捨てられるパイナップルの芯や皮から食品包装の新素材開発 葉は服に 農家の収入源にも
スペインのアリカンテ大学(University of Alicante)分析化学・栄養・食品科学(Department of Analytical Chemistry, Nutrition and Food Sciences)の研究者チームは、パイナップルの芯や皮など、通常、捨てられる部分を活用し、抗酸化作用のある新素材を開発した。この素材は、容器包装として使うことができ、食品の酸化を防いで、保存する食品の保存期間を延長することができる。
このプロジェクトは「生鮮食品の保存期間を延ばし、食品廃棄物を削減するための天然バイオアロマの開発」と題し、2021年末から始まった。研究者グループは、最終的には「食べられるフィルム」「天然由来の持続可能なプラスチック材料」の実現を目指している。
パイナップルの芯や皮は総重量の50%以上
国連FAOによれば、世界の食品ロス・食品廃棄物は年間13億トンと推定されている(日本の場合「食品ロス」は可食部のみを指すが、国連FAOの場合は不可食部も含めている)。
食品ロスや食品廃棄物は、世界の温室効果ガス排出量のうちの8%を占めており、淡水消費量の20%、世界の農地使用量の30%を占める。そこで、食品ロスや食品廃棄物を廃棄せずに資源として活用することで、環境負荷や経済的な損失を防ぐことができる。
パイナップルの芯や皮は重量が重く、1個あたりの総重量の50%を超えることもある。通常、それらは捨てられるだけで使われていない。
パイナップルを含む植物由来の残さ(殻、茎、種子、ぬかなど)には、天然香料や抗菌作用、抗酸化作用を持つ物質など、食品の保存のために有用な成分が含まれているのだそうだ。たとえば、ココナッツやキャッサバなども、プラスチックより持続可能な包装材の可能性を秘めている。
赤身肉など生鮮食品の保存性を検証中
研究グループのメンバーは、スペイン・アリカンテ大学分析化学・栄養・食品科学科の講師、アナ・ベルトラン(Ana Beltrán)氏と、講師のアランツァズ・バルデス(Arantzazu Valdés)、研究者のマリア・ソレダッド・プラット(María Soledad Prats)氏、レイチェル・サンチェス(Raquel Sánchez)氏、アドリアナ・フワン(Adriana Juan)。また、国際センターのシグマ・クレルモン(フランス)とパナマ工科大学の研究者も参加している。
現在、彼らは、赤身肉など生鮮食品の腐敗を抑制するために、この新しい素材が与える影響を調査・検証している。
パイナップルから作られたこの素材は、抗酸化作用があるので、脂肪分の多い食品の酸化による劣化を防ぐのに有効だそうだ。食品やアクティブ包装に組み込むのに役立つ、フルーティーで甘い香りの供給源となると報告している。
パイナップルは代替レザーにも
パイナップルは、以前から材料科学者の注目の的だった。ファッション分野では、パイナップルの葉の繊維を利用して、動物を使わない代替レザー「ピニャテックス」が開発されている。
筆者が2年近く滞在していたフィリピンでも、パイナップルの繊維を利用して「バロン・タガログ」という正装の服が作られていた。薄いクリーム色で、透けるような素材の服である。
2022年5月17日・18日、台湾の繊維産業連合会である紡拓会(台北市)は、東京の渋谷区恵比寿の「EBiS303」で生地展示会「パンテキスタイルフェア東京2022」を開催予定で、ここでもパイナップルやバナナを使った繊維の生地が展示されるそうだ。
パイナップルの葉から繊維「Nexevo」
インドネシアの果物の会社、Great Glant Pinapple(GGP)の社長を9年間務めたハロルド・コー(Harold Koh)氏は、パイナップルの葉から繊維を抽出し、持続可能な繊維のスタートアップ「Nexevo」(ネクセボ)を始めた。パイナップルから作られたこの繊維は混紡糸につむがれて、タオルや靴、ジーンズ、デニムを作るのに使われる。
パイナップルの葉は、通常、農家によって、燃やしたり、埋め立て地に捨てたりされている。この、捨てられる葉を農家から購入することで、農家にとっての収入源になり、さらに二酸化炭素の排出量を削減することにもつながる、と、コー氏は語る。
コー氏は、インドネシアだけでなく、タイからもパイナップルの葉を調達している。タイのパイナップル缶詰メーカー、サイアム・アグロ・フード社と合弁会社を設立し、パイナップル農家から葉を調達するサプライチェーンを構築した。
Nextevoは、ココナッツから作る土壌材「ココピート」や、余ったココナッツの皮をコワールファイバー (ロープや装飾品に使われるひものような素材) に変え、マットレスの詰め物として商業的に生産する方法も模索している。
リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ
これまでの「作る→売る→消費する→捨てる」という直線型の「リニアエコノミー」(下図、左)から、捨てていたものも捨てずに循環させる円形の「サーキュラーエコノミー」(下図、右)へと転換が進んでいる。
これまで不要なものとして捨てられていたパイナップルの茎や皮、葉を活用した取り組み。他にも、「ごみ」ではなく「有用な資源」として活用できるものがたくさんあるはずだ。
参考記事
PINEAPPLE WASTE COULD BE USED FOR FOOD PACKAGING(Packaging Connection, May 5, 2022)
新時代のヴィーガンレザー! パイナップル由来のピニャテックス(Piñatex)とは(株式会社ナダヤ、2020/12/.18)
ハロハロ・ノート「バロン・タガログ」(ナビマニラ、2020/3/10)
特集 パンテキスタイルフェア東京2022(1)/サステイナブル生地が充実/ニューフェースも複数出展/17、18日、EBiS303(東京都渋谷区)で(繊維ニュース、2022/5/11)
Spinning sustainable fibre out of unwanted pineapple leaves(BusinessTimes、シンガポール、2022/4/7)