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ウルトラマンの謎。怪獣を倒して飛び去った後、どうやって人間に戻り、帰ってくるのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

怪獣を倒し、空へ飛び立つウルトラマン。

劇中の人々がホッとしていると、遠くから「お~い!」とハヤタ隊員の声がする。

見れば、ハヤタが満面の笑みで手を振りながら駆けてくる。

話によっては、ウルトラマンが登場する前、ハヤタの乗ったビートルが怪獣に叩き落とされていたりもするから、「ハヤタが生きていた!」と二重の喜びに沸き立つわけだ。

幸せな光景だが、冷静に考えると、ちょっとナゾである。

空の彼方に飛び去ったウルトラマンは、その後どうやってハヤタに戻り、そして仲間たちのところまで帰ってくるのだろうか?

◆どこでハヤタに戻るのか?

空へ飛び立ったウルトラマンは、そのままウルトラの星へ帰るわけでない。

どこかで変身を解いてハヤタに戻り、科学特捜隊の仲間のところに戻ってくる。

しかし、どこで変身を解くのだろうか?

多くの場合、科学特捜隊や街の人々は感謝を込めて、飛び去るウルトラマンを見送っている。

この状況下、変身を解くわけにはいかない。

ウルトラマンの肩幅は11mほどと推定されるが、この大きさの物体が視力1.0の人に見えなくなるのは、38km彼方まで飛んだとき。

現場が新宿なら、鎌倉あたりまで飛んでから、変身を解除する必要があるわけだ。

一方で、彼は一刻も早くハヤタ隊員に戻って、仲間のところに駆けつけなければならない。

つまり、人目を忍ぶために38km離れた鎌倉まで行き、ダッシュで新宿に戻る。

ウルトラマンの飛行速度はマッハ5=時速6120kmというモーレツな速さであり、鎌倉上空まで飛んでいくのに22秒しかかからないが、そんな遠いところでハヤタに戻ってしまったら、帰りが大変である。

ハヤタがマラソン選手なみの時速20kmで走れたとしても、現場に帰り着くまで1時間56分。

JR横須賀線と湘南新宿ラインを乗り継いで帰ってきたとしても、1時間くらいかかる。

科学特捜隊の仲間たちは、まだ現場にいるだろうか。

◆ハヤタはウルトラマンより速い!?

実際にウルトラマンは、どこで、どんなタイミングでハヤタに戻っているのか。

それを明らかにするために、各エピソードを見てみよう。

第1話では、ウルトラマンは怪獣ベムラーを倒すと、空へ飛び去った。

科学特捜隊のメンバーたちは、ハヤタの乗っていた特殊潜航艇S16号に駆けつけるが、ハヤタの姿はない。

捜索を続けていると、向こうからハヤタが駆けてくる。

アラシ隊員が「お~い!」と声をかけると、ハヤタも「お~い!」。

それは、ウルトラマンが飛び立ってから11.8秒後のことだった。

ここから考えると、この11.8秒のあいだにウルトラマンは飛び去り、変身を解き、ハヤタとして走って帰ってきたのだろう。

では、それぞれに何秒ずつかけたのか。

ハヤタが時速20kmで走るとしても、その速度はマッハ5=時速6120kmの306分の1。

ウルトラマンが飛んだ距離と、ハヤタが走った距離は同じはずだから、ハヤタが帰ってくるには、ウルトラマンの306倍の時間がかかる。

つまりウルトラマンが飛んでいた時間は全体の307分の1、ハヤタが走っていた時間は307分の306だったことになる。

この場合のウルトラマンの飛行時間はわずか0.038秒ということになり、移動できる距離はたったの65m。モノスゴク近い!

いくらなんでも、これは変では……と悩みつつ問題のシーンを繰り返し観察するうちに、ややっ、筆者はある「音」に気がついた。

それは、「キーン」というウルトラマンの飛行音。

これだ、この音がしているあいだは、ウルトラマンはウルトラマンのままでいるに違いない。

そして聞こえなくなったとき、変身を解いてハヤタに戻っているのでは?

そこで、第1話で飛行音が聞こえる時間を計ると、8.2秒。

この場合、ウルトラマンは14km彼方まで飛んだことになる。

そして、ハヤタが走った時間は11.8秒-8.2秒=3.6秒。

3.6秒で14km走るには、スピードはマッハ11.4。ウルトラマンよりずっと速い!

いくらなんでも、そんなバカな……。

◆衝撃の変身解除シーン

さらに第3話のネロンガ戦では、飛行音が7.3秒、音が止んでからハヤタが姿を現すまで6.3秒。

このときのハヤタの走行速度はマッハ5.8ということになる。

いちばん速かったのは、第9話のガボラ戦。

飛行音は18秒で、その0.8秒後に岩場で苦しむハヤタが発見された。

とても走ってきたようには見えないけど、戻るスピードを計算してみると、なんとマッハ113だ!

びっくりしたのは第4話、ラゴンを倒したウルトラマンは、ラゴンの体に引っかかっていた原子爆弾を持って飛び立ち、宇宙で爆発させた。

その11.2秒後、ハヤタは「ようっ」と言って、海辺の崖の上に現れた。

このヒト、宇宙からどうやって、生身のカラダで帰ってきたの!?

などなど不思議に思いながら『ウルトラマン』を見続けていると、第12話で衝撃のシーンを発見した。

怪獣ドドンゴを倒し、空へ飛び立ったウルトラマンは、後ろを振り返って周囲を確認すると、両手をぴったり合わせる。

すると、手のあいだから光のリングが放たれて、崖の上に。

リングが多数に分かれてバネのような形になり、それが消えるとハヤタが現れた。

同じシーンが、第27話のゴモラ戦でも見られた。

これこそ、ウルトラマンが変身を解くシーンであった。なんと、劇中でちゃんと描かれていたのだ!

と喜んでしまったが、冷静に考えると、ウルトラマンの手から放たれた光から、ハヤタが現れるって、なんか変では?

自分が出した光から、自分が出てくる……?

なんかアタマがクラクラするけど、このシステムなら、ハヤタは遠い距離を走って戻る必要はないわけだ。

光のリングを現場のすぐ近くに届けるだけでいい。

長年の謎が解けましたなあ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ただし、ハヤタを降ろす場所は慎重に選ばなければならない。

安全な場所か、周囲に人がいないか。

38km離れたところや、場合によっては宇宙から、ウルトラマンはそれをきちんと見極めていたのだろう。

ウルトラマンの変身解除は、やっぱりウルトラであった。スバラシイ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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