リツイートしただけで著作者人格権を侵害し得るという判決が最高裁で確定
「写真の無断投稿、リツイートだけでも権利侵害 最高裁」といニュースがありました。
ちょっとややこしい案件ですが、かいつまんで言うと、写真を含むツイートをリツイートするとツイッターの仕様(CSSの設定)により写真がトリミングされてサムネールとして表示されますが、それによってリツイート者は写真の著作者の著作者人格権(同一性保持権と氏名表示権)を侵害し得るという判決が最高裁で確定したということになります。
この件の知財高裁の判決について、2018年10月に解説記事を書いています。この判決に不服であったツイッター社が最高裁に上告したが、今回、上告棄却されたということになります。
最高裁の判決文はこちらです。
最初に押さえておきたい重要ポイントは以下の2点です。
1)この判決は、写真の著作権者である写真家がツイッター・ユーザーを訴えた著作権侵害訴訟ではありません。リツイート者の情報を開示せよと、写真家がツイッター社を訴えた発信者情報開示に関する訴訟です。
2)問題とされた行為は、誰かが写真を勝手にツイートしたことではありません(これは争うまでもなく違法です)。この元ツイートを別の誰かがリツイートした行為です。
判決文はそんなに長くないので読んでみることをお勧めしますが、上告理由としてツイッター社側が「サムネールをクリックすれば(トリミングされていない)元画像が見えるのだから氏名表示権は侵害していない」と主張していたのに対して、「氏名が表示されるのは別ページだし、すべてのユーザーがサムネールをクリックするわけではない」ということで一蹴されているのが興味深かったです。
なお、裁判官1名が反対意見を述べたとのことで、それが参考として判決文末尾に記載されています。ポイントは以下のとおりです。
- リツイートで画像がトリミングされてしまうのはツイッターの仕様であってリツイート者はどうしようもない。
- わいせつ画像のように明らかにリツイートが許容されないならともかく、元ツイートが一見不適切でない場合も「著作者はトリミング表示されることに同意しているか」をいちいち確認等することが必要であるとするならばリツイート自体を差し控えることになり非現実的。
- 上記より、今回のケースは「リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができない」とすべき。
正直、これが、一般的感覚なのではないかと思います。法律の解釈論として可能な限り、著作者人格権侵害ではない方に話を進めるべきと思いますが、この合議体の多数意見としては著作者人格権侵害になる方へなる方へと話を進めているように思えます。ぶっちゃけ、普段あまりSNSを使わない方々なんだろうなあと思ってしまいます。
さて、この判決はどのような影響をもたらし得るでしょうか?今後、この写真家の方が、開示された発信者情報を元にリツイート者に侵害訴訟を行使する可能性は高いでしょう(ただし、開示されたメアドが捨てアドだったりすると困難かもしれません)。侵害訴訟では、著作者人格権侵害は確実に認められますので、差止め判決は得られるでしょうが、さすがにこのリツイートはもう消されていると思いますので、さらに差止めする意味はありません。損害賠償については、故意・過失が前提となるところ、このケースでリツイート者に故意・過失があったとするのは結構ハードルが高いと思います。
この写真家の方のブログを見るとわかりますが「自分の著作権を侵害されるのは絶対許さないので損得勘定は関係なしに権利行使する」という姿勢の方のように見えます。世の中の写真家がすべてそうとは限らないので、現実的には、リツイートによって形式上は著作者人格権侵害になったとしても大目に見られるというケースがほとんどになる(仮に権利行使するとしても元ツイートの投稿者に対して行なうことになる)のではないでしょうか?ただ、匿名アカウントの身元を知りたい場合に、わざと自分の写真入りツイートをリツイートさせておいて発信者開示請求するといった悪用は可能になってしまうかもしれません。