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「何でも貫く矛」と「何でも防ぐ盾」は、どちらが勝つか? 空想科学で考えると、答えは明白!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

「矛盾」という言葉がある。

この故事成語の源は、紀元前200年代の中国の思想家・韓非(かんぴ)が著した『韓非子』だ。

ある商人が矛と盾を並べ「この矛は、どんな盾でも貫き通す」「この盾は、どんな矛でも防げる」と喧伝(けんでん)していた。

そこで客が「その矛でその盾を突いたら、どうなるのか?」と尋ねた。

商人は言葉を返すことができず、逃げ去った……という。

要するに、2つの宣伝文句の食い違いから、嘘をついていたことがバレたという話だが、もし本当にそんな矛と盾があったらどうなるのか?

これは、言葉で考えても簡単に結論は出ないだろうから、科学的に考えてみたい。

◆科学的に考えると?

「何でも貫ける矛」があるとすれば、それは他のあらゆる物質より頑丈な物質でできているはずである。

もっとも硬い物質といえばダイヤモンドだが、その硬さが発揮されるのは、静かに押しつけ合ったときの話。

ダイヤモンドで矛を作っても、それで鋼鉄製の盾を突けば、ダイヤモンドのほうが砕けてしまう。

原子が強い力で結合しているダイヤモンドは、それだけに変形する余地が少なく、衝撃に弱いのだ。

したがって、「何でも貫ける矛」があるとしたら、それは静かに押しつけても、一気に突いても、どちらでも壊れない宇宙最強の物質でできているはずだ。

そういう物質は現実には存在しないが、ここでは存在すると仮定して話を進めよう。

その場合、「何でも防げる盾」も、同じ物質でできていることになる。

では、その矛で、その盾を突くと、どうなるか?

材質に差がないのだから、勝負は形状によって決まることになる。

結局「鉄の矛で鉄の盾を突くとどうなるか?」というのと同じ問題に帰着するわけだ。

古来、盾は矛による攻撃を防いできた。

もしそうでなければ、盾の存在価値はない。

盾が矛に勝る理由を考えると、矛は長い棒の先に固定して振り回さねばならないため、太さや重さにおのずと限界があるのに対し、盾は持てさえすればよいので、かなり厚く重くできるからだろう。

この結果、盾は矛に勝ってきた。

だからこそ『韓非子』の商人も「この矛はどんな盾でも貫ける」を先に持ってきて、人々の関心を引いたのではないだろうか。

この関係は、宇宙最強の物質同士でも同じだと思われる。

つまり「何でも貫ける矛」と「何でも防げる盾」の対決は、盾の勝ち。

もし、『ルパン三世』石川五ェ門の斬鉄剣と同じ素材で盾を作ったら、何でも斬れる斬鉄剣をも防げる――ということになる、と筆者は思います。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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