温泉に外国人は戻ってくるのか?ようやく訪日個人旅行客受け入れ再開――。宿泊施設からは倒産を危ぶむ声も
昨日(9月22日)、アメリカ・ニューヨークを訪問中の岸田総理が、来月11日から新型コロナの水際対策をさらに緩和すると発表した。
「1日あたり5万人の入国者数の上限撤廃」「ビザ取得の免除」「個人旅行の再開に踏み切る」。さらに「現在実施されている観光支援策【県民割】を全国に拡大する【全国旅行割】」と「スポーツや音楽、映画などのチケット代を割り引く【イベント割】」を実施することも同時に発表された。
新型コロナの水際対策のさらなる緩和は、大ダメージを受けた観光業界にとっては朗報だろうが、一方であまりに切実な声も聞こえてくる。
外国人観光客の受け入れが再開された6月10日の時点で、
「我々にとっては待望の再開です。インバウンドの回復無くしてコロナ前の業績水準に戻ることはないので」と話していたのは、箱根で10軒の旅館を経営する一の湯グループの小川尊也社長だ。
旅館HPの英語版の修正や海外オンラインツアーエージェントとの折衝を開始し、またインバウンド向けの旅行商品開発の準備を進めていた。
宿泊価格が高価格帯になりがちな“箱根料金”に対し、一の湯グループは革命的な価格破壊を行ってファンを増やした。コロナ前は外国人観光客が4割り占め、賑わったというから、外国人にとっても使い勝手が良かったのだろう。
ツアーに限らず、個人の外国人旅行客を切望する声も以前から強かった。
「円安の影響もあり、徐々に問い合わせが増えています」と話すのは、長年、訪日の個人旅行者をメインに受け入れてきた首都圏のゲストハウスのオーナーだ。
加えて、個人旅行客の受け入れを急ぐ、切迫した状況を教えてくれた。
「そもそも、東京五輪を見込んで訪日客4000万人という数値目標を掲げて、全国にゲストハウスも増やそうとした経緯もありました。
ですが、無利子・無担保の融資の期限が来年7月で切れますので、8月から返済が始まります。その時点で融資の返済ができず、倒産する小規模宿泊施設が続出するのではと懸念しています。
そうすると、せっかく戻ってきた訪日の個人旅行客を受け入れるゲストハウスが存在しなくなります。そんな状態を世界はどう思うのでしょうか……」と怒りに近い感情を表す。
訪日個人旅行客を受け入れて40年以上になる東京都台東区谷中の「澤の屋旅館」の澤功さん(84歳)も、こう語る。
「私どものお客様は90%がアメリカ.ヨーロツパ、オセアニアからの個人旅行客です。訪日客の80%は旅行エージェントを利用されませんので、個人旅行客を入れなければ、世界に後れを取っていると気が気でなかったです。10月は馴染みのお客様から21連泊のお客様の予約も入っています。私が元気な間に、外国のお得意さんの顔が見たいと毎日待っています」
観光地としての魅力度ランキングで日本が初めて世界1位に輝いた。
円安も手伝い、訪日客が増えることで、多少の混乱も予想されるが、しかしそれは日本の観光産業の成長においては、通らねばならない道だ。
とかくインバウンドは、入国者数や経済効果で語られることが多い。
一方で温泉旅館に泊まると、日本人と日本文化にリアルかつ密に接することになり、日本への理解が深まる。今回コメントを出してくれた首都圏のゲストハウスや澤の屋旅館などの小さな宿は、訪日個人旅行客を受け入れ続けることで、人的国際交流を地道に行い、コアな日本ファンを増やしてきた。こうした小さな宿を救うのは、劇的な経済効果に繋がらずとも、将来の観光産業を考えた時に、大切なものを守ることになるのだ。