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味噌煮込みうどん店が香港で連日大行列! 名古屋めしは東京よりも海外でウケる?

大竹敏之名古屋ネタライター
味噌煮込みうどん「山本屋」ブランドが7月に香港に初出店。連日大行列の人気店に

味噌煮込みうどん一杯1850円も香港ではリーズナブル

名古屋名物・味噌煮込みうどん。その名店が香港に初出店し、現地で大人気となっています。2023年7月22日にオープンしたのは「大久手山本屋 香港大圍(たいわい)店」。連日行列ができ、最大3時間待ちという盛況ぶりです。

1日平均600人のお客様がご来店し、ほとんどの方が味噌煮込みうどんを召し上がられます」とは大久手山本屋・5代目の青木裕典さん。価格は親子味噌煮込み(鶏肉・卵入り)で98香港ドル(約1850円)。名古屋での価格1650円と比べて1割少々高い価格設定ですが、現地では決して高いという印象は持たれていないといいます。

「香港ではラーメンが100香港ドル(約1890円)前後なので、むしろリーズナブルと感じられるようです。さらにこちらのお客様は手羽先や味噌おでんなどのサイドメニュー、ドリンクもご注文されるので、客単価は180香港ドル(約3400円)ほどになります」(青木さん)

大久手山本屋の味噌煮込みうどん。土鍋でぐつぐつ煮込まれながら出てくるライブ感も人気に拍車をかけている
大久手山本屋の味噌煮込みうどん。土鍋でぐつぐつ煮込まれながら出てくるライブ感も人気に拍車をかけている

お客の大半は現地に住む香港人

お客はほとんどが現地に住む香港人。ファミリーが中心ですが、老若男女幅広い層に受け入れられているそう。ガラス張りの製麺室での麺の手打ち作業を見られるのも好評で、ここをバックに記念撮影するお客も少なくないといいます。

「大圍(たいわい)は香港の中心部よりやや北に位置するベッドタウンで、名古屋周辺でいえば春日井市、東京でいえば二子玉川や武蔵小杉といったイメージの町。観光客ではなく現地に住む方をターゲットにしたかったので、あえてこのエリアに出店しました」(青木さん)

「大久手山本屋 香港大圍(たいわい)店」。45席の店舗が毎日10回転以上する
「大久手山本屋 香港大圍(たいわい)店」。45席の店舗が毎日10回転以上する

味噌が辛い(?)、麺が生煮え(?)。日本では好き嫌いが分かれるが…?

味噌煮込みうどんは名古屋めしの中でもとくに個性が強い一品。東海地方固有の豆味噌の風味のインパクトが強烈で、太くて固い麺に他地域の人が“生煮えじゃないか!?”と驚くのも“名古屋めしあるある”です。そんな孤高の名古屋めしは、本当に香港の人に抵抗なく食べられているのでしょうか?

「山本屋」の味噌煮込みうどんといえば太くて固い麺。香港人の評価ははたして…?
「山本屋」の味噌煮込みうどんといえば太くて固い麺。香港人の評価ははたして…?

「名古屋の豆味噌は大陸から日本に伝わったという説もあり、豆板醤(とうばんじゃん)と作り方も似ています。香港の人からすれば“辛くない豆板醤”という印象のようで、抵抗なく召し上がっていただけています。噛み応えのある麺も、“名古屋ではこれなんです!”といえば納得してくれるんです」(青木さん)

“ホンモノの名古屋めし”だから高い評価

味噌などの調味料は日本から送り、味つけは若干マイルドにしてあるものの名古屋で出しているほぼそのまま。店内で麺を手打ちするのも、名古屋と同じおいしさを提供するために絶対譲れなかったといいます。この“ホンモノの名古屋めし”であることが評価の最大のポイントだと青木さんは胸を張ります。

「香港の人は、山本屋の“百年の歴史”をリスペクトしてくれ、健康によい日本食に対する関心も高い。ほとんどローカライズ(地域の嗜好に合わせてアレンジすること)していないことで、逆に評価してくれていると感じます」

青木さんは、7年前に店を継承した当時から海外進出を目標にしていたそう。店では5年ほど前からハラールメニューを採用するなど、インバウンドを積極的に受け入れてきました。名古屋の店舗でのインバウンドの来店は毎月800人以上。香港からの観光客も月に50人ほどはいるといい、味噌煮込みうどんをおいしそうに食べてくれることから手ごたえを感じていたそうです。

青木裕典さんの弟・晃佑さんが店頭でうどんの手打ちを実演披露。これも“ホンモノ”であることの格好のアピールとなる
青木裕典さんの弟・晃佑さんが店頭でうどんの手打ちを実演披露。これも“ホンモノ”であることの格好のアピールとなる

名古屋めしは東京よりも香港、海外でウケる(!?)

香港では、ラーメンの「一風堂」「一蘭」、うどんの「丸亀製麺」、居酒屋の「塚田農場」など日本の大手チェーンの出店は少なくありませんが、名古屋めしでは手羽先の「世界の山ちゃん」が1店舗あるくらい。今後、香港でさらに名古屋めしが広まる可能性はあるのでしょうか?

東京よりもむしろ香港、さらには海外に出す方が成功の可能性があると思います!」と青木さん。「味噌煮込みうどんの専門店は東京にはほぼありませんし、他の名古屋めしも県外にはなかなか広がらない。対して香港は食文化の多様性にとても寛容なので、“名古屋のホンモノのソウルフードだ!”と打ち出せば、関心を持って食べてもらえるのではないでしょうか」

うどんの手打ち体験会も開催。定員の数十倍の応募が殺到するほど人気を博している
うどんの手打ち体験会も開催。定員の数十倍の応募が殺到するほど人気を博している

ひつまぶし、味噌カツ、あんかけスパ…。名古屋めしPRの拠点にも

「大久手山本屋 香港大圍店」では名古屋めしのPRにも積極的。満席時の待ち時間の間に名古屋めしのうちわを配布したり、今後は名古屋でお勧めの名古屋めし情報も提供するなどし、香港から名古屋への観光客誘致にもつなげていきたいといいます。

さらにはこんな展望も。「うちの店を使って様々な名古屋めしを期間、数量限定で提供する、そんな名古屋めしのアンテナショップ的な企画もやっていきたい。ひつまぶし、味噌カツ、あんかけスパ、台湾ラーメン、小倉トーストなど、香港、さらには海外でウケる名古屋めしはまだまだたくさんあるはずです!」(青木さん)

「大久手山本屋」5代目の青木裕典さん。「味噌煮込みうどんが、香港の皆さんが名古屋、さらには日本にいっそう興味を持ってくれるきっかけになれば」
「大久手山本屋」5代目の青木裕典さん。「味噌煮込みうどんが、香港の皆さんが名古屋、さらには日本にいっそう興味を持ってくれるきっかけになれば」

うま味重視の名古屋めし。日本食代表として海外でブームに(?)

日本国内では風変わりなB級グルメと思われがちな名古屋めしですが、うま味を強調した味つけは、実はダシ(=うま味)を重視する日本食の特徴を分かりやすく表現したものといえます。その特徴は、名古屋以外の国内よりも、海外の方が伝わりやすいとも考えられます。

味噌煮込みうどんの成功を足がかりに名古屋めしが世界中でブーム! —近い将来のそんな世界線も夢ではない、かもしれません(!?)。

「大久手(おおくて)山本屋」は名古屋市千種区に店舗を構える。「山本屋総本家」の流れをくみ、1979年に独立して現店舗を出店
「大久手(おおくて)山本屋」は名古屋市千種区に店舗を構える。「山本屋総本家」の流れをくみ、1979年に独立して現店舗を出店

5代目の青木裕典さん・晃佑さん兄弟(左・右)と4代目の一哉さん(中)。「うちは山本屋ののれんを掲げていますが家族経営の小さな店。個人店でも海外に挑戦するチャンスは十分あります!」と裕典さん
5代目の青木裕典さん・晃佑さん兄弟(左・右)と4代目の一哉さん(中)。「うちは山本屋ののれんを掲げていますが家族経営の小さな店。個人店でも海外に挑戦するチャンスは十分あります!」と裕典さん

(写真/「大久手山本屋 香港大圍店」の写真は大久手山本屋提供、青木さんファミリーは永谷正樹さん撮影。他は筆者撮影)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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