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日韓がドイツとポーランドから学べる教訓「歴史問題は天皇が跪いて謝罪しても完全には解決できない」米教授

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ポーランド侵攻から80年、ドイツの大統領がポーランドであらためて謝罪した。(写真:ロイター/アフロ)

 第2次世界大戦の口火を切った、ドイツによるポーランド侵攻から80年を迎えた9月1日、ドイツのシュタインマイヤー大統領が、ポーランドで行われた式典で謝罪した。

「ドイツの犠牲者となったポーランド国民の前に私は頭を下げ、過去の罪の許しを請う。我々ドイツ人がポーランドに与えた傷は忘れない」

とドイツ語だけではなく、ポーランド語でも謝罪したのだ。

象徴的な行動はパワフル

 ドイツとポーランドの関係から日韓が学べることがあるのではないか?

 ポーランド出身で、政治学や国際関係学を研究し、国際情勢専門誌「ナショナル・インタレスト」などにも寄稿しているポモナ・カレッジ准教授のミェチスワフ・ボデュシンスキ氏に話をきいた。

 ボデュシンスキ氏は、象徴的な行動としての謝罪の持つパワーについて言及した。

「ポーランドとドイツは様々な方法で歴史問題を克服しようとしてきました。重要なのは、両国の指導者たちが歴史問題にきちっと向き合ったことです。1970年12月7日、当時、西ドイツの首相だったヴィリー・ブラントはワルシャワを訪問し、ゲットー英雄記念碑の前で跪いて謝罪するという象徴的な行動を行なったのです。象徴的な行動というのは非常にパワフルです」

 そして、ポーランド侵攻から80年を経た今年、ドイツ政府は再び、謝罪という象徴的な行動をとった。

 80年を経ても、過去の過ちを忘れることなく、反省し、謝罪する姿勢は、被害者たちの傷をいくばくか癒したことだろう。

 しかるに、日本政府は象徴的な行動をとってきただろうか? 首相たちはお詫びをしたではないかという声はある。しかし、多くの韓国の人々はそれが、ドイツがポーランドに対してしたような、象徴的な行動としての謝罪とは受け止めていない。

天皇が謝罪しても完全な解決はできない

 筆者は、アメリカで慰安婦像が設置され始めた頃、設置活動を進めている団体のディレクターに話をきいた。彼はこう話した。

「“心からの謝罪”がほしいんです。謝罪しても、いまだに靖国参拝をする政治家がいたり、教科書が書き換えられたりしている状況があるのですから、謝罪が心からのものであるとは思えません」

 謝罪と矛盾するような行動のため、彼らにとっては、日本の謝罪は表面上の偽善的な謝罪にしか聞こえないのである。

 しかも、日本では、「強制連行はなかった」、「慰安婦問題はデマ」という声まであがっているのだから、韓国の人々が求める“心からの謝罪”からはほど遠い状況があると言ってもいいかもしれない。

 もっとも、何をもってすれば“心からの謝罪”となるのだろうか。謝罪に対する解釈は人それぞれであるだけに、非常に難しい問題だ。

 ボデュシンスキ氏は歴史問題の完全な解決については悲観的な見方だ。

「ポーランドの高齢者の中にも、ドイツに対して、もっと賠償金を払ってほしいと訴えている人たちはいます。ホロコーストの犠牲者団体もいる。歴史問題というのは、悪化しないように抑えることはできても、完全には消し去ることはできないのです。そのため、たとえ、天皇がソウルに赴き、跪いて謝罪したとしても、完全には解決できないかもしれません」

 

 完全には消し去れない過去。

 ポーランドもまた、ドイツから謝罪を受けても、完全に解決したとは考えてないようだ。

 ポーランド議会は今年、約6年に及んだドイツによる侵略でポーランド経済は約90兆円余りの損失を被ったという暫定調査報告を公表した。ドイツ側は全ての賠償請求権は解決済みだと主張しているが、ポーランドのモラウィエツキ首相は、今回の式典で「我々は犠牲者を忘れてはならないし、補償を要求しなければならない」と賠償問題を再燃させている。

違いはあるが、向き合おう

 歴史問題の完全な解決が難しいとしたら、問題が悪化しないように抑えなければならないということになる。

 ボデュシンスキ氏は言う。

「ポーランドもドイツも、教科書を通して歴史の事実を伝えることで関係が悪化しないように努めました。また、人対人の公的外交プログラムも重視しました。特に、ポーランドがEUに加入してからは、学生や学者レベルでの交流やビジネス関係者の交流など、ドイツとの交流が盛んになりました。日韓にも同様の交流はあると思いますが、そういった民間交流は対立がある今だからこそ増やす必要があると思います。

 ポーランドとドイツの関係から日韓が学べる教訓があるとしたら、それは、両国はたとえ対立関係があっても、経済関係や貿易上の合意や安全保障上の情報共有は維持し続けたということです。指導者層が対立しているとしても、他の分野で、両国が築き上げてきた関係を捨て去る必要はないのです。

 また、両国の指導者たちが向き合い、両国に違いはあるが、それに対処しようと話し合うことも重要です。対北朝鮮や対中国の分野で協力したり、ミャンマーやカンボジアなどの人権問題で協力したり、貿易や科学分野で交流を行ったりして、信頼関係を構築することが解決につながると思います」

 過去を消し去ることはできないが、日本と韓国の前には未来がある。未来を担っていく若者たちがいる。彼らに、過去に起因し、現在も続いているヘイトを受け継がせてはならない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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