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韓国大統領への「出直し」逮捕状、執行時期めぐる疑心暗鬼と「流血」の懸念 #専門家のまとめ

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
9日、2度目の逮捕状執行を受け警備を強める韓国大統領官邸(写真:ロイター/アフロ)

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する逮捕状が再び発付され、合同捜査本部が「いつ執行するのか」に韓国国内の関心が集中している。大統領官邸周辺には鉄条網が設置されるなど複数の防御線が構築されているのに対し、「大統領逮捕」を狙う合同捜査本部側は「今回が最後」という覚悟を表明し、周到な準備を進めている。憂慮されるのは、大統領の身柄確保をめぐる「流血の事態」だ。

ココがポイント

合同捜査本部は7日、ソウル西部地裁が尹氏の拘束令状を新たに発付したと発表した。有効期限は明らかにしていない
出典:朝日新聞デジタル 2025/1/7(火)

大統領が逃亡したとの疑惑が一時浮上した。ユーチューブ動画が発端で、野党議員も尹氏が公邸を出たとの情報があると主張
出典:共同通信 2025/1/8(水)

大統領警護庁の朴鍾俊庁長が10日午前、警察に出頭した(中略)逮捕状執行を妨げたとして、特殊公務執行妨害の容疑
出典:毎日新聞 2025/1/10(金)

大統領警護庁の朴鍾俊長官は崔相黙大統領代行に辞表を提出した
出典:ロイター 2025/1/10(金)

エキスパートの補足・見解

 合同捜査本部が前回、逮捕状執行を試みた際、大統領警護庁が激しく抵抗することは予想されていた。だが同本部側は人員配置を含め十分な態勢を取らずに官邸への進入を試み、跳ね返された。

 今回は、その失敗を教訓に周到な準備を進めている。一つには、逮捕状の有効期限を明かさず、着手のタイミングをわかりにくくしている。

 もう一つは、総合的な圧力で防御線を突破しようとしている点だ。大統領警護庁(700人程度)が鉄条網や大型バス、「人間の壁」で要塞化を進めているのに対抗し、合同捜査本部側は首都圏4つの広域捜査団から刑事機動隊長、麻薬犯罪捜査隊長らも動員し、その数は千人余りに上るといわれる。

 警護庁職員が抵抗する場合の現行犯逮捕もちらつかせている。すでに警護庁トップを特殊公務執行妨害容疑で出頭させ、辞表提出に追い込んでいる。今回は逮捕状執行は緻密に計画されているようだ。

 大統領官邸付近では弾劾の賛成・反対の集会が開かれ、にらみ合いが続く。治安を守るはずの捜査当局も二つに割れ、「着手」をにらみながら「戦闘」に備えているように見える。当局者から繰り返し「流血」という言葉が語られる。事態は極めて深刻といえよう。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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