていければいいかなと。若手にも、気持ちで負けていられませんからね」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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