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コロナ禍での消費者の旅行・観光への意識を踏まえて観光業が今すべきこととその可能性

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
世界的な新型コロナウイルス感染拡大の中、緊急事態宣言下の東京(写真:つのだよしお/アフロ)

 新型コロナウイルス感染の拡大は、世界的にみると自粛が緩和されつつある国や地域も出てきてはいるが、第二波、第三波も予想され、いまだ予断を許さない状況にある。日本政府は、収束しない新型コロナウイルス感染拡大の中、緊急事態宣言を今月末まで延長した。

 このような中、世界中の観光業(注1)は、大きな打撃を受けてきている。

 国際航空運送協会(IATA)は、2020年4月7日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界の航空会社は2020年の6月30日までの第2・四半期の初めの時点で航空旅客は70%減少し、四半期の損失は390億ドル(約4兆1900億円)に及ぶと発表し、世界的に2500万人の雇用喪失の恐れがあると警告している。

 また、世界旅行ツーリズム協議会(世界の大手旅行会社所属の業界団体)は、新型コロナウイルスによる影響が、現状のまま何カ月も続けば、全世界において7500万人の雇用および2.1兆ドル(約228兆円)収益の喪失と予測している。

 このような打撃は、日本の観光業も直撃している。例えば、観光庁によれば、世界的感染拡大による海外からの入国規制強化などで、2020年3月の訪日外国人旅行者数(推計値)は、前年同月比93%減(19万3,700人)といわれている。この減少幅は過去最大。東日本大震災発生翌月の2011年4月の62.5%減を大きく上回っている。 

 このような状況から、今後の成り行きがいまだ不透明であることもあり、観光業で、多くの廃業や倒産なども増えてきている。

 

 観光業におけるこのような厳しくかつ困難な状況のなか、非常に興味深い調査が発表された。それは、熊本県観光協会連絡会議が公表した「新型コロナウイルス感染症収束後の旅行・観光に関する意識調査・調査報告書」である。同連絡会議は、阿蘇広域観光連盟、一般社団法人・天草宝島観光協会、一般社団法人・宇城市観光物産協会、一般社団法人・人吉温泉観光協会(注2)、平山温泉協会から構成されている。また同調査は、2020年4月27日(月)~29日(水)に、無記名でのWEBアンケート方式で行われ、日本全国の一般消費者を対象にしたものである。

 

 多くの各観光地や各観光事業者・施設は、コロナ禍下において、日々より困難さや厳しさを増しつつある状況のなか、生き残りをかけて、問題・課題の克服に必死に取り組んでいる。

 だが、そのような状況だからこそ、同連絡会議が主張する本調査の目的である「熊本地震からの復興を経験した私たちは、『過剰に希望的でも悲観的でもない、現実的な見通しが事業者には必要だ』ということを学びました。だからこそ、今のコロナ禍の中で暗中模索の全国の観光事業者に何かしらの道しるべが必要との思いから本調査を行い、調査結果を公開いたします」という言葉が、非常に貴重かつ重要な意味をもってくるのである。

 先行きがいまだ不透明な感染症の現状を大きく変えることは、個人や企業さらに政府でもできないわけだが、他方で感染症は必ずいつかは収束し、その後経済や観光業も確実に回復してくる。どんなに目先の対応での厳しい状況があるにしても、それを超えて、「アフターコロナ」ともいうべきその時期についても考え、準備しておく必要がある。

 その際に、本報告書は非常に貴重な情報を提供していると共に、ある意味で明るい可能性というか希望を与えるものになっている。

 

 本調査の主な結果は、次のとおりである。

○今現在の旅行に対する意識調査を実施し、日本全国の一般消費者3,247名からの回答。

○感染症という自然災害以外の新たなリスクを意識し、長期にわたる外出自粛の生活を経験する中で、消費者の生活や常識の変化の出現。

○旅行の在り方においても、次のような大きな変化の兆しの確認。

・外出自粛生活が続くことで、旅行やお出かけに対する消費者の意欲は向上。

・これまでは移動手段の発達で国際観光を含む遠方への旅行が活発化していたが、当面は近郊への旅行・お出かけ市場が主戦場。

・旅行先選びも「3密(密集・密閉・密接)を避ける」を意識し、テーマパークや都市部など密集が想定される場所は回避し、自然や開放感のある場所が好まれる傾向。

・消費者は景気悪化の不安を感じ、旅行等の余暇・レジャーの出費には厳しい状況。

○観光関連事業者に向けて、

・短期的には各種支援制度(緊急融資や給付金など)を受けて経営維持励行の必要性。

・現在のコロナ禍を経た後とコロナ以前との間に出現してきている消費者動向の大きな変化への認識。

・中長期的なWithコロナ/Afterコロナ時代の傾向を先読みし、今の段階から準備や投資を促進しておくことの必要性。

 要は、アフターコロナでは、消費者の志向・嗜好や行動などがこれまでとは変わるので、そのことを踏まえかつ考慮して、次の状況に備えよということであろう。

 それ以外に、筆者が、本調査の結果をみて、気づいたいくつかの点について説明していきたい。

 本調査の質問群のうちの質問「旅行情報の閲覧」では、「自粛後の楽しみが増えるので歓迎したい」57.6%との高い意欲を示す回答を得ている。これと、質問「外出自粛要請後、特に変わったこと」に対して、複数回答で、「インターネットで動画サイトを見るようになった(視聴時間が増えた)」51.5%、「テレビを見るようになった(視聴時間が増えた)」39.3%という視聴機会の高まりを示す回答率を得たことを組み合わせると、観光地や観光施設が、HPやSNSなどで、アトラクティブで適切な情報提供を行えば、消費者への訴求力が高いといえるだろう。

 さらに、そのことと、本調査の質問群「今現在の旅行への印象」の中の質問「旅行への意欲」では、「早く旅行に行きたい」38.9%および「行きたいとは思う」34.6%で、計73.5%ということから「旅行への意欲は高い」と考えられる情報とを組み合わせて考えると、現時点で消費者に有効な情報提供をできれば、情報提供者・情報発信者の当該観光地に旅行してくれる可能性が高まるだろうと予想することができる。

 現在、日本内外の観光地や観光事業者等について調べてみると、それらのいくつかが、HP、SNSやYouTubeの動画等などを活用して情報発信や情報提供などをして、アフターコロナ時に観光に来てくれるように誘っているのがわかる。たとえば、「ハワイ州観光局のおうちでハワイ」「スイス政府観光局」「サンリオピューロランド」「(自宅で入浴体験)有馬温泉湯めぐり」「バーチャル世界で伊勢丹体験」など。そのいずれも、アフターコロナ時にはぜひ訪れたいという気持ちにさせる。また中国でも、このコロナ禍の中、ヴァーチャル旅行がにぎわっているらしい。

 これまでのインバウンド観光に関する情報や調査などをみても、観光を考える際には、実際に観光をする前に、ネットやSNSなどで情報をかなり得て、訪問地等を決めていることがわかっている。その意味からすると、現在の自粛期間は、コロナ後に観光を考えている者が次の訪問場所を探索している、あるいは値踏みしている時間と考えることもできるのである。

 そのことは、先述した調査結果の内容とも符合しているので、観光地や観光施設は、現在は非常に厳しい時期にあるが、現在のような状況だからこそ、有効かつ積極的な情報の発信や提供をしていくべきであるといえるだろう。

 この情報の発信や共有に関して、もう一つ興味深いことがある。それは、実際に観光地を訪れることが難しい中、ヴァーチャル・リアリティー(VR)やYouTubeなどの最新テクノロジーを活用して情報提供がなされていることだ。これによって、視覚的にも臨場感を持ちながら「体験」することで、当該の観光地に行きたいという意欲を駆り立てているのである(注3)。

 

 そして、本調査でもう一つ指摘しておきたいことがある。

 それは、先に説明したように、本調査には、「・これまでは移動手段の発達で国際観光を含む遠方への旅行が活発化していたが、当面は近郊への旅行・お出かけ市場が主戦場。」と指摘されている。

 また、本調査の「旅行意向:自分の地域への旅行者の受け入れについて」の質問に対して、日本人旅行者に対しては「積極的に受け入れるべき」「受け入れるべき」は計61.8%であるが、外国人旅行者に対しては「積極的に受け入れるべき」「受け入れるべき」は計44.2%となっているために、本調査は「自分の居住する地域への受け入れは、抵抗感がある人が多い(特に外国人旅行者)」と結論付けている。

 他方、日本のインバウンド観光において中国人訪日観光客は25%を超えているが、中国や香港のインバウンド観光に関する日本のインバウンドメディアやインターネット上だけで取引を行う旅行会社である大手OTA(Online Travel Agent)の最新の調査結果などによれば、「コロナ後に一番行きたい国は日本」との結果が出ている。

 これらのことを考えると、当該観光地の居住者や地域への意識なども含めた対策も取りながら、インバウンド観光の可能性を活かしていくことも、今後の観光業にとって必要であると考えることができるだろう。

 最後になるが、本調査の公表に関して、熊本県観光協会連絡会議が送っているメールに書かれている「本調査結果が、全国の今苦境に立たされている観光関連事業者の皆様が次なる一手を考える礎になることを祈念しつつ、私たちも熊本からできることを続けて参りたいと存じます。」という一文に、本調査の意味が正に集約されていることと思う。

 この成果を活かして、日本の観光業が、インバウンド観光も含めて、現在のコロナ禍を乗越え、回復そして今回の試練や経験を活かして、更に成長していくことを祈念している(注4)。

(注1)感染症を含めたインバウンド観光におけるリスクに関しては、次の拙記事参照のこと。

「『新型コロナ』で危機直面『インバウンド観光産業』の深刻度」フォーサイト 2020年3月13日

(注2)筆者は、昨年人吉温泉を訪問させていただき、インバウンド観光に関する調査をさせていただき、次のような拙記事を書いたので、参照していただきたい。

「人吉温泉に見たインバウンド観光における外国人人材の可能性」Yahoo!ニュース(個人) 2019年9月3日

(注3)このような流れから、次の記事のように「ヴァーチャル・ツーリズム」という言葉や中国で注目が高まる「ヴァーチャル旅行」などという言葉も生まれてきている。

“Helsinki's huge VR gig hints at the potential of virtual tourism”the Guardian, 2020年5月20日

(注4)本記事は、「JSPS科研費JP18K11874」の助成に基づく研究の成果である。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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