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「18時以降、学校、教師は対応しません」についてどう考えるか

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
子どもたちの元気な姿は、保護者にとっても、教師にとっても、かけがいのないものだが(写真:アフロ)

■学校外のトラブル、学校に責任はあるの?

 昨夜のある報道番組でのタレントの若槻千夏さんの発言が話題になっています。学校で18時以降などを留守番電話にして、教師が対応しないことを非難したというもの。学校のソトで起きたことについての教師の対応は、どう考えたらよいでしょうか。きょうはこのことを解説します。

※本書では若槻さんの発言には問題が含まれていることを述べますが、若槻さん個人を非難する意図はありません。むしろ、子育てをしながら大変な仕事をされているのは、応援したい気持ちですし、保護者として気になることがあれば、あまり遠慮せず、学校等におっしゃってほしいと思います。

「news zero」の特番「zero選挙2019新時代の大問題」第2部にゲスト出演した若槻千夏の発言が“モンペ”(モンスターペアレント)的だと一時ネットは炎上状態となり、一夜明けて若槻が自身のインスタグラムで謝罪コメントを発表する事態となった。

(中略)

コメンテーターの一人として出演した若槻は、「何かあったらどうするのか。18時以降対応しないで、もし子どもが帰ってこなかったらどうする」などと教師に反論。教師は「それは学校の役目ではなく、たとえば万引きがあったら警察の役目、他に何かあっても親の役目と思う」と意見を述べるも、若槻は「寂しい。もし子どもが帰ってこなければ心配になってさがすが、見つからなかったら学校に電話する。(時間外なら)それも対応してくれないってことですね」と疑問を呈した。

出典:Yahoo!ニュース THE PAGE記事(2019年7月22日)

 今回の若槻さんらの発言を参考にしつつ、発言にはないことも含めて、具体的な場面を想像してみます。

1)子どもが学校から帰ってきていない。時計の針は18時をまわっている。学校に電話したが、留守番電話になり、「明朝おかけなおしください。」となる。え~、どうしよう!?

2)下校途中のコンビニで、中学生(高校生でも小学生でもよい、以下同じ)が近隣校の生徒とケンカして怪我をさせた。制服から学校名が分かり、コンビニとしては、学校に電話した。勤務時間内であるが、教師は駆けつけるべきか?

3)夏の風物詩の花火大会(または夏祭り)。数年前、ある中学生がトラブルを起こしたということで、中学校の教師は、土日だというのにパトロール(見回り)をしている。校長としては働き方改革もあって、断りたいが、すぐには言い出しづらい。どう考えたらよいか?

 読者のみなさんは、どうお考えになりますか?

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 こうして具体的に考えると、若槻さんの発言は、特異なものというよりも、むしろ、多くの学校、あるいは保護者の心情では、ありがちな話かと思います。現に、おそらく日本中の小中学校等では、1)~3)いずれのケースも、かなりの対応をしているのが実態だろうと思います。調査データでは確認できていませんが、ぼくがあちこちの教育委員会や学校に聞いた実感ではそうです。

 ですが、答えとしては、1)~3)のいずれのケースでも、学校、教師は対応する「責任はありません」、と考えるのが妥当です

 「えっ、どうして?」と思われる方もいるかと思いますが、学校の管理責任外で起きていることだからです。これが、たとえば、修学旅行などの校外学習のなかで起きたことだと、話は変わってきますが。(その場合であっても、事故やトラブルについて、学校側の責任がただちにすべての場合に求められるとは限りませんが。)

 1)のケースに近い、登下校中の事故やトラブルについて考えてみましょう。拙著『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』から引用します。

 

 登下校に関することはどうでしょうか。具体的には、教師が横断歩道に立って児童生徒の安全を呼びかけたり、集団下校に付き添ったりしている例があります。

 通学途中の事故に関しては保険(災害共済給付制度)が適用されるため、通学路の安全確保は学校の役割だと信じている教職員が多いようですが、これは誤った認識です。学校保健安全法を確認すると、学校、教師の役割として、通学路の設定と安全点検、交通安全のルールを教えるなどの指導は必要ですが、通学中の見守りまでの責任があるとはされていません。保険で対象となるということと、学校の責任かどうかは別問題ということです。

 これは考えてみれば、ごく自然なことです。地域の交通安全や治安を維持、守っていくのはおまわりさんの役割ですよね。あるいは市役所や県庁等の道路管理者の仕事であって、学校の仕事ではありません。そして、日常的な児童生徒の通学の安全確保は保護者の役割だということになります。外国では、日本より治安が悪いので、保護者が送迎している例もあるようです。

 仮に通学中の安全確保が学校の責務だとみなすと、毎日ずっと教職員の誰かは付き添わないといけない、なんてことになります。さすがにそれはムリだろう、そんなヒマがあるなら授業準備に充ててくれ、とは多くの保護者も納得されるのではないでしょうか。

 国の審議会(中教審)の検討結果でも、1)、2)、3)のケースに近いこと(登下校中の対応、夜間等の見回り、補導されたときの対応)ついて、「基本的には学校の役割、業務ではない」としています。(厳密に1)~3)の具体について述べているわけではありませんが。)

■「18時以降、学校は知りません」ではさみしい???

 「いやいや、法律上、どうかという問題ではなくて、教師の使命感や責任感として、それで本当にいいの?

 こんな疑問、反論も聞こえてきそうです。実際、記事を読むかぎりでは、若槻さんの発言も、そういう意図があるように推測します。また、Twitterなどでも、「教師の役割として削るべきは別のところであって、必要なら18時以降などでも対応するべき」という意見もあるようです。

 現実的には、18時以降など(※注)であっても、何か児童生徒がトラブルに巻き込まれた、あるいはその可能性があるとなると、駆けつける教師は、いまも多いと思います。そういう使命感でいる人は、多いでしょう。

 ですが、そのことと、それを強要してよいかは、別問題です

(※注)なお、厳密には多くの学校の定時(勤務終了時刻)は17時ごろであり、18時は既に時間外で約一時間経過しています。18時とか19時に留守番電話にしている学校が多いのは、定時でキッパリ切っているのではなく、部活動終了後などから一定時間をおいて設定しているためです。

 また、すべての教師がそういう対応をできるわけではありません。少し想像すれば分かりますが、教師のなかにも保育園や介護の送り迎えがある人も多くいます。18時以降も教師は対応せよとなると、こうした方は働きづらくなりますよね。若槻さんのようなワーキングマザーであれば、こういうことはより実感されると思います。

 加えて、時間も人のエネルギーも無限ではありません。学校の働き方改革の趣旨には、「教師が疲労や心理的負担を過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないようにすることを通じて,自らの教職としての専門性を高め,より分かりやすい授業を展開するなど教育活動を充実すること」(中教審・答申)があります。

 つまり、授業準備や自己研鑽などを通じて、授業の質を高めていくことといった、教師でなければできないことにもっと時間とエネルギーを割いてほしいという、ねらいがあります。学校の責任外でのトラブルへの対処や夜間の見守りなどで、教師を疲れさせるよりは、授業等をしっかりやってもらうほうが、保護者としても、よくないですか?

 「いや、授業準備等をしっかりやった上で、時間外であっても、対応してほしい」といった意見もあるかもしれませんが、そう欲ばりにはいかないのです。実際、OECD・TALIS調査や国内の勤務実態調査を見ても、日本の教師の多くは、授業準備や研鑽にそう時間を割けているわけではありませんし、残業が多すぎて過労死までしている人も多数います。時間も体力、知力も有限である以上、どれかは優先順位を落とさざるを得ないと考えるほうがよいと思います。

 やはり、原則としては、学校の責任外で起きたトラブル等については、保護者が対応するべきであり、警察に相談いただくというが筋です。たまたま遅くまで残っている先生がいて、「自分も一緒に探そう」とか「家庭に連絡がどうしても取れないので、わたしが駆けつけて話を聞こう」という気持ちになる人がいたら、それを否定するものではありませんが、そうした行為を当然視する(やってくれて当たり前だと思う)のは、考えものです。

 なお、留守番電話については、少しずつ導入する学校が増えてきています。先行事例の多くでは、特段トラブルやクレームになったとは報告されていません。また、緊急性がある場合は、教育委員会等の窓口を確保している例もあります。それでもまずは警察へ、ですが。

 また、今回の若槻さんのような発言について、安易に”モンペ(モンスターペアレント)”だとラベリングするのも、いかがなものかと思います。保護者等の多くは、学校の実情を必ずしもよく知っているわけではありません。定時って何時までかも、ほとんどの保護者が知らないでしょう。学校側も説明してきませんでしたから。保護者等との認識や考え方にいっていのギャップや違いがあるのは、当然です。そこを両者でよく話し合っていくことも大事なことであり、モンペとラベリングするのは、お互いのコミュニケーションを遠ざけることにもつながりかねず、マイナス影響のほうが大きいのではないでしょうか。

 いずれにしても、今回の騒動は、全国の学校にとっても、保護者にとっても、考える材料を提供してくれます。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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