「ジュースがこぼれた」「コーヒーが入った」日本語は感情豊か!責任や手柄を表す自動詞・他動詞使い分け
お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。
日本語教師として外国人と接していると、日本語の自動詞・他動詞が難しいと言われることがよくあります。
自動詞・他動詞とは例えば「開きます(自)」「開けます(他)」のようなものです。彼ら外国人のそれぞれの母語によって、自他動詞についての区別や考え方はさまざまです。また捉える視点も言語によって違うため、日本語に限らず母語ではない外国語の自他動詞は難しい、と考える人は多いと思います。
日本語の自他動詞の使い方の特徴と言えば、状況変化に重点を置く自動詞の文と、動作主に重点を置く他動詞の文の使い分けで、自然に責任や手柄について表現していること。今回は、外国人に「えー!」と感心されることの多いこの日本語の特徴を具体例で雑学的に考えてみましょう!
「ジュースこぼれた」「おもちゃ壊れた」日本の子どもは天才か??
「ママ―!ジュースこぼれちゃったよ!」
「ママ、このおもちゃ、階段から落ちて壊れちゃった」
子どものこんなセリフ、聞いたことありませんか?そして、
「『こぼれちゃった』じゃないでしょ!『こぼしちゃった』でしょ!」
「自分で落として壊したんでしょ!」
なんて、イライラしたことのあるママ・パパはいませんか?実はこれ、日本人は子どもの頃から明確に自他を使い分けできている一例です。
「こぼれた」「壊れた」はどちらも自動詞。自動詞で作る文は、自然に状況が変化することに着目されます。
それに対してママの「こぼした」「落とした」「壊した」は他動詞。他動詞の文はその動作の主体(動作主)に着目されます。つまり、子どもの立場からは「自然にそうなった」と状況変化を述べていて、自分という動作主の責任をナチュラルに回避しようとしているのです。そしてママは「あなたの責任でしょ?ジュースとおもちゃのせいじゃないわ!」と怒っている構図。
自動詞の文にすることで、動作主の責任をぼかす効果があるのです。
日本人は、幼い頃からこの感覚を自然に使い分けています。こういうエピソードを外国人の日本語学習者に話すと「え!すごい!天才か?」という反応がよく返ってきます。母語は体にインプットされるものなんですね。
「ドアが閉まります…ドアを閉めます!」
これは地域によっても差が生じるといわれる例ですが、みなさんは電車に乗ったとき
「ドアが閉まります」
というアナウンスを耳にしますか?そしてラッシュ時に無理にでも乗りたい人がドア付近で四苦八苦していて、なかなかドアが閉まらないときや、友人同士で乗る人と乗らない人がふざけ合いながらドアを挟んでこちょこちょしたりしているとき、「ドアが閉まります」と言っていたアナウンスが、
「はい、ドアを閉めます!」
と変化するのを聞いたことはありませんか?
これも自他動詞の自然な使い分け。そもそもドアは自動ドアなので、「ドアが閉まります」が自然ではあります。ですが、その自動ドアの開閉を操作するのは車掌(または運転士)でもあるので、「ドアを閉めます」も正しい表現です。では、なぜ途中で変化したかというと、「ドアが閉まります」で「状況変化しますよー」とアナウンスしていたのが、何回言ってもお客さんが聞かない。業を煮やして「ドアを閉めます!」という明確な動作主の意志を表しているわけです。
ただこれは、聞く側にとっても影響力・強制力が違うので、最近は初めから「ドアを閉めます」というアナウンスにしているところもあるようですね。日本人には「効く」のでしょう。
(※余談ですが、ちなみにわたしは「ドアが閉めます」というアナウンスを聞いたことがあります 笑 )
「コーヒーはいったよ」VS「コーヒーいれたよ」
みなさんは、コーヒーやお茶をいれて出すとき、
「コーヒーはいったよ」
「コーヒーいれたよ」
どちらを使いますか?どちらの人もいると思いますが、この2つの文にも違いと効果があります。
「コーヒーはいったよ」は自動詞で状況変化。平たく言えば「コーヒーの準備ができた」ということを表しています。それに対し「コーヒーいれたよ」は「自分がコーヒーを淹れた」という動作主を重視する他動詞文です。つまり「コーヒーいれたよ」というほうが、「俺がやったぜ!」という主張が強くなります。
近しい人に「手柄立てたぜ!ほめてほめて!」とアピールしたければ、他動詞を使ってもいいし、目上の人などなら自動詞を使ったほうがいい、と使い分けができる表現です。
ちょっとした違いで気持ちを表せる!
今回は日本語の自然な自他動詞文の使い分けについてでした。わたしたちは、外国人に「すごい!」と感心してもらえるような使い分けができている!と自信を持ってみてください!日本語って結構面白いんですよ。
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