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「気分の落ち込みは18年USオープンから」 大坂なおみ全仏棄権と衝撃告白、各界の反応は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

テニスの大坂なおみ選手が、全仏オープンを棄権した。

大坂選手は大会前の先月26日、ソーシャルメディアを通じて、「(記者会見では)アスリートの心の健康状態が無視されている」とし、全仏中は試合後に行われる記者会見に臨まない意向を表明していた。

記者会見ボイコットを告げるメッセージ

皆さん、元気にお過ごしのことと思います。今日これを書いているのは、全仏オープン中は、記者会見をしないことをお伝えするためです。これまで、アスリートのメンタルヘルスが軽視されていると感じることがしばしばありました。会見場で私たち選手は、何度も受けた質問についてしつこく聞かれたり、疑念を抱くような質問をされたりしますが、疑いの目で見る人に自分をさらけ出すつもりはありません。たくさんのアスリートが負け試合後の会見で打ちのめされているのを見てきたし、あなたもそうでしょう。落ち込んでいるときの打撃は相当なものだし、そもそも質問の意図が不明です。私が記者会見をしないことは、大会自体や私が昔からお世話になって仲良くしている数名の記者に対しての拒否ではないので、個人的なこととして取らないでください。主催側が「記者会見をしなさい。そうしなければ罰金です」と言うのは、選手のメンタルヘルスを無視し続けることであり、それに対して笑うしかありません。私が支払う罰金が、メンタルヘルスのチャリティーに寄付されることを願っています。xoxo

(ツイッターの概要)

そして1回戦の試合後、大坂選手はコート上のインタビューには応じたが、決意表明をした通り、記者会見に姿を見せなかった。そのため、主催者から罰金1万5000ドル(約150万円)を科された。またグランドスラム4大大会の主催者は共同で、今後も記者会見をしないならば、より多くの罰金やグランドスラムへの出場停止処分を受けることになるとの声明を出した。

この問題はアメリカでも大きな波紋を広げたが、議論が大きくなりすぎて大会自体を混乱させていると判断した大坂選手は31日、全仏オープンの棄権を発表した。

全仏オープンの棄権を告げるメッセージ

皆さん。これは、数日前に投稿した時には想像もしていなかったようなことです。ほかの選手のためにも自分のためにも、今私がこの大会から退くことで、誰もが大会に集中できるでしょうから、そうするのがベストだと思っています。私は混乱させるようなことは決して望んでいませんでしたが(会見拒否の発表の)タイミングや内容は適切でなかったようです。もっとも大切なことは、私は決してメンタルヘルスという言葉を軽い意味で使ったわけではありません。事実、私は2018年の全米オープン以来、気分の落ち込み*が長い間続き、対処するのにとても時間がかかっています。私のことを知る人はわかっていると思いますが、私は内向的な性格で、試合会場で私がヘッドフォンを使うのは不安な気持ちを和らげられるからです。テニス関連の記者は私に親切な人ばかりですが(そして会見拒否発表について私が傷つけたかもしれない素晴らしいジャーナリストには謝罪したいです)、私は人前で話すのが苦手で、世界のメディアを前にすると特に大きな緊張と不安に襲われます。なんとか良い受け答えで会見をやり遂げようとしますが、大きなストレスになっています。ここパリでも私は心もとない気持ちでいっぱいでした。それで会見をやらずにセルフケアをしようと思い立ちました。(記者会見の)ルールは部分的に時代遅れと感じるため、それをお伝えするために先手を打ってアナウンスしましたが、私の表明は大きな衝撃を与えてしまい適切ではありませんでした。大会事務局には謝罪文を送り、大会後に改めて話す機会を持ちたい意向をお伝えしました。今しばらくコートから離れて過ごすつもりですが、時期が来たら選手や記者団、ファンのための最良の方法を探るための話し合いの場をツアーとぜひ持ちたいです。皆さんが元気で安全に過ごすことを望んでいます。みんなのこと愛してるよ。そして時期が来たらまた会いましょう。(ハート)

(ツイッターの概要)

大坂選手の決意に対して、各界からさまざまな応援の声が上がっている。

キミはそのような決断をする必要はなかったが、権力が自分たちを守ってくれない中で、このような行動に出た姿は素晴らしいぜ。 @naomiosaka に大きな敬意を寄せて。

