命を守れ:避難勧告・避難指示・避難命令・洪水警報・記録的短時間大雨情報:意味と違いと強さの順位
次々やってくる注意報や警報、避難情報。でも、内容が理解できなければ意味がありません。
■命を守るための情報理解
九州北部の豪雨によって甚大な被害が出ています。これほど科学技術が進み、情報量も増えたのに、被害をなくすことは難しいことです。けれども、少しでも被害を降らすために、私達が正しく情報を理解することが必要です。情報は増えましたが、言葉が増えると、かえってわかりにくくなることもあります。
■避難に関する情報:避難勧告・避難指示・避難準備情報・避難命令とは
2013年に、「避難せよ:避難勧告・避難指示・避難命令:私達の命を守るために」というページを作りました。
よく聞く言葉ですが、違いがよくわからない人も多いでしょう。どれが強く避難をすすめているのか、その順位もよくわからなかったりします。
ある調査によると避難に関する用語が3種類あるのはわかっていても、その違いや順序がわかっている人は、半分ほどでした。
強さの面から言えば、
避難準備情報 < 避難勧告 < 避難指示です。
でも、わかりにくいですね。そして、一番弱い避難準備情報も、何もしなくて良いという意味ではありません。
2016年に高齢者施設で9人もの被害者が出たケースでは、施設職員は「『避難準備情報』が出されていたことは知っていた。でもそれが災害時要援護者の避難開始を意味するとは知らなかった」と語っています。
そこで現在では、「避難準備情報・高齢者等避難開始」と表現されます。一般の人には、文通り「避難の準備を始めましょう」という情報ですが、高齢者や赤ん坊など避難が大変な方がいる家庭では、避難が大変になる前に避難しましょうという情報です。
また避難勧告と避難指示の違いも、どちらが強い表現なのか、かわからなくなることがあります。そこで今では「避難指示(緊急)」と表現されるようになりました。
そして日本には、法的な「避難命令」はありません。「避難指示(緊急)」が、避難に関する一番強い言葉です(「警戒区域指定」され「立ち入り禁止」「退去命令」が出されることはあります)。
ただし、正式な避難命令はないのですが、東日本大震災の時には、スピーカーから「避難命令、避難命令、直ちに避難せよ」といったアナウンスがされたこともあります。法的には不正確な言葉ですが、迅速な避難を促すためには適切な表現でした。
また、あまりにも状況が急変すると、避難準備情報も避難勧告も出ず、いきなり避難指示が出ることもあります。情報を待つだけではなく、状況を積極的に理解する必要性が求められます。
ただし、いくら逃げなさいと言われても、避難に関する大変さ(心理的コスト)が高ければ、避難できません。日ごろから避難しやすい体制を整えておく必要があるでしょう。
■雨に関する情報:降水量、大雨注意報警報、大雨特別警報、記録的短時間大雨情報とは
降水量(降雨量)もわかりに憂い表現です。「ミリ」でい言われてもよくわかりません。さらに、1時間の降水量や1日の降水量など、様々な数字が使われます。
降水量10ミリは、たった1センチですから、何だか大したことないように感じます。しかし、川の上にも道の上にも屋根の上にも全部に深さ1センチになる雨が降るわけですから、これが全部川や下水に流れ込めば、すごい量になります。
- 1時間に1ミリの雨でも、傘をささずに歩けばびしょ濡れです。
- 1時間に10~20ミリの雨は、ザーザーと降る、やや強い雨。
- 1時間に20~30ミリの雨は、どしゃぶりの、強い雨。
- 1時間に30~50ミリの雨は、バケツをひっくり返したような、激しい雨。
- 1時間に50ミリを越える雨は、滝のような非常に激しい雨です。
そして、いくつかの注意報、警報があります。
大雨注意報:大雨による土砂災害や浸水害が発生するおそれがあると予想したときに発表されます。
大雨警報:大雨による重大な土砂災害や浸水害が発生するおそれがあると予想したときに発表されます。
大雨特別警報:数十年に一度の降雨量となる大雨が予想される場合などに発表されます。災害が起きる危険性が著しく高いという警報です。大雨警報よりも、さらに強い警報です。
記録的短時間大雨情報:これは予想ではなく、すでに雨が実際に降ったという情報です。特定の地域に、短い時間に数年に一度の大雨が降った情報です。現在の雨がその地域にとって土砂災害や浸水害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることを知らせするために発表されます。
静岡大学の牛山素行(もとゆき)先生によると、記録的短時間大雨情報が出ると、6割の可能性で何らかの被害が実際に出ているといいます。さらに、2回続けて同じ場所で出れば、その8割で実際に災害が起きています。今回、大きな被害がでた福岡県の朝倉市で7回も記録的短時間大雨場が出されました。
2013年に伊豆大島で大きな土石流(死者行方不明者39人)が起きた時には、3回の記録的短時間大雨情報が出ていました。
■川に関する情報:洪水警報、氾濫危険水位とは
洪水警報:川の上流での大雨やなどによる増水や氾濫によって重大な洪水害が発生するおそれがあると予想したときに発表されます。つまり、川の水位が高まり、水があふれる危険性があるということです。
氾濫危険水位:川の水が一定の危険な水位を実際に超えたことを知らせる情報です。
川の氾濫危険情報として、氾濫危険水位(レベル4)に到達となれば、いつ川の水があふれて氾濫してもおかしくない状態という意味です。
氾濫発生情報:実際に川の水があふれて氾濫したという情報です。
洪水注意報や洪水警報がなされる中で、氾濫危険水位や波乱発生情報などが出されることになります。
洪水や危険水位などに関する情報が出た時には、市町村からの避難勧告などに気をつける必要があります。事前に、「洪水ハザードマップ」などを確認しておくことも求めまれます。ハザードマップは、市町村名と「ハザードマップ」のキーワードでネット検索をかければ、すぐに出てくるでしょう。
■山に関する情報:土砂災害警戒情報とは
土砂災害警戒情:大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で、土砂災害発生の危険度がさらに高まったときに出される情報です。
過去の事例では、土砂崩れの前兆を感じた人が、近隣に声をかけ、みんな無事に避難できたこともあります。
■色による区別
様々な地域に様々な情報が出されます。なかなか直感的にはわかりにく部分があるということで、色分けもされています。黄色、赤、紫と色が変わるごとに危険性が高まります。
黄色:注意報レベル
赤:警報レベル
紫:特に警戒すべき警報レベル
■現代の水害
水害は逃げ遅れが出やすい災害です。火山の噴火のように遠くからは見えず、危険がまじかに迫っていても、わからないこともあります。さらに、小さな洪水は減っているので、洪水への危機感を持ちにくい問題もあります。
近年、今までにない大雨が降る回数が増えています。しかし、様々な対策が進み、水害の数自体は減っています。ただし、だからこそ一度災害が起きると、大規模な災害になりがちです。
江戸、東京は、かつて度重なる水害に見舞われていました。そこで、明治の終わりから昭和にかけて、巨大な荒川報水路が作られました。荒川報水路は幅500 mで全長22 km。とても人工的に作ったと思えないほど大きな川です。このおかげで、洪水はすっかり減りました。しかし、万が一荒川の堤防が決壊するようなことがあれば、東京の下町は壊滅的な被害を受けるでしょう。
今の子どもたちは、ガラスの怖さを知らないといいます。昔と違い、窓ガラスは簡単に割れないからです。しかし、その割れにくい厚いガラスが割れてしまうと、鋭く厚い凶器となり、大怪我につながることもあります。
私たちの社会は、安全な社会になりました。けれども、災害や危険から解放された訳ではありません。浮沈艦と呼ばれたタイタニック号が沈んだように、巨大な堤防も決壊する可能性はあるのです。
ハード面の防災対応には限りがあります。私達が情報を活用し、日ごろの準備を行うソフト面の防災が求められています。
新潟県三条市では、平成16年と23年の2度にわたる水害を経験しています。2度目の水害の時は1度目の2倍の累計雨量が記録されました。しかし、1度目の水害の後、ハード、ソフト両面の防災対策が行われ、2度目の被害は最小限に抑えられました。
1度目の水害時には死者9人、重軽傷者80人の被害が出ました。9名の犠牲者のうち7名が高齢者です。そこで、高齢者など災害弱者にきちんと情報が伝わるようなシステムが作られ、さらに避難を支援するシステムも作られました。
平成16年のときには、避難情報を得られた住民は21パーセントでしたが、平成23年のときには、93パーセントの住民が避難情報を得ていました。
2度目の水害でも犠牲を0にはできませんでしたが、死者1人、軽傷者2人の被害で抑えることができました。
天災は忘れたころにやってくる。天災は忘れる前にもやってくる。天災は私の町にもやってくる。
私達にも、できることがあるはずです。