恋人とキスもだめ?「社会的距離」とは
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、「社会的距離を保ちましょう」という言葉をよく聞くようになった。
「社会的な距離って、なに?」
英語で「ソーシャル・ディスタンシング」(social distancing)、ノルウェー語で「ソシアル・ディスタンセーリング」(sosial distansering)は、最近よく耳にするようになった、拡大抑制のための戦略だ。
私が住むノルウェーでも、新型コロナが問題になる前までは、日常生活では聞くことがなかった言葉だ。
「相手に近づきすぎないように」、ということは、なんとなくわかる。
でも、何が良くて、何がダメなのだろう?
現地の人にも、最初はぴんとくる言葉ではなかった。
ノルウェーの現地メディアや保健局などは、「社会的距離とは何か」、という情報発信を熱心に始めている。
社会的距離は、人によって異なる
ノルウェー公衆保健研究所は、市民を3グループに分けて、グループごとに、とらなければいけない社会的距離は異なると説明している。
3グループとは、
- 待機・隔離状態ではない、市民全体
- 病気の症状はないが、感染したかもしれない自宅待機中の人
- 検査結果待ち・感染して自宅隔離中の人
待機・隔離状態ではない、市民全体のとるべき「社会的距離」
- 熱や呼吸器系の問題がある場合は、健康になってからも1日目は家で過ごす
- 同居中の人とは、通常通りに交流していいが、握手、キス、抱擁は減らす
- 家の外では、握手、キス、抱擁は避ける
- 職場や外などでは、他者とは距離を保つ
- 親しく交流する人の数は限定する
- 元気な子どもは外で遊んでもいいが、少人数で
- 必要ではない集まりは延期する
- 互いを気にかけ、思いやる。非難や仲間外れは避ける。一人暮らしをしている知人がいたら、いつもりよりも頻繁に電話をする
健康で無症状だが感染した可能性はある、自宅待機中の人のとるべき「社会的距離」
- 元気だが、感染があった場所にいた場合は、自宅で過ごし、学校や職場には行かない
- 同居中の人とは通常通りに交流していい
- 公共交通機関を使わない
- 他者と距離が保ちにくい場所には、行かない
- 国内外での長距離移動はしない
- 店やカフェなどの公の場所に行くことは避ける。どうしても店や薬局に行く必要がある場合は、他者とは1~2メートルの距離をとり、行列は避ける
- 外に散歩に行ってもいいが、他者とは1~2メートルの距離をとる
- 熱や呼吸器系の症状がある場合は、可能な限り、家で隔離する
検査結果待ち、もしくは検査で感染したと判明した、自宅隔離中の人がとるべき「社会的距離」
- 外出しない
- 同居中の人とは、2メートル以上の距離をとる
- 可能なら自分だけが使用する部屋やバスルーム、タオルを用意
- 医療機関には電話する
- 同居中の人は、自宅待機をする
- 医者から回復したと判断されて、健康な状態になってから7日間は隔離を続ける
コロナ疲れの人に電話することも、社会的距離の取り方
社会的距離は、人によっては1メートルだったり、2メートルだったり、家から一切出ないなど、さまざまだ。
好きな人とのキスはという疑問は、各メディアの質問コーナーでもよく見かけるものだ。
寂しさや不安を感じているかもしれない人に電話することまでが、社会的距離の取り方だと思っている人は、少ないかもしれない。
上記は公衆保健研究所が示す社会的距離だ。
学校、薬局、交通機関、カフェなど、各所がお願いする社会的距離は、必ずしも同じとは限らない。
社会的距離のお手本は、リーダーたちから
メディアや政府関係者は、社会的距離の重要性を市民に伝えるために、記者会見をする時は、横に並ぶ政治家との距離も、あからさまに離すようになった。
国のリーダーたちが、目に見える形で実行することも重要だ(具体的な写真の例はこちら)。
飲食店での社会的距離とは?
保健局や自治体からの指示により、飲食店やお店は事実上、営業が難しい。その中でも、なんとかして店のドアを閉めまいとする人もいる。
その場合、来客には、1メートルの社会的距離を保ち、手をアルコール消毒するように呼び掛ける場合が多い。
では、実際に市民は社会的距離を保てているだろうか?
22日の日曜日、市内のカフェを何店舗かまわってみた。
レジ周辺になると、やはり行列ができて、人と人の距離は近い場合が多かった。1メートルの距離を気にしない人もいる。
デンマーク発のジュースバー「Joe & the Juice」のドアには、「社会的距離を大切にして」とのお願いが貼られていた。
このカフェがいう「社会的距離」とは、
- お客様に商品を直接手渡ししない
- 現金払いはお断りして、カード払いのみ
- トイレは使用不可能
- 店内で飲食はできず、テイクウェイのみ
- 全てのお客様と、1メートルの距離を置く
- 商品を受け取ったら、お店の外に出るようにお願いする
話題になった、首相のことば
ノルウェーは26日まで、大規模なコロナ対策中で、自粛ムードが漂う。厳格な規制を発表したソールバルグ首相は、12日の記者会見でこう語った。
この言葉は、それから何度も、多くの人に引用された。
社会的距離に含まれる、思いやり
ノルウェー語では、「互いを身体的に触る」(ター・ポー・ヴァーランドレ)と、「互いを思いやる・気にかける・世話をする」(ター・ヴァーレ・ポー・ヴァーランドレ)という表現方法が、似ているためだ。
今は、前のように握手したり、抱擁したりできない。
体と体の距離は、より遠くなるけれど、
心と心の距離は、より近くであろう。
「社会的距離」という新しいルールは、社会をどう変えていくのだろうか。
Photo&Text: Asaki Abumi