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大坂なおみの東京オリンピック出場問題だけではない。新たな問題を抱える日本女子テニスは強くなれるか!?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
オランダに勝利しWGII残留を決めたフェドカップ日本代表メンバー。右から、日比野菜緒、穂積絵莉、土橋監督、奈良くるみ、土居美咲、青山修子(写真/神 仁司)
オランダに勝利しWGII残留を決めたフェドカップ日本代表メンバー。右から、日比野菜緒、穂積絵莉、土橋監督、奈良くるみ、土居美咲、青山修子(写真/神 仁司)

 大阪に、大坂なおみの姿はなかった。それは、日本テニス界から大坂というグランドスラムチャンピオンが初めて生まれたことによって、フェドカップ日本代表が新たな局面を迎えていることをうかがわせるようなシーンでもあった――。

 女子国別対抗戦フェドカップ・ワールドグループ(以下WG)II・プレーオフ(入れ替え戦)「日本 vs. オランダ」(大阪・ITC靭テニスセンター、4月20~21日)で、日本(ITF国別ランキング17位)は、ホームコートでの開催の利点を活かして、オランダ(同14位)を4勝0敗で破りWGII残留を決めた。

 今回の日本代表は、オランダからシングルスで2勝を挙げた土居美咲(WTAランキング104位、4月15日づけ、以下同)、シングルスで1勝を挙げた日比野菜緒(112位)、ダブルスで1勝を挙げた青山修子(ダブルス44位)と穂積絵莉(ダブルス31位)、そして、奈良くるみ(169位)、という構成メンバーだった。

 日本トップランカーの大坂なおみ(1位)は代表辞退をしてプレーしなかった。大坂は個人戦を優先し、4月からのヨーロッパクレーシーズンに備えることを選択したのだった。

 3月下旬に開催されたマイアミオープンには、土橋登志久フェドカップ日本代表監督が選手視察のために足を運び、大坂へのフェドカップ出場要請を行ったが失敗に終わった。

「(大坂に)フェドカップへのオファーをしたのは事実ですし、(大坂が)個人の大会を優先したいということで今回は辞退したのも事実です」(土橋監督)

 今回大坂がフェドカップに出場しなかったことで、多くの関係者の関心を集めたのが、彼女の2020年東京オリンピックへの出場権のことだ。

 プロテニス選手がオリンピックに出場するには、オリンピックとオリンピックの間の4年で、国別代表戦に3回出場しなければならない条件がある。さらにそのうちの1回は、オリンピック1年前あるいは開催年に代表としてプレーしなければならない。

 大坂はすでに2回出場しているが、東京オリンピック出場条件を満たすには、2020年にあと1回プレーしなければならない。

 ただ、ワールドツアーが確立しており、さらに4大メジャーであるグランドスラムが存在するプロテニス界では、4年に1回のオリンピックは、特殊なイベントであることを忘れるべきではない。各競技によっても異なるだろうが、同じような状況は、4大メジャーがあるプロゴルフや、ワールドカップがあるプロサッカーでも言えることで、プロテニスと同様にオリンピックが最高峰の大会ではない。

 一方、オランダのエースであるキキ・バーテンズ(7位)も、大坂同様に代表辞退をしていた。両国エース不在の状況を、オランダのポール・ハールヒュース監督は、元選手でダブルスではグランドスラムチャンピオンになった自身の経験も踏まえて、選手が普段の個人戦の厳しいスケジュールをぬって代表戦をこなす時、そのバランスを保つのは難しいという見解を示した。

「まず、ご存知のように選手は、ランキングによって判断されます。それが、最も大切なことだと考えます。それを踏まえたうえでスケジュールを立て、どの大会でプレーするのがベストなのか決めないといけないのが現状です。

 ランキングが上がった選手は、フェドカップやデビスカップ(男子国別対抗戦)に招致されるようになり、当然こなさなければいけない試合数が増えます。国のためにプレーしたいかどうかは非常に個人的なものであって、一人ひとりの選手が決めるべきだと考えています」

 ましてや大坂は世界ナンバーワンになり、テニス以外にもいろいろこなしていかなければいけない中で、スケジュール管理が厳しくなるのが当然想定される。

 この局面を土橋監督は、「新しいステージに日本も来たのかな。日本にとっては大きな経験だと思います」と、“嬉しい悲鳴”であることを強調した。

「チームのスケジュールと考え方、われわれも共に考えながら(大坂と)交渉しますし、出てもらいたいという気持ちはあります。彼女が、日本のために戦いたいという気持ちももらっています。(大坂には)オリンピックの出場権というのも正直かかっていると思う。これからもいいサポートといいコミュニケーションをとりながら進めていければ」

 だが、大坂にかかりきりになる状況下で、引き起こされた別の問題もある。日本代表の一部の選手からは、「なおみちゃんのことしか考えていないです。全然(他の)選手のこと考えてもらえてないです」という不信の声が上がり、マイアミでの選手視察にも疑問が投げかけられたのだ。

 実は土橋監督は、マイアミでの滞在期間がたった2日で、その時大坂への別の任務があった。日本テニス協会の福井烈専務理事と共に、大坂の2019年オーストラリアンオープン初優勝を称えて、協会からの報奨金800万円を贈呈したのだ(贈呈は非公開)。

 また、「候補には入っているから……」とはいうものの、代表内示の連絡が遅く、あまりにもギリギリ過ぎるため、選手たちが個人戦のスケジュールを決められないという不満もあった。

「WTA大会のエントリーを6週間前にしなければいけないので、フェドのことを踏まえ前後のことを考えると、最低でも7~8週前ぐらいに(代表内示を)言ってもらわないとスケジュールが立てられないんです」

 まさにハールヒュース監督が指摘した選手のスケジューリングだ。土橋監督はハールヒュース監督と違って、現役時代にATPツアーに定着して活躍した実体験がない。そのため、オランダと日本の両監督のスケジューリングの大切さへの認識の差が現れた格好になった。

 もちろん大坂がつくった実績は評価されるべきであり、そして大坂は日本代表には必要な戦力だが、他の日本代表選手も必要な戦力であることに変わりはなく、それでなければチームとして成立しない。

 これまでシングルスでのグランドスラムチャンピオンを輩出できなかった日本にとっては、大坂の処遇をどうすべきか未知な部分があるのかもしれないが、だからといって特別扱いをしていいわけではない。

 土橋監督も中間管理職的な板挟みにあって苦しい立場ではあろうが、選手は毎週厳しい戦いをして、ワールドツアーの個人戦で成績を残せなければ、即キャリアにおける死活問題につながるリスクをいつも背負っていることをもっと考慮すべきだ。

 今後も日本チームと土橋監督は、大坂の代表入りを考えつつ、他の選手たちとも良好な関係を築いていけるよう向き合っていかなければならない。もし正しい方向へハンドリングできなければ、日本代表の迷走にもつながりかねない。

「プレーをするには、(地域ゾーンより)WGの方がはるかにいい場所だ」とハールヒュース監督が評したWGIIで、日本は2020年も戦える権利を手にした。そこで、大坂も含めた日本代表がどう進化を遂げ、さらなるステップを踏むことができるのか。

 現在の日本は、WGでプレーできる力をたしかに持っているが、WGでさらに勝ち上がっていくとなると、大坂と他の選手との実力差を少しでも縮めながら個々の力を引き上げることが必要不可欠であり、そこからチーム全体のレベルアップにつなげていかなければならない。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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