(NBAバスケットボール選手、ステフィン・カリー)

あなたのこと、誇りに思うわ。

(ニューヨーク州下院議員、アレクサンドリア・オカシオ-コルテス)

テニス選手や関係者からも、心情を察する声が上がっている。

なおみに思いを寄せています。彼女を抱きしめてあげたい気持ちです。なぜなら私も同じような経験があり、彼女の言っていることがよくわかるからです。人々は皆、考え方も性格も違うのですから、この問題は彼女に任せ、彼女にとって最善の方法で対処させてあげるべき。そして(問題の本質について)気づきがあること、それが新たな一歩となるでしょう。

(セリーナ・ウィリアムズ選手)

(試合後の会見を開くのは)もちろん簡単なことではありません。しかし(大会前に選手が合意の)サインをしています。これはスポーツであり、観客やスポンサーなどすべての人から期待されていることですから、どうにかやり遂げなければなりません。心からサポートしてくれるチームに恵まれる必要があるでしょう。彼らはあなたと共にあり、(落ち込む時に)あなたの支えになってくれます。

(ソフィア・ケニン選手)

大坂選手の件では、たくさん悲しいことが起こっています。ただ、彼女はそれを自分で決めたのですから、正直な話、今起こっていること以上にコメントはないです。精神的にダメージを負っているようですから、早く立ち直って欲しいということを望むばかりです。

(エリナ・スヴィトリナ選手)

大坂選手に今、必要な助けや時間などが適切に得られているかが心配です。彼女は世界最高の選手であり、国際的に人を惹きつける魅力と(実績の伴った)説得力のある有名人です。問題が彼女のテニスに影響を及ぼさないかと、私は大坂なおみ選手のファンとして心配しています。

(ESPNコメンテーター、マイケル・ウィルボン)

2018年の全米オープン以来、グランドスラムで4度優勝している大坂選手は、気分が落ち込んだ状態にあることを、彼女は前向きな姿勢で正直に打ち明けました。それは彼女が解決しなければいけない問題であり、問題と認めるのは大きな勇気とチャレンジが必要です。正直に告白したこと、そして記者会見に応じたくないとする理由を説明してくれたことについて、拍手を送るべきでしょう。

彼女をサポートする上で1つはっきりしておきたいのは、彼女は選手に課せられたルールを変えたいわけではありません。自ら大会に参加すると名乗り出たのであり、プロ選手であり、プロとしての義務を果たす必要があるのですから、近い将来同じことが起こらないように願うばかりです。

(ESPNコメンテーター、スティーヴン・A.スミス)

記者会見ボイコットやメディアが選手に与えるメンタルヘルスの問題についての悲しいニュースを聞き、特に彼女のような若い女性の心の問題は、真面目に受け止めるべきだと思いました。私も個人的にはメディアは嫌いでしたが、メディア(の助け)がなければ賞金も契約もないのですから、プロとして会見に応じるのは仕事の一部であると考え、受け答えをしてきました。全仏中の記者会見ができないという彼女の表明は今後も難しいことの示唆でもあり、彼女のキャリア面の危機に瀕している。

(元テニス選手のボリス・ベッカー)

昨年のBLM問題の際も自らの言動が注目され、人々に黒人差別問題について考えるきっかけを与えた大坂選手。その時も今回も、賛同と同じくらい反発も多いのだが、それは彼女のような一挙手一投足が世界の注目を浴びるに等しい影響力を持つ、若い世代のリーダー的なアイコンの使命なのかもしれない。

復帰のタイミングや東京オリンピックについて本人は明言をしていないが、オリンピックは体調などを考慮した上で出場の意思を示しているとも報じられている。しばらく休養し再び時期がくれば、必ずやコートに復帰するだろう。その時は心身ともに強く聡明でさらにパワーアップした世界のNaomi Osakaとして。

Sources:

米ワシントンポスト

英ユーロスポート

* 注:日本語の記事に「鬱病」「うつ病」と書かれているものが散見されますが、英語の原文を読む限り、大坂選手の表現するdepressionとは、気分の落ち込み、うつっぽい憂鬱な気分が2018年以来、長い間あるということではないかと思いました。オーサーコメント

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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