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「がんになっても手放しません」人間に換算すれば"100歳"まで生きぬいた介助犬...

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

高齢になり引退した盲導犬が元パートナーと再会した物語が話題になっていました。

今日は、人間に換算すれば100歳以上になる17歳まで生き抜いた介助犬のノンちゃん(仮名)のお話を紹介します。盲導犬、介助犬、聴導犬などの人間のために働いてくれている補助犬たちの「老い」についても考えていきましょう。

介助犬のノンちゃんががんに

写真:Paylessimages/イメージマート

ノンちゃんが当院にやってきたのは、いまから3年と少し前で平成29年の11月のことでした。

来院される前に、介助犬のトレーナーのAさんや飼い主の高田さん(仮名)と何度も電話とメールで打ち合わせしてからになりました。それは、ノンちゃんは遠方にいるのでそう簡単に来られる距離ではなかったからです。

17歳のノンちゃんは、がんを患っていました

近くの病院で、手術をしてもらいもうこれ以上することがないと言われていました。しかし、高田さんは、懸命に働いてくれたノンちゃんのために何かしてあげることはないか、と懸命に調べて当院に来られたのです。

介助犬がいるということは、身体の不自由な人が家族にいるということです。そんなこともありAさんは、こちらで引き取ることも提案したそうですが、高田さんは最期まで面倒を見る決心をしていたそうです。

病院の近くに車が止められました。

ノンちゃんは、その時点でほとんど歩くことができなかったので、スタッフが迎えに行きました。27.8kgもある大型犬のラブラドール・レトリバーなので、女性スタッフだけの当院では、抱えるのに力がいりました。

高田さんご主人が車椅子だったし、子どもさんがまだ、小さかったので高田さんも車を置いてから来られました。

ノンちゃんは初めて来る動物病院なので、少し不安気で辺りを見回りしていました。がんの患部は、少し自壊して体液などがにじんでいました。数分後、子どもさんと高田さんご夫婦は、長旅の疲れもみせず明るく待合室に入って来られました。子どもさんは、3、4歳ぐらいで待合室内を元気に走り回っていました。

高田さんは「ノンは、本当に私たちに長年連れ添ってくれました。最期まで、できることを精一杯したいのです。痛みのないように、そして少しでも快適にいられるように」ときっぱり言われました。

私たちは、ノンちゃんをみんなで抱き上げて、診察台に乗せました。血液検査などの結果、強い炎症が起きていることがわかり、抗炎症治療の静脈点滴などをして内服薬などを出しました。

もちろん、がん治療はどんな子でも寛解させることはできないのですが、痛みを取ったり、炎症を抑えたりと生活の質をあげるいわゆるQOLをよくすることはできます。

ただ、ノンちゃんの場合は、高齢で体重が重いこともあり、手間もかかるし、経済的な問題(体重が増えると薬も増えるので)もありました。

しかし、高田さんはそんなことはおくびにも出さずに、これからの治療方法、食事療法などをしっかり聞いて帰られました。

遠距離での治療

小さい子供さんもいて、車椅子のご主人もいる高田さん一家は、簡単に来られる距離ではないので、ノンちゃんのがんの緩和治療をしてくれる動物病院を探してくださり、そこが快く当院の治療を引き受けてくださいました。

ノンちゃんは、動物病院があまり好きではないので、高田さんが、自宅でできる皮下点滴や皮下注射をされることになりました。私は、ノンちゃんを診ている病院に電話で治療法を説明したり、高田さんに主にメールで介護の仕方などを伝えたりしていました。

高田さんご夫婦に抱かれて旅立ったノンちゃん

写真:アフロ

私が診察してから43日目にノンちゃんは、お世話になった沢山の人たちに挨拶をして、そして最期は高田さんご夫婦に抱かれて旅立ったとYさんからメールをいただきました。

盲導犬のように、10歳ぐらいでリタイアして他の人が面倒を見るという制度もあります。ラブラドール・レトリバーの平均寿命で約12歳ですが、ノンちゃんは、それをはるかに超えて17歳2カ月まで生き抜いたのです。

当院で治療開始してから43日後に亡くなってしまったので、わざわざ大阪まで来なくてよかったじゃないのと思っている人もいるかもしれません。ただ高田さんからは以下のようなメールをいただいています。

「先生と出会う前の何もしてあげることが出来ないという日々は家族にとっては辛いものでした。自分たちなりにですが、ノンに最期まで精一杯出来ることはしてあげられた、と思っています」とメールをいただきました。

介助犬とは?

提供:アフロ

盲導犬は約60年の歴史がありますが、介助犬は約25年と歴史が浅く認知度も低く頭数も少ないです。それでは、ノンちゃんがどんな仕事をしていたかを見ていきましょう。

【介助犬の仕事】

具体的には、以下のような仕事をしてくれています。

ドアを開ける

落としたものを拾う(小銭、カード、鍵、書類 など)

介助犬は、小銭などを指示すると喜んで拾って手元に渡してくれます。

指示したものを持ってくる(電話、スマホ、ペットボトル、駐車券 など)

介助犬は冷蔵庫に行ってドアにタオルなどがついているのでそれを使ってドアを開け、中のペットボトルを取り出してドアを閉めます。ドアを開けるだけではなく、訓練を受けているのでちゃんと閉め指示した人の手元まで持ってきます。

緊急時の連絡手段の確保(電話、家族、緊急ボタン など)

介助犬は、支持すればちゃんとボタンなどを押してくれます。

衣服の脱衣補助

服や靴を脱ぐときもだれかに手伝ってもらわないといけないときでも介助犬は、喜んで手伝ってくれます。

我が国には100万人以上の肢体不自由者がいるといわれて、その中で介助犬を必要としている人の数は、約15,000人だそうです。

介助犬と暮らすことで、介助犬ユーザーは大きな自尊心を持てるようになりそして、自立に大きく寄与します。

日本サービスドッグ協会

日本サービスドッグ協会のサイトより

人間のために働いてくれる補助犬がいます。補助犬とは、盲導犬・介助犬・聴導犬をいいます。

この犬たちは、大型犬なので小型犬に比べると老いが早くきます。そして、病気になったり、歩くことができなくなると世話はたいへんです。

日本サービスドッグ協会は、その役目を終えた補助犬の老後のケアおよび、補助犬を利用した障害者の精神的ケアを視野に入れた活動を目的とした支援をしています。詳しいことはサイトに書いてあります。

特定非営利活動法人 日本サービスドッグ協会

住所:〒639-2121奈良県葛城市新村210番地

TEL・ FAX:0745-62-3605

メールアドレス:jsda@servicedog.or.jp

補助犬法が平成15年10月から施行されましたが、まだまだ一般社会に浸透しているとは言いにくいです。ノンちゃんのことから、補助犬の老いや病気などを考えもらうとありがたいです。それでは、補助犬の数を見ていきましょう。

補助犬は日本に何頭いるの?

写真:PantherMedia/イメージマート

補助犬の実働頭数は厚生労働省より公式に発表されています。

2021年4月1日 現在

□盲導犬 861頭

□介助犬 60頭

□聴導犬 63頭

厚生労働省 身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別) より

介助犬・聴導犬が登録されていない都道府県はまだありますが、盲導犬は各都道府県に1頭以上は必ずいます。

いまは、ペットは家族の一員と言われています。そんな時代になっているので、犬の優秀さを理解している人が多いはずです。そして、人のために働いてくれる補助犬が増えて、補助犬が老いや病気になったときも健やかに幸せに暮らせる社会になりますように。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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