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学校は24時間対応か?教職員の時間外について考える。

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
子どもからのSOSをどうするか(写真:アフロ)

■子どもの命がかかっているときに、学校は対応しません、になるか?

 前回の記事で、若槻千夏さんのコメントが炎上したことを題材に、学校、教師(教員)の時間外対応等について具体的に考えました(記事はこちら↓)。

 きょうは、その続きで、別の、悩ましいケースを考えてみましょう。

◎「18時以降、学校、教師は対応しません」についてどう考えるか

ケース4)

学校でのいじめを苦に、自殺も考えるほど思い詰めているA君(中学生としておきます)。ここ2ヶ月、不登校がちでした。いまの担任は頼りにならないけれど、去年担任だったB先生とは話をしておこうと思いました。こんなとき、学校は留守番電話(あるいは翌日おかけなおしくださいのメッセージ機能付き電話)でいいでしょうか?

ケース5)

Cさん(小学生)は親からひどい虐待を受けています。きょうは弟がひどい仕打ちを受けました。しかし、Cさんはまだ10歳で、児童相談所のことなど知りません。いま19時です。学校に電話してもつながりません。

 みなさんは、どうお考えになりますか?

写真素材:Photo AC
写真素材:Photo AC

 前回の記事、ケース1)~3)は学校の責任外で起きていることであり、基本的には学校は対応する必要はない、と書きました。この観点でいうと、今回のケース4)と5)は同じではありません。4)は学校でのいじめが原因であり、学校にも一定の責任がありそうです。5)は保護者からの虐待なので学校の責任外と言えそうですが、児童虐待の防止等に関する法律では、学校、児童福祉施設、病院等の職員は「児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」とされています(第5条1項)し、無関心でもいられません。

 また、4)も5)も、子どもの命がかかっていて、切迫した状況と言えます。原因、背景がなんであれ、あるいは学校の責任の有無や範囲を問わず、なるべく駆けつけたい、救いたいと思う教師は、実際は多いと思います。

 現実には、4)のケースはまれかもしれません。ぼくのTwitter、Facebookでは、「学校生活が苦な生徒が、学校に相談はしない」、「30年教師をやってきたが、自殺しようとする子が相談に来たことはない」といったコメントも寄せられました。

 ですが、ご本人やひとつの学校の限られた経験で、これまでそうだったからといって、これからもそれが続くとは限りません。たとえば、危険性の高い組み体操をしていて、ここ10年事故がなかったからといって、これからも事故が起きない、とは言えませんよね。

 加えて、1%でも命を救える可能性があるなら、その道を閉ざすべきではない、との考え方もあろうかと思います。また、発見や支援というのは、多重、多層であるほうがベターです。どこかで漏れた子も、別の網でひっかかる可能性があるからです。

 しかし、です。「あれも心配、これも心配などと言っていては、学校、教師は24時間営業になってしまうではないか」という意見、考え方もあります。また、ほとんどの学校は警察や病院とちがって、夜シフトなどを組んでいませんし、組めるだけの人的措置、予算を与えられていません。

 実際は、夕方・夜以降に留守番電話、メッセージ付き電話対応としている学校でも、ほとんどの場合が、緊急の連絡先を確保、通知していることが多いですし、国の審議会(中教審)もそうしたほうがよいと述べています。多くが、教育委員会につながります。もちろん、教育委員会のスタッフだって、すごく多忙ですし、ご家庭の事情などがあるので、教育委員会が引き取ればいいのだ、という安易な話ではないのですが、当番・シフトを組むことは、学校よりもやりやすい例が多いようです。ただし、こうした緊急時の窓口を子どもまで周知できているかは言えば、課題もあります。

 ケースバイケースの部分もあるかとは思いますが、多くの場合、4)のケースで教育委員会等が電話をとったとしても、学校長と連携して、必要に応じて教職員も対応する、ということになると思います。

 一方、5)のケースでは、教育委員会が電話をとった場合、児童相談所や警察と連携して対応していくということになるでしょう(学校は対応しない)。仮に教職員が通報を受け取った場合も、関係機関と連携していくことになります。時間外なので無視する、ということにはもちろんなりません。ただし、学校の責任範囲を考えると、通報、連絡はするが、その後の対応は児童相談所や警察が動くということになっていくと思います。発見の機能と支援(救援を含む)は、分けて考えるべきでしょう。

■どういう場合に、誰がどこまで対応するかが不明瞭

 別にぼくは、理屈をこねまわしたいのではありませんが、どういう場合に、誰がなにをやるのかが、不明瞭な現実がある、ということも申し上げたいと思います。今回と前回の記事1)~5)のように場合分けして、教職員の間、あるいは保護者、さらには児童生徒と認識共有している学校はどのくらいあるのでしょうか?ぼくが知るかぎり、ほとんどありません。だから、若槻さんのようなギモン、意見が出てくるのです。「学校は時間外なら切るんですか?対応してくれないんですか?」という話が。

 また、発見、支援の網の目は多層、多重なほうがよい、と書きました。実際に、夜間や24時間対応している相談窓口等は警察以外にもあります。文科省や自治体のウェブページにも載っています。

文科省ウェブページより
文科省ウェブページより

 しかし、この手のサービスはせっかくあるのに、子どもたちに知られていないという問題があります。連絡先一覧のカードなどを配っている例もありますが、学校のできることとしては、支援機関等と子どもたちとの距離をもっと縮めることだと思います。知らない大人に電話をかけられる子はそういませんし、いじめや虐待で悩んでいる子はなおさらそうでしょう(人間不信になっているケースもあります)。

 道徳でも総合でもいいと思いますが、支援機関の方に出張授業に来てもらうことなども、有効ではないかと思いますし、いざとなれば、警察に電話してよいという話は、学校でもっとしておいたほうがよいと思います(いじめや体罰の場合は、教師側が加害者となっている例もありますし)。また、最近は家電がない(携帯しかない)家庭も多いでしょうから、どこで電話を、どうかけるかも問題です。

■子ども・若者の死因のトップは自殺

 少し話は広がりますが、次のデータをご覧ください。

出所)令和元年度自殺対策白書
出所)令和元年度自殺対策白書

 子どもたちと若者(20代、30代)の多くは、病気や交通事故よりも、自殺で亡くなっているのです。もちろん、これは学校だけのせいにはできませんし、家庭と社会も考えていく問題です。ですが、先ほど述べたように、学校のできることとして、相談窓口等を近づけておく、ということはもっと意識したほうがよいと思います。

 学校、教職員は何をするべきなのか、どこに役割の重点があるのか、そういうことを具体的に考え、保護者等と共有していきたいと思います。「教師は聖職だ。教師たるもの、子どものためであれば、時間外でも対応せよ。」と乱暴に整理するのではなく。

◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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