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ガザ侵攻1年 各国で浮き彫りになる世代間ギャップ――なぜイスラエル批判は若者に多く、高齢者に少ないか

六辻彰二国際政治学者
イスラエルの空爆で炎上するガザ中部ヌセイラトの集合住宅(2024.6.20)(写真:ロイター/アフロ)
  • 各種世論調査によるとイスラエルへの好感度は各国で低下しているが、総じて年長層ほどイスラエルへの好感度は高い。
  • 年長層にはイスラエルが「気の毒なユダヤ人の国」というイメージが強く、「対テロ戦争のパートナー」という認識も強い。
  • 逆に若者ほどこうしたイメージが薄く、その目にはイスラエルが弱者ではなくむしろ不公正な強者と映りやすい社会環境がある。

日本でも増えるイスラエル批判

 2023年10月7日に発生した、ハマスによる大規模攻撃はその後のイスラエルによるガザ侵攻のきっかけになった。それから1年が経過し、数多くの世論調査はイスラエルへの共感が各国で低下している現状を浮き彫りにしている。

 そのうちの一つ、米信用調査会社モーニング・コンサルトが昨年末に世界43カ国で行った調査では、「イスラエルに好感がある」から「好感がない」を差し引いたスコアが42カ国でマイナスに転落した(ちなみに日本でのスコアは-62.0だった)。

 「好感がある」が「好感がない」を上回った唯一の例外はアメリカだったが、それでもガザ侵攻開始以前と比べて「好感がある」は減少した。

 ガザでの死者はすでに4万人を超えたとみられている。そのうえ2024年10月1日には各国の懸念にも関わらずレバノン侵攻も開始した。

 ハマスやヒズボラのテロは批判されるべきだが、イスラエルはやりすぎだ。そういった世論が世界的に広がっているとみてよい。

 ただし、イスラエルに対する見方には年代ごとに差が見受けられる。若者ほどイスラエルに好感を抱かず、年齢層が上がるほどイスラエルに好意的になるという傾向だ。

若者ほどイスラエルに批判的

 例えば、米公共放送PBSなどが昨年11月にアメリカで行った年代別の調査によると、「イスラエルを支持する」という回答は1945年以前に生まれた高齢者で86%にのぼったが、年代が下がるほどこの割合は低下し、1981〜2012年生まれのいわゆるミレニアル世代とZ世代では48%にとどまった。

 先述のように、アメリカは世界的にみて例外的にイスラエル支持者の割合が高いが、それは年長層に偏った傾向ともいえる。

 実際、アメリカでも昨年以来、パレスチナ支持のデモ隊が大学のキャンパスを占拠するなど、若者の間でイスラエル批判の高まりは鮮明だ。

 もっとも、それはガザ侵攻の始まる前から少しずつ表面化していた。

 米ピュー・リサーチ・センターが2022年に行った調査では、「イスラエルに好感がある」は65歳以上の間で72%に達したが、やはり年齢層が下がるほどこの割合も低下し、18〜29歳では42%だった。

 このパターンは在米ユダヤ人にも当てはまる。

 アメリカでさえそうなのだから、年長層ほどイスラエルに好意的で、若い世代ほどイスラエルに批判的な傾向は世界的なものとみてよいだろう。

イスラエルは「弱小の同盟国」

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のダブ・ワクスマン教授によると、イスラエルに対する評価やイメージは、それぞれの世代が共有した経験に影響されてきた。

 その分析によると、戦前生まれの高齢者にイスラエル支持が目立つことには、「ユダヤ人はホロコーストの犠牲者」という大戦直後のイメージが大きく作用している。

 古代ローマ帝国によって居住地を追われたユダヤ人は、各地で差別や迫害を経験したのち、1947年にイスラエル建国を宣言した。

 『アンネの日記』や映画「シンドラーのリスト」など、第二次世界大戦におけるユダヤ人迫害を描いた作品の多さは、イスラエルへの同情と共感を後押ししてきたとみてよい。

イタリア一部リーグ所属ラツィオの選手が着用した、人種差別反対のTシャツ(2017.10.25)。アンネ・フランクの肖像が用いられている。
イタリア一部リーグ所属ラツィオの選手が着用した、人種差別反対のTシャツ(2017.10.25)。アンネ・フランクの肖像が用いられている。写真:Maurizio Borsari/アフロ

 次に、戦後のベビーブーム世代(1946〜1964年生まれ)は、冷戦期の中東戦争や2001年米同時多発テロ事件(9.11)などの経験から、アラブやイスラームへの警戒感が強い。そのため「イスラーム過激派と戦うイスラエル」への共感が強くなりやすい。

 

 つまり、「弱者」や「同盟者」というイメージが年長者のイスラエル支持の土台になっているとみられる。

 とすると、そこでは逆にイスラエルがもはや中東屈指の軍事大国であることや、イスラエル過激派によるパレスチナ人襲撃の不当性などは不問に付されやすいともいえる。

「不当な強者」イメージ

 これと対照的に、イスラエルに関する過去のイメージが薄い若い世代、とりわけ1990年代半ば以降に生まれたZ世代にとって、弱者はイスラエルではなくパレスチナ人だ

 イスラエルはガザ侵攻が始まるはるか以前から、国連決議に反してヨルダン川西岸を実効支配し続け、ガザを経済的に封鎖し続けてきた。


 ガザ侵攻でイスラエルがその軍事力をいかんなく示せば示すほど、「イスラエル=強者」のイメージは強くなるが、それが不当というイメージも同時に強くなる。

 Z世代には年長層と比べて、人種、性別、宗教などに基づく差別に拒絶反応が強く、不公正を政府が積極的に是正すべきという考え方が強いことも、調査結果から示されている。

 とすると、「対テロ戦争」の名の下にパレスチナ人(そのほとんどがムスリム)を追い立てるイスラエルの占領政策をアメリカなど先進各国がほぼスルーしてきたことも、イスラエル軍による民間施設空爆に対する欧米の微温的な反応も、過去のイメージにとらわれない若い世代ほど「不公正」と映りやすくても不思議ではない。

弱者とは誰か?

 若い世代ほどイスラエルに批判的であることは、現在の世相と無関係とは思えない。

 コロナ感染拡大を入り口に世界全体で物価が上昇し、各国では生活苦が深刻化しているが、どの国でも若い世代ほど不利な立場に立ちやすい。そのため生涯所得の世代間格差が大きくなりかねない懸念や不満も高まっている。

 こうした不満は年長層中心の社会への不信感や疑念を強くしやすい。

 このフラストレーションは社会的にほとんど発言力をほとんど持ち得ない自分たちを、イスラエルに押さえ込まれるパレスチナに重ね合わせる契機になり得る。


 それはちょうど今から50年前、今よりさらに発言力がなく、年長層への反発を募らせていた当時の若者が、アメリカ主導のベトナム戦争に対する反戦運動の急先鋒になったことに準えられる。

 とすると、年長層やエスタブリッシュメントがイスラエルを支持し、パレスチナ占領の不公正を等閑視するほど、若い世代の反感を招いても不思議ではない。その意味で、ガザ侵攻に若い世代ほど拒絶反応が強いことには、年長層中心の社会への反感との連動がうかがえるのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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