岸田文雄新総理、初の記者会見の出来栄えは?
9月29日、岸田文雄氏が自民党新総裁に選ばれ、10月4日から新内閣が発足します。4名の総裁候補者による選挙戦は、8月26日の岸田氏による立候補表明に始まり、約1カ月展開されてきましたが、激戦であったと感じます。ただ、終わってみると、男女半々の候補者による討論で最も評判を上げたのは実は自民党であったとも感じます。今回は新総裁としての岸田氏の最初の記者会見に焦点を当てつつ、全体の広報戦略についてどう見えたか解説をします。
新総裁としての最初の記者会見は投票結果が出た9月29日18時から行われました。筆者が着目した3つの質疑応答を解説します。会見は約30分。成長と分配の基本政策、3つの覚悟という自分の姿勢、自分の特技「聞く力」を柱とするご自身の冒頭スピーチは6分。残りは質疑応答に当てられ、配分も考えられていたと思います。
記者からの注目質問1つ目は、国民の納得感。
党員と国会議員の認識ギャップを指摘するなかなか手厳しい質問ですが、岸田新総裁は、投票の過程を淡々と説明したシンプルな回答で対応。
確かに、立候補は一番早く、周到な準備であり、単独会見も3回行い丁寧であったと思います。ただ、広報戦略の視点からすると、岸田氏が9月に新書版での出版をしたらより党員票が増えていたように思います。書店に行くと、河野太郎氏と高市早苗氏は、新書版を出版してベストセラー入り。しかも、高市氏の出版は9月22日と緊急出版で9月24日に第二刷。いい宣伝になっていました。一方、岸田氏は見当たらず。調べると昨年出版はしていたものの今年は出していません。ここは手落ちであったように思います。記者会見を全て見る人がいないことを考えると、国民や党員に訴えるという意味では、岸田氏の新書が書店で出回れば、党員票ももっと伸びていたのではないでしょうか。
2つ目の注目質疑応答は説明責任。
これに対して、岸田新総裁は「行政、司法、政治」3つの視点提示と「政治における責任のあり方」を説明しています。
当初はどの候補者も「再調査はしない」といったシンプルな回答ばかりでしたが、論戦を通じてこの域に達したのだろうと思います。再発防止策としての方向性を示せば、より丁寧な説明になります。別の記者が「再調査をしないでなぜ説明できるのか」と質問していますが、ここでも再発防止策の中身について質問をしないことに違和感があります。質問を掘り下げるのであれば、リスクマネジメントの観点からももっと詳しく聞く必要があるのではないでしょうか。そもそも、森友問題の改ざんは、安倍元総理が「私の妻がこの問題に関与していたら総理を辞める」と発言したことに端を発しています。総理を辞めさせるわけにはいかないという忖度から始まっているといえます。仮定と辞任をセットにした発言はNGです。リーダーのうかつな発言が悲劇をもたらしたことを教訓としなければならないでしょう。それだリーダーの言葉は重いのです。
3つ目の注目質問は、会見時間について。
これまで質問については記者の方を向きつつ、メモをしてきた岸田新総裁もこの質問にはやや苦笑い。
ここは、岸田氏の広報戦略勝ちだろうと思います。総裁選で岸田氏は約2時間の単独記者会見を3回実施で6時間。もっとも3回目の単独記者会見の最後に「何で3回もやるのか!」とヤジも飛びましたが。高市早苗氏は1時間半の記者会見。最後は「テレビ出演があるから」とした説明でしたが、特定メディアを優先するこのようなうち切り方は不公平感を募らせるためよくない切り方でした。そして、河野太郎氏は1時間15分と短め。このように単純な時間比較であっても相当説明時間を費やしています。言行一致はしているといえます。総理になったらそうそう記者会見を長々実施するわけにはいきませんので、先にじっくりやっておこう、といった方針だったのであればなかなかしたたかです。先手で広報戦略を打ち立ててきたといえるでしょう。
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