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飲料没収で購入も困難だった花園 ラグビーW杯に向けた安全面の不安

大島和人スポーツライター
花園ラグビー場には2万人を超す観客が集まった:おかやん氏提供

入場時にすべての飲料が没収

8月3日、東大阪市花園ラグビー場で「パシフィックネーションズ2019」が開催された。日本代表はトンガに41-7と快勝している。9月20日に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)日本大会に向けて、幸先のいい結果だった。

一方で現地から少し心配になるニュースが入ってきた。花園ラグビー場の入場時に、紙パックも含めたすべての飲料が持ち込みを禁止されたという情報だ。

友人でもある「おかやんさん」がSNSで発信していたので、改めて彼から現地の状況を確認してみた。

「入場ゲートの回りで、まずビン・カン・ペットボトルが持ち込み禁止というアナウンスをしていました。それで東花園駅前のスーパーまで紙パックを買いに戻ったら、荷物チェック時に『飲料はすべてダメです。中にありますから』と言われました」

販売、配布の体制も貧弱

試合は19時10分のキックオフで、試合中は涼しくなっていたとのこと。ただ入場時はまだ太陽の出ている時間で、試合の1時間2時間前に入場するお客さんも当然いた。

ビジネスとして考えれば、ファンが場内の売店などで飲料を購入すると「チケット外収入」が増える。しかし優先するべきは観客の安全と健康だ。今回は場内の値段設定がかなり高額で、さらにソフトドリンクの購入まで売店で20分程度待つ必要があった。

ソフトドリンクの売り子も、彼が観戦した南側のゴール裏には現れなかった。またJRFUのホームページでは「(ミネラルウォーターの)い・ろ・は・すを提供している」旨の告知があったようだが、スタンド内に的確な案内はなく、場所を見つけられなかったという。

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加えて「この列が何の列なのか、分かりにくかった」と彼は振り返っていた。物販、飲食などの導線が混乱していて「並び間違い」が起こる状況だった。これでは「熱中症予防のためにこまめな水分補給を」との場内アナウンスも、絵に書いた餅と言わざるを得ない。

W杯開幕に向けて安全対策は急務

パシフィックネーションズにはW杯の予行的な意味合いもあった。W杯本番は9月下旬から10月の開催で、8月上旬に比べれば涼しい。一方で9月22日の「イタリアvs.ナミビア」は花園ラグビー場で14時15分開始。昨日の夜以上に暑くなるだろうし、屋根のないゴール裏やバックスタンドは、熱中症など体調悪化のリスクがより高い。

W杯のような巨大スポーツイベントはスポンサーの権益、契約にどうしても運営が縛られる。しかり繰り返すが安全と健康は最優先されるべきもので、より細やかな対応を行うべきだ。

観客の全員が事前に公式サイトの告知をすみずみまで確認するわけではない。ミネラルウォーターを配るなら、しっかりと量を確保した上で「ここで配っている」としつこく案内をするべきだ。可能ならソフトドリンクの販売場所を増やし、導線を整理するべきだし、それが不可能なら売り子を増やすべきだ。

ラグビーに限った問題提起ではない。高校野球の甲子園大会は今どき珍しい「飲料持ち込み完全フリー」な大会だが、夏場に複数試合を見るお客が4万人以上集まることを考えれば現実的な選択だ。ビールなどの嗜好品は別扱いでいいし、契約面でクリアするべき点もあるだろう。しかしペットボトル、紙パックの水やお茶、スポーツドリンクまで禁止するのは行き過ぎに思える。

今の日本で、夏場の屋外で人を呼ぶなら「水分を摂りやすい環境」の用意は必須条件だ。そこはあらゆる屋外スポーツの運営者に改めて考えて欲しい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